23 様々な事実に翻弄される魂たち
仮説を立ててみる。
好意増幅という何かの仕掛け。これは当人が持つ好意をさらに増幅させる……ということか。あの三人娘は、じゃあ、俺に対して好意を持っていた?
そう言えばあの再測定のとき、俺のアレを凝視してた連中だったと思いだした。俺に関して異性としての興味あり、ということか。なるほど。
あ……イインチョは視線を逸していたな。ちょっと仮説に揺らぎが。
「ケイタさん、準備できました」
ルテリアさんが呼びに来た。
「はい、ありがとうございます。ではまずいちばんちっこいのからやりますね」
地下室へ降りる。半裸のまま縛られて毛布の上に転がされた相田。まだ気絶している。
毛布を使い再度簀巻き。そのままお姫様抱っこで連れて行く。
部屋に入ると湯桶とタオルが複数枚。まずは床の上に体を置いて毛布を解く。
「あら……これは困ったわね」
ルテリアさんが相田を見て考え込んでいる。
「んー、流石にこのサイズだとちょっと……。まあまずは清拭しましょうか」
手早くルテリアさんが相田を拭いている。その間に清潔なタオルを一枚、少し離れたライティングデスクの上に分けて置いておく。
ルテリアさんがチューブトップ形状の下着を着せる。あー、うん、胸部装甲の都合でなんというかズレそうなのね。そのへんはまあ動きでどうにかカバーしてください。
【移動】で【好意増幅:対象クリハラケイタ】をタオルに移動させる。
〈移動結果〉―成功
念のため解析を行い、状態異常がなくなっているのを確認する。しかしこの名前、どうにかならんものか。
下着が変わったので無気力は失われるが、まあ、大丈夫だろう。
次に山岡、そして大山を連れてきた。緩めのチューブトップ形状と言うかそういう感じなのでふたりとも大丈夫は大丈夫だった。ただ、大山、ぱっつんぱっつん。形がはっきりわかる。山岡もちょっと危ない。
とはいえそれにときめくような俺でもなく。
誰から起こすかを考える。このメンバーで一番話が通じやすそうなのは大山だろう。
大山を軽く揺する。
「んー。誰?」
「俺だ。栗原慶太だ」
「えー、栗原がなんでいるのー」
「お前を助けたからだな」
ぼーっとした感じで大山が体を起こし、自分の姿を確認。薄手のチューブトップ。眼の前に俺。
「きゃーーー!」
引っ叩かれました。
この騒動で相田も山岡も目を覚ます。警戒心バリバリ。そりゃあ、まあ敵だと思っていた魔族のルテリアさんがいて、俺がいる。
イインチョの話によれば俺が脱走の手引きをしてもらった四人を殺して逃げてる血も涙もない極悪人、ってことになってるんだけど、でもまああの好意増幅のせいで更にわけのわからない思考を押し付けられて大混乱、ってことのよう。
「あー、うん、まずこちらには敵意がないというところの確認からいこうか」
ルテリアさんを後ろに下げさせて、俺が前に立つ。大山がシーツを胸に抱いて前に、後ろに相田と山岡をかばうような形で立っている。大山が代表ってところか。
「……なんで?」
「そりゃあ、助けたいからここまで連れてきたわけだし。もちろん途中酷い扱いをしたのは認める。それについては謝罪するけども、こっちも殺されかけてたんだからそこはお互い様、ということで」
大山はこちらを睨みつけ、相田はおどおどと見ている。山岡が割と普段どおり。
「助ける気がないなら、その場で殺ってる。わざわざ連れ帰るほうが面倒くさい」
「なるほど」
「あと、気になったこともある。お前ら、ルヴァートになにかされなかったか?」
「……さあ?」
「質問を変えよう。お前ら、俺に会ったときのあれ、あれはなんだ?」
赤くなってもじもじする相田と山岡。キッとこっちを睨む大山。
「あれはお前が私達が気を失っている間になにかしたんだろう!」
「しないよ。面倒くさい」
「……え?」
呆然とする大山。
「なにかするつもりだったらそんな面倒なことしないでそのままヤってるよ。縛り上げられてただろ、お前ら」
「あ……」
「んで、下半身に違和感あったか?」
「……ない」
「今もないだろ」
頷く大山。
「俺は、多分お前らを選抜してルヴァートが意識操作したんじゃねえかなあ、って疑っている。俺の再測定の時、モロ見ていただろお前ら」
三人が下を向く。いや指摘されて恥ずかしがるんなら見るなよ。
「そういう意味で栗原慶太に興味のある、戦士として育成済みの女を選抜して意識を捻じ曲げて俺に押し当てた、ってのが俺の予想」
ライティングデスクのタオルを指差す。
「ルヴァートの仕掛けをあのタオルに移した。あの手の精神に関わる操作はおそらく指定部位への直接接触で発動する。左手で掴めば多分また発動するはずだ。大山、持ってみろ」
警戒しながら移動する大山。割と素直ね。
タオルを掴んで固まる。こっちを見る。
「あー、慶太ぁ、大好き大好きだーい好きー」
さすが三倍。立ち上がりも三倍。効果も三倍。相田と山岡が顔を見合わせてから、こっちを見る。
「んー、美樹、タオルなんてその机の上に置いてこっち来なよ」
「うんっ、そうするね」
タオルを捨てた途端、固まる大山。
「なに、いまの、なに……?」
「それがルヴァートの仕掛け。名称ひでえぞ。【好意増幅:対象クリハラケイタ】だ」
「これをあんたが作った可能性は?」
「お前ら、俺に対するその感情傾向、戦場で俺に出会ってからだったか?」
三人は顔を見合わせ、沈黙する。
「そういうことだ。ルヴァートは出陣前にお前らの左手に何かを施した。そうだろう?」
「……そうね、事実なんだわ……わかった。敵意がないというのは認めるわ」
「そりゃどうも。では次のステップだ。とりあえずお前ら、今、どうだ?」
「どうって?」
「……あー、俺に抱かれたいとかスキスキスキーとか、そんなのはないよな?」
「えーと……」
言いよどむ大山。俯く山岡。首をかしげる相田。
「あー、まあ、相田は児島と付き合ってるんだもんな」
「あ! あ! あーーー! 秘密にしてたのにー」
「いや、デートしているのは皆知ってたろ。それ以上のことは俺は知らん。仮に知っていても知らんことにするよ。児島は俺のツレだぞ」
相田はちょっと考えた後、にかっと笑った。
「そういうところは栗原らしいっていうか、かっこいいんだよね」
「おう、俺はかっこいいぞ。だが、惚れるなよ。すでに俺には婚約者がいるからな」
「ええええーーーーー!」
大山、山岡の合唱。
「なんだよ、俺にそういう人がいたらおかしいかよ」
「前からそんな気はしてたんだよね……でも婚約者って言い切るかなフツー……」
ブツブツ言う山岡。うんうん頷く大山。
「は? なんの話だ?」
「ねえ、栗原。婚約者って、もしかして……」
「もしかしてって……お前ら知らん人だぞ。魔族だし」
「はああぁぁぁぁ⁉」
三人の大合唱。うるせえ。
「も、もしかしてもしかして……その人……?」
山岡がルテリアさんを指差す。失礼なヤツだな。
「あらあら、うふふふふ」
頬に手を当て嬉しそうに笑うルテリアさん。絶対引っ掻き回す気だこの人。
「ルテリアさん……話がややこしくなるからお願い黙って」
「えー、やっと皆さんとお話出来ると思ったのに。ケイタさんったらひ・ど・い・人」
人差し指で脇腹をグリグリしながら言われる。
「やめんか! ガルに言いますよ! まったくこの人はもう……」
ため息を付いてから三人に向き直る。呆然としている三人。
「ルテリアサリーンヴァーデン。お前たちを清拭して着替えさせてくれた人。俺の婚約者の母」
ルテリアさんを紹介する。ルテリアさん優雅にお辞儀。
「はじめまして、異界の勇者様。ルテリアサリーンヴァーデンですわ」
こういうところはさすがだなあ、と思うんだ。こういうところは。
「ルテリアさんは、この国の王ガルグォインヴァーデンズィークの奥さん……ってことはお妃様になるのかー考えたことなかったなー」
「ケイタさん……それひどくありませんか?」
「ならばもう少しこうお妃様らしく振る舞ってほしいです。それはガルにも言えるか……」
おいてけぼりの三人が呆然としている。
「あのさ、栗原?」
山岡が復活。
「おん?」
「もしかして、栗原すごく偉い人?」
「……どうなのかなー? 一応ヴァーデンの伝説の守護者ってことになってる。グァースという称号持ち、だ」
「え、あんたが?」
山岡が固まる。
「あんたが、レグラス先生を、殺した……」
「レグラス……なんでお前がその名前を?」
「ウチらの訓練見てくれていた先生。黒い戦士から私を逃がしてくれたけど、かわりに……あんたが! あんたが! あんたが! あんないい人を!」
胸ぐらを掴まれ、どんどんと握った手で叩かれる。
「それが戦争ってものですわよ。ヤマオカさん」
動きを止める山岡。
「ましてやルヴァートは、おそらくあなた方を兵士以下の捨て駒、って考えているでしょうね」
ルテリアサリーンヴァーデンの冷たい指摘。
「そうじゃなきゃわざわざ精神操作をしておいて、最悪捕まったらケイタさんが溺れてフィーラと別れるような、そんな仕込みをするわけがないわ」
普段、ルテリアさんは怒らない。そりゃあ、まあ悪ふざけの結果叱られることはあるが、こんな怒りをあらわにしたルテリアさんは初めてだ。
「私達は人族に比べれば遥かに長寿で、かわりに子どもが産まれにくい種族です。
私の娘、フィーラルテリアヴァーデンは67、息子のディーガルはやっと二つになります。それくらい生まれにくいのです。
そういった背景もあって争いごとは好まない、平和を愛する種族です。
私達ヴァーデンは資源にたまたま恵まれています。その豊かな資源に潜在魔力性能を利用した加工品を輸出し、周辺の国とは友好な関係を築いてきました。
グンダールは95年前に革命で成立した新しい国。我々は旧来の人族の国と同様に同盟を結び、緩やかな関係を成立させました。完全能力主義という少し野蛮な社会制度ではありましたが、今まではいい関係であったと思っています。
おかしくなったのはここ数年。外交文書のサインにルヴァートの名前が出始めてからです。
私は、あの魔術師長ルヴァートという男が危険だと確信しています。
歴史にのみ残されていた異界召喚を復活させ、実行した男。人を人とも思っていない傲岸さがなければ実行できない魔術を平然と実行した男ですよ」
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