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恐怖の大王は地に降り立ったばかり

「なに?」


 ワイズが聞き返してきたので、玲於奈はもう一度言った。


「うるせえって言ってんだよ! お前にあいつの何が分かるんだよ!」


 声帯を糸で操ることはできない。これは、正真正銘玲於奈がボロボロの身体で張り上げた声だった。


「あいつは俺と会ってからもずっと一人で戦ってた。なんでか分かるか? 俺ができなかったことを全部代わりに引き受けようとしてたからだ! ずっと頑張ってやってきたんだよ! それをクズだとか好き放題言いやがって。俺の恩人泣かせてんじゃねえぞ!!!」


 玲於奈は足の裏から少しずつ伸ばしてアスファルトの下に潜ませていた鋼糸を一斉に持ち上げると、巨大な石の塊を雨あられとワイズにぶつけた。

 ワイズはそれを鼻で笑い、水龍を使って簡単に石を払いのけていく。

 しかし玲於奈はそれだけで攻撃を止めるつもりはなかった。敵の舌がふさがっている間に、アスファルトをはがした糸を操り、ワイズの皮膚の下に入り込ませようとする。


「ぬぉおお」


 それに気が付いたワイズがスキルを使い、筋肉を膨脹させた。

 途端に筋肉に阻まれ、糸がそれ以上先に進まなくなる。


 剛力だと見ていた巴は思った。筋肉を大きく、固くすることで攻撃から身を護る技だったはずだ。

 負けじと玲於奈も力を入れる。


「おおおおおおおおおおお!」

「ぬぅわああああああああ!」


 力比べが始まり、両者の動きが止まった。

 ここで負けるわけにはいかない。あと少し、あとほんの少し押し込みさえすれば自分の勝ちなのだ。

 しかし数秒間拮抗した後、少しずつではあるが、玲於奈の糸が押し返され始めた。信じられなかった。相手のどこにそんな力が存在するのか。相対する玲於奈はまだ毒の継続ダメージを受けているのだが。

 一本、また一本と鋼糸が弾かれる。糸が筋肉に押し出されているのだ。


「くそったれ!」


 玲於奈は複数操っていた糸のうち、ひっそりと上に上げておいた糸を動かした。その先にはナイフが結ばれている。よく狙って、敵の背中に向けて一気に振り下ろす。

 タイミングは完ぺきのはずだった。しかし、直前で彼はわずかに目線を上に反らしてしまった。自分のナイフを見るためだ。落下地点に間違いなく落ちてきているか、それを確認するには目で確認するのが一番である。

 そしてそのわずかな目線の動きでばれてしまった。

 ナイフが刺さる直前、ワイズが顔を上げた。あっさりとナイフは舌で回収されてしまう。

 

「くっ……」

「わしを甘く見るなよ……!」


 そして半分ほどの糸が弾かれた時だった。


(来る……!)

「シハハハハ!」


 ついにワイズが身をよじって全ての糸を振りほどいた。そのまま玲於奈に向かってもう突進してくる。

 大きな口が眼前に迫る。玲於奈の手の平よりも大きな歯が並んでいる。その歯で何人もの骨をかみ砕いてきたのだろう。

 しかし彼が恐怖を感じたのは一瞬だけだった。


 彼は、今度は避けなかった。

 世界の時間が止まったようになり、ただスウッという音がした気がした。


「ぐぅうううわぁあああああ!」


 結果、玲於奈に噛みつく直前になり、ワイズは悲鳴を上げて悶えることとなった。玲於奈の身体をすり抜けて現れた刀がワイズの目に刺さったからだ。


「玲於奈どいて!」


 指示に従い、玲於奈はすぐさま大きく横にずれる。そして障壁で身を守った。


「はぁあああ!」


 やって来たのは力強い一閃。ほとんど間を置くことが無く、光の筋は爆発に移行する。


 ─ドォオオオオオン


 とんでもない爆風に周囲のすでに壊れていた家々や瓦礫が巻き上がった。玲於奈自身も砂埃と火炎の被害を受ける。障壁があれど、その隙間から入ってきたせいだ。

 しかしそれすらも気にせず、玲於奈は目の前の光を見つめていた。美しい光だった。一分の乱れも無く力が一点に集中している。その光景は、幾何学模様を連想させた。



 爆発が収まると、被害の中心に手足の一部が炭化したワイズが横たわっていた。腹の下の黒球が露出しているが、一応まだ息があるらしい。


 巴が腹から大量の血を流しながらふらふらとしていた。


「おい、大丈夫か!?」


 急いで駆け寄って治療を使う。

 彼女がどうやって立ち上がったのかと思っていたが、自ら腹を斬って鉛水を肉ごと切り落としたらしい。無茶をする。


 玲於奈もそろそろ限界だったが、生命と治療の同時使用で今は一時的に体調を回復していた。

 ある程度まで傷を治すと、巴はもういいと合図をしてワイズに近寄った。


「ここまでか……」

「そうだね。でも最後に聞いておきたいことがある。このまま願いを叶え続けて神の力がなくなったら、世界はどうなるの?」

「シハハハハ、知れたことよ。わしらを押さえつける忌々しい封印は消え、地球で荒玉たちの覇権争いが始まる」

「回避する方法は?」

「知らんな。こんなことは初めてで、次の神が生まれるのがいつになるのか誰にも分からん。確かなのは、近いうちに封印は必ず消えるということだ」

「あっそ」


 巴が黒球に刀を突き立てようとすると、ワイズが一際大きな声で叫んだ。


「わしらは負けぬぞ! まだあまたの分体とエボリューションたちがいる! あいつらが必ずや他を圧倒し、この世界の頂点に君臨することであろう! 恐怖せよ! 絶望せよ! そして我らを称えるのだ!」


 その言葉を最期にワイズは白い砂になって消えた。



 二人とも疲れ切っており、今語られたことについてとても話す気にはなれなかった。

 玲於奈の胃袋から取り出した水を浴びるように飲むと、すぐに巴はスマホを取り出し、変える準備をした。


「じゃあね、玲於奈。お前とか言ってごめん。助けてくれてありがとう」

「ああ、またな」


 二人は短い挨拶を交わすと、DCWから脱出した。



 こうして、二人の長かったナエドコ退治は終了した。


「俺の恩人泣かせてんじゃねえぞ!!!」この作品で一番好きなセリフです。


評価・コメント等お待ちしておりますm(__)m

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