アズキ隊員、『暴れん坊のアライグマ』君を発見する?
今日の『逆さ虹の森』の担当は、アズキ隊員です。
今日も見落としがないようしっかり警戒しながら見回り中です。すると、『森を半分に分ける大きな川にかかった吊つり橋』の近くで、なにやら難しい顔をしながら頭をひねっている『アライグマ』を発見しました。
ちゅん、ちゅん、ちゅん
パタパタパタ
「……こんにちは、アライグマさん。初めまして。私の名前は『アズキ』。この森の先にある岩山で暮らしている『ちゅん鳥戦隊』の一員です。そんな所で難しそうな顔をしながら考え込んでどうしたんですか?」
さすがアズキ隊員、しっかり自己紹介するのも忘れずに平然とあいさつをして任務を遂行していきます。
「え? え? な、なんだちみは! ぼ、僕に気安く話しかけてったばねーどお! なんなんだよ、まったくう。びっくりしたでねえかあ」
微妙な受け答えをするアライグマさん。アズキ隊員に突然話しかけられてびっくりしてしまったようですね。
「突然失礼しました。この森を見回っている時に、なにやら難しい顔をしながら考え込んでいるアライグマさんを発見したので話しかけさせていただきました。
何か変化があれば飛びつけて確認する。それが私達ちゅん鳥戦隊の任務です!」 バサッ!
ちょっと格好つけて右手を左斜め前に挙げてポーズを決めるアズキ隊員。やはり本人は心から格好いいと思っています。
「え? え? そ、そうなんだ。そんな任務もあるんだね? それで僕に話してかけてきたんだあ。へー。あ。じゃあじゃあ、僕もしっかりあいさつしなきゃだね。うん。ぼ、僕は『アライグマ君』って呼ばれてます! よろしくお願いします!」
満足そうにポーズを決めるアズキ隊員を見て、そこには何も触れずに話を進めるアライグマ君。大人です。しかもさっきの受け答えはなんだったんでしょうか。やけに素直です。
「はい。アライグマ君ですね。よくできました。こちらこそよろしくお願いします。それで、どうしたのですか? 難しい顔してましたよ? 私に協力できる事なら話を聞きますがどうでしょうか?」
特に気にするでもなくアライグマ君を素直に受け入れ、しっかりていねいに話を進めるアズキ隊員。そんな素直な所がアズキ隊員の良い所? 今回は素直対決なのでしょうか。気になります。
「はい! ありがとうございます。それなら聞いて下さい。実は、この通り『今にも落ちそうなくらいボロボロになっている』この『吊り橋』のせいで、下にある『大きな川』に下りられなくなっているんです。
僕は何でも食べるけど、たまには川の魚も食べたいんです。もうずっと食べていないから。それでイライラしちゃって、みんなから『暴れん坊』なんて言われて困ってたんです。はあ」
またしても素直に全てを打ち明けるアライグマ君。『暴れん坊』なんて呼ばれてたんですね。意外じゃないですけど? 見た目と違って危険な生き物認定されてますからね? 害獣認定です。
驚きの新事実? いえいえ、本当の話。正しいものの見方です。被害者の間では?
でも、このアライグマ君は大丈夫。素直で健気なアライグマです。間違いない! だからすんなり話が進みます。グッジョブです! 2人とも?
(今回も『いい仕事してます。よくやった』という意味ですよ?)
「そうなんですね。そんな『暴れん坊』なんて言われたら、確かに困ってしまいますね。やれやれです。でも、何をしたのかは知りませんが、みんなからそう言われてしまうような行動をしたアライグマ君もいけないと思いますよ? そうですよね? ちゃんと反省してますか?」
理由を聞いて納得するアズキ隊員。アカ隊員からこの吊り橋の話は聞いていたので、この状況は理解しています。しかし、それよりも気になってしまったアライグマ君の行動を想像しながら、反省しているかどうかの確認をします。
「うっ。は、はいぃ。反省はしています。ごめんなさいです」
しゅんとしながらアズキ隊員に謝るアライグマ君。素直なのは認めますが謝る相手が違います。
「ふふふ。よくできました。では、その気持ちを『暴れん坊』って言われた相手にきちんと伝えましょうね? 今のアライグマ君ならできますよね?」
さすがアズキ隊員です。素直に反省していると認めたアライグマ君を褒めつつも、しっかりみんなに謝るように伝えます。
「は、はい。分かりました。僕が悪かったのは間違いないですから、しっかりみんなに謝ります」
やっぱり素直な2人は話が早くて助かります?
「そうですね。そうした方がいいと思います。この吊り橋については、話は聞いてます。今、色々と打ち合わせをしていて、私の『ご主人様』を連れて来てなんとかしてもらおうかと考えてます。
すぐには難しいかもしれませんけど、『ご主人様』ならこの橋をなんとかしてくれると思っています。だから、アライグマ君もあまり期待しないで期待して待ってて下さい。ふふふ」
素直で優しいアズキ隊員。同じように素直な返事をするアライグマ君を見て、やはり早くご主人様に来てもらえるようにしたいと思い、アカ隊員に聞いた『期待しないで期待して待ってて』というアズキ隊員にとっては『面白くもなかった』言い方をしてみるのでした。キツネ隊員にはウケたって聞いたので?
「はい! 分かりました。『あまり期待しないで期待して待って』ます! よろしくお願いします!」
コテン
そんなアライグマ君の返答を聞いて、不思議そうに首を傾けるアズキ隊員。……なんの反応もありません。素直にお願いされました。勇気を出して言ってみたのに。少し残念です。やっぱりアライグマ君にも、この言い方は特に面白いとも感じなかったようですね。自分といっしょです。
「はい! 私も頑張りますから、アライグマ君も頑張って下さいね! この橋が直るまでは、ここにはあまり近づかない方がいいかもしれません。危ないですからね」
すぐに気を取り直し、色んな意味で自分も頑張ろうと思うアズキ隊員。やはり素直です。立ち直りも早いみたいです。自分でも面白いとも感じてなかったのですから当然です?
「はい! 分かりました。あまり近づかないようにします」
『暴れん坊』アライグマ君はどこに? 暴れん坊の欠片も見当たりません。素直ないい子です? アズキ隊員もそう思ったようで、そこも素直に質問します。
「ふふふ。私にはアライグマ君が『暴れん坊』なんて言われてるなんて想像できないです。こんなに素直なのに。なんででしょうか?」
「え? そうですか? 僕はそんなに暴れた記憶もないですけど、なぜか暴れん坊なんて言われてるんです。なぜでしょう?」
質問に質問で返すアライグマ君。これはやってはいけません。でも、素直なアライグマ君ならではの素直な質問です。
「えっと。なんででしょうね? 私が質問したのですから私にも分かりませんよ? ふふふ。でも、もしかしたら最初のあいさつの時の話し方がおかしかったですから、それでかもしれませんね」
「え? え? 僕がそんなおかしな話し方してましたか? えっと、なんだろう?」
「ふふふ。『な、なんだちみは!』とか『僕に気安く話しかけてったばねーどお!』とか言ってましたよ? あと『まったくう。びっくりしたでねえかあ』とか? 今とは全然違います」
「……。えっー! そんな事言ってただかあ! 僕ってばー! え~~! うっそだばあ! 恥っずかしっだらあ! 僕がそんな話し方するはずが、って……。言ってました。…………これですか?」
「ふふふ。はい。それです。もしかしたらその話し方が『暴れん坊』なのかもしれませんね? 話し方が暴れてます」
…………冷たい空気が流れた気がします…………
アライグマ君の中で? どうやら、このアライグマ君、少し興奮してしまうと話し方が暴れてしまうみたいです。アズキ隊員のあいさつの時も、突然話しかけられてびっくりしていたみたいですし?
そういう人もいるのかもしれません。落ち着いてゆっくり話せば問題はないはずですから、今後はなるべく深呼吸してから話すようにするとかね? 対策は色々ありそうです。
暴れん坊アライグマ君。将軍になる日はくるのかな?
…………冷たい空気が流れた気がします…………
間違いない。
アライグマ君の中で色んな思いがある事も知らずに、落ち着いて話せば何の問題もないと判断したアズキ隊員は、軽くその事を説明し、いつものようにしっかりていねいなあいさつをして、さっそうと飛び去っていくのでした。
「それではアライグマ君。またお会いしましょう。ごきげんよう!」 パタパタパタパタ
その後、毎日取っ替え引っ替え現れるちゅん鳥戦隊によって、アライグマ君の『暴れん坊』は少しずつ改善していくのでした。小さな事からこつこつと? 小さな小鳥のちゅん鳥戦隊だから上手くいったのでしょうか?
そうです。それもあるかもしれませんが、アズキ隊員のように素直でていねいな言動で接すれば、大概のことはなんとかなるものです? そんな気持ちがアズキ隊員にあったのかどうかは分かりませんが?
ぱっと見、ちゅん鳥達の違いが分からずに、みんなアズキ隊員だと思って接していたアライグマ君。さすがにみんな話し方が違うので途中で気づいたようですが、それでもみんなちゅん鳥戦隊の一員です。それぞれに特徴もクセもありますからね。あまり気にしちゃいけません?
ちゅん鳥戦隊達もちゅん鳥戦隊達で、『暴れる』話し方になるアライグマ君で遊んじゃいけません? 改善するようにお手伝いをするのです。細かい事は気にしない。話し方や態度も人それぞれです。その違いを受け入れて楽しめるようになってこその大人です? みんなも違いの分かる大人になって下さいね?
今日もまた、ちゅん鳥戦隊はそれぞれにあった出来事を報告し合ってから安らかに眠るのでした。これも『ちゅん鳥戦隊のルール』の1つだからです。情報の共有は大切ですからね。
これにて任務完了です。おやすみなさい。
…………つづく
次回、最終回『ちゅん鳥戦隊、逆さ虹の森にご主人様を連れていく?』
お楽しみに!