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24 安息の地を得る魂たち

 ルテリアさんはそこで深呼吸。

「ああ、すみません。義理の息子を責められて珍しく感情的になってしまいました」

 いつものルテリアさんに戻る。

「まだ、義理の息子じゃないです……」

「細かいことはいいじゃない。もう同居しているんだし」

「城で同居って言われても。話進まないんで、すみませんけど黙ってもらえますかね、ルテリアさん」

「えー、ひどいわー」

「そういうところです」

 山岡も呆然としていた。

「それが、戦争……」

「そうだ。お前だって俺に向かって魔術ぶっ放していただろう、()()()()()()な」

「だって、栗原だって知らなくて……」

「それでも、だ。俺はグンダールに向けて明確に敵意を向け、グンダールの殺意を一手に引き受ける。なぜなら、俺はヴァーデンの守護者(グァース)だからだ。だから殺意を向けられたからといってやり返す、だけでもないぞ。今みたいに和解の道を探ろうとすることもある」

「ところで、和解出来ない場合はどうするの?」

 相田が聞いてきた。

「グンダールに送り返す、が……俺あまりそれしたくないんだよね」

「えー、なんで?」

「あいつら、俺に接触した可能性のある異界の人は抹殺するんじゃねえかなあと思ってる。あくまでも俺の妄想だけど。だいたい俺とガルが脱走した時、俺らをおちょくりに来てた4人、それも縛って転がしておいただけの奴らを俺らが殺したことにして処理しちゃう奴らだからやりかねないかなーと」

「え……栗原殺してないの?」

「なんで殺さなきゃいけないんだよ」

「逃げるのに邪魔だから」

「あー、なるほどなー。イインチョにも話したんだけどさ、千葉、長谷川と俺って一緒に飯食ってるの見たことある?」

 しばらく考える相田。

「ないなー」

「だろー。そんな程度の奴が命を掛けて脱走の手引きっておかしいだろ?」

「あー、うん……」

 相田はだんだん納得してきたようだ。この子割とスパッと切り替えられるタイプだな。

 問題は大山と山岡。

 山岡はレグラスを殺した俺と、その俺を殺そうとした自分とで悩んでいる。

 大山は自分が殺人に加担していたという事実を再認識したようだ。震える声で聞いてくる。

「ねえ、栗原くん。ひとつ、いいかな?」

「ひとつといわず、何個でも」

「あなたは、なぜ人ではなく魔族を選んで、人を殺したの?」

「ふむ……まず訂正させてもらおう。魔族も人、だ」

 俺の声に大山が目を伏せる。だが人族以外いないグンダールにおいてそうそう常識が壊れることもない。

「すまん、これは俺の八つ当たりだ。日本人の常識ではホモ・サピエンス・サピエンス以外の人族を理解しろと言っても無理だよな。俺も最初は戸惑った。

 ヴァーデンを選んだ理由。恩があるから、がスタートだな。

 俺はグンダールとルヴァートの悪意に晒された。絶望の中手を差し伸べてくれたのが、ヴァーデンの王、ガルだ。

 受けた恩は返す。俺の命を救い、そして俺がヴァーデンでの生活で困らぬようにグァースの称号を与えてくれた恩。ならば俺はグァースとして生きる。まずはそう決めた……あ、ルテリアさんいるんだった。あーうーあーえーと今のナシ。忘れて忘れてー忘れてったらあ」

「あら、聞かれたらまずい?」

「そりゃあ、ねえ……義理の母になる人にはちょっと聞かれたくないかなあ」

「じゃあ、フィーラと交代する?」

「そっちのほうがもっとイヤです。多分恥ずかしくなって首くくります」

 大山がクスクス笑う。相田も。

「栗原ってさ、クラスでいつもポツン、ってしてて楽しいのかな? って思ってたことあるんだよね」

 相田がしみじみ言う。

「ほら、あたし龍ちゃんと付き合い始めたじゃん。龍ちゃん栗原から取っちゃって悪いなーって思ってたんだよね」

「いや、まあ児島とはダチだからさ。可愛い彼女ができたんだったらしょうがねえよ、って感じだよ。気にすんな」

「まああんまり気にしてないんだけど」

「えーひでえなあ」

「でもね、今の栗原、幸せなんだと思う。それはわかる。クラスにいた時、生きてて楽しかった?」

「……相田のくせに生意気だこのっ」

 軽くデコピン一発。

「なーにすんのよ栗原」

 ケラケラ笑う相田。

「ところで、だ。お前ら三人が取れる選択肢はいくつかある。

 1.グンダールに戻り、再度俺と対峙する。これはさっきも言ったとおりおすすめしない。

 2.ヴァーデンに残り、俺の保護下に入る。

 3.ヴァーデンに残り、戦場に出る。

 おすすめは2だ。この場合、この城に滞在するか、あるいは城下町に暮らしてもらう。多分それくらいの金はガルが出してくれるだろ。3を選んだ場合、俺がこき使う。1なら国境までは送ってやる」

 山岡は考え込んでいる。大山が手を上げる。

「はい、大山美樹くん」

「栗原はこれからどうするの?」

「質問が曖昧だな。とりあえず直近の目標は二度とヴァーデンに手を出そうと思わないようになるまでグンダールを叩き潰す」

「そうしないとフィーラと結婚できないもんねー」

「ええいうるさいルテリアさん!」

「えー、かまってよー退屈だよー」

 近寄ってきたルテリアさんの背後を山岡が取る。魔力の高まりが見える。

 リミッターを意志の力で無理やり飛ばし、魔術霧消(カウンター)発動。高まった魔力が散らされる。瞬間移動(ブリンク)で後ろへ移動。ルテリアさんを掴んでいる山岡の手首を()()掴む。締められ、ルテリアさんを解放したのを確認して、離れる。

「山岡、やるならさっさとやるべきだった」

 ガクガクと震え、しゃがみ込む山岡。清拭用の桶が近くにあったので喉から上がってきて口の中に溜まっていた血を吐き出す。リミッター強制解除の代償。

「お前、俺に殺されるように仕掛けただろう。冗談じゃない。お前の後悔を俺に押し付けるな。俺はもう自分のことだけでいっぱいなんだよ」

「うわああぁぁぁぁ」

 大声で泣き出した山岡。もう限界なのかもしれない。気絶(スタン)増強(ブースト)。倒れそうになったところを抱きかかえベッドに寝かせる。

「リッザの竜殺し殿に連絡を。一人亡命させてくれって」

「そうね、それがいいかもしれないわ」

「……相田、大山、お前らはどうする?」

「リッザって? 竜殺し殿って?」

 相田が聞いてきた。ああ、そうか。お前らグンダールだとリッザは直接国境を接していないから話題にならないよな。

「リッザはヴァーデンの隣国だ。竜殺し殿はそこの英雄。“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”のファーレン殿。こないだ殴り合って親友になったと思うから、亡命の受け入れくらいはしてくれると思う」

「そういえば、私の質問の途中だった。曖昧だって言ってたよね。具体的には栗原はこれからクラスメートに対してどうするの? でいい?」

「出来る限り説得し、救う」

「なぜ? クラスで浮いてたのに」

 大山の疑問はもっともだ。

「俺にもよくわかっていない。ただ一つはっきりしているのは俺らの人生をめちゃくちゃにしたグンダールのルヴァート、こいつの嫌がることならなんでもやる。手駒になってるクラスメートを奪還するのもその一環だ。最後には全員でぶん殴ろうぜ」

 相田がケラケラ笑う。

「あー、そりゃいいわー。私も龍ちゃんと会いたいし、ここに残って栗原の手伝いでもするかなー。でももう戦争はやだしなあ……大山ちゃんどうする?」

「……ここに残る、けど……戦場は、もういや」

「そうか、わかった。じゃあ二人とも2.だな……ルテリアさん、お願いできますか?」

「んもう、命の恩人の義理の息子のお願いじゃ断れないじゃない。このままこの部屋を使うといいわ。細かいことはあとでいろいろ教えてあげる。あと、ちょっと待っててね」

 ルテリアさんが部屋を出る。しばらく待ってると細いバングルを三つ手に戻ってきた。

「さっきヤマオカさんがあんなことをしでかしたので、これを付けてもらうことに同意してもらっていいかしら?」

 二人に細いバングルを差し出す。

「付けていると魔術を阻害します。頑張れば実行できるかな……そんな感じ。外すと警報がなります。信用していないわけじゃないけど、でも、ね。ごめんね」

「あれ? 俺そんな処置なしに信用されてたけど」

「そりゃあ、あれだけフィーラにベタ惚れだったから、ねえ?」

「あれー? そうだっけかなー? 最初フィーラさんが一目惚れっつーかルテリアさんがそそのかしたんじゃなかったかなー?」

「そうだったっけ? 昔のことは覚えてないわー」

「まだ1ヶ月くらいしか経ってませんよ何言ってるんですか」

 俺らの掛け合い漫才を聞いて大山、相田がクスクス笑う。

「わかりました。そうですよね。いきなり信用しろって言われても難しいですよね。お受けします。相田もいいよね?」

「うん、いーよ」

 二人はバングルをつける。

「あー、これかわいー」

 相田が喜んでる。いいのか?

 【解析】してみる。


〈解析結果〉―【魔術阻害】【警報】


『魔術阻害は魔術実行時に追加の集中と制御を要求する』

『警報は所定の手順に従わずに着用を停止すると大音量で警告する』


 なるほど。魔力の消費が増えるのではなく制御が面倒になる。そりゃ頑張れば使えるけど疲れるというところか。

「ところで栗原、高木さんは?」

 大山が真面目な顔で聞いてくる。

「あー……隣の部屋、だ。状態があまり良くない。お前たちのお陰で気がついた方法でこれから対処するが……多分、お前たちはまだ会わないほうがいい」

「え……なにそれ! なんで! どうして! 何したの!」

「俺は、何も。強いて言うなら安静措置だけ。だがルヴァートに好き勝手されたままのイインチョじゃねえ、と俺は信じている」

「なんで会わないほうがいいの?」

 相田の素朴な疑問。丁寧に説明したくはないのでぼかしながら答えることにする。

「お前ら、俺に対してくねくねしてたの、覚えてるだろ?」

「……うん」

 二人が赤くなる。

「イインチョ、あの状態でさらに今自分がおかしいことを認識して抵抗している。しかもお前らより強く思考をいじられている気がする。狂乱に近い状態なんだよ。これ以上は……」

 二人は俯いて、頷いた。

「はいはい、暗い話はここまでね。ご飯、食べない?」

 ルテリアさんの提案。

「ガッツリお肉とお上品なお料理。どっちがいい? あ、医療兵士つけてヤマオカさんリッザへ搬送させるための手続きしておくからケイタさんは準備が整うまでここでお留守番ね。あと自由意志ないときに悪いけど、これ付けちゃう。危ないから」

 最後のバングルを山岡に嵌めて、ウィンクした。

「じゃ、よろしくね、ケイタさん」

 俺はいつもヴァーデンの人たちに助けられ、生きている。

 深々と礼をした。

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