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多々木さんの受難  作者: 大原英一
第三章 勧誘しまっしょい
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後輩のユダ

 幸か不幸か、オレはイエスの弟子のなかでも「上級生」扱いされている。

 ほかの上級生だとペテロのおっさんやヤコブ兄さんがいる。

 あと、正式に弟子ではないが、マリアも上級生として見られている。教会でのスピーチが別格に上手いし、なにより彼女はイエスにとって特別な存在だった。どう特別だったかは、誰も知らない。

 そういうわけで、上級生同士、いつもおなじ面子で行動することが多かった。

 ヤコブ兄さんだけは別で、彼は他人と一緒に行動することを極端に嫌がった。まあ、彼には彼なりのポリシーがあるのだろう。

 なので、オレは自然マリアとペテロのおっさんと一緒にいることが多かった。逆に言えば、おなじ弟子でも「下級生」とはあまり接点がなかった。

 イエスの弟子が正確に何人いるのか、オレは知らない。おっさんに聞いたら、一二人くらいじゃない? という答えが返ってきた。

 くらい、ってどういうことだよ。アバウトか。とにかく、教会で顔を合わせても名前がわからない弟子が何人かいた。


 オレは自慢じゃないが人見知りするほうだ。

 そもそも、この世界に途中から転生してきたオレにとって、どうしても周りは異邦人ストレンジャーばっかりだ。心理的な距離感がハンパない。

 下級生にもすすんで声をかけていけたらと思うのだが、どうしても、どこかでボロがでることを恐れてしまう。ダメだなー、こんな先輩……。

 下級生のなかでも実力が認められてくると、教会でスピーチをする機会が与えられた。

 その日、ひとりの後輩が人びとの前で話をした。彼はユダと名乗った。

 ユダ? 裏切り者の? いや、たぶん同名の別人だろう。いやー、どうかな……主は人が好いから裏切り者さえもお赦しになるかもしれない。

 めずらしく興味を持った。というのも、オレのつぎのスピーチで裏切り者ユダが登場するからだ。

 いろいろごちゃごちゃと考えているうちに、ユダ君のスピーチが終わってしまった。オレは勇気を出して彼に話しかけてみた。


「きみがユダ君かい」

「あ、ヨハネさん。……お加減はいいのですか」

 彼はハキハキとしたしゃべり方の好青年だった。

「うん。残念ながらきみのことは憶えていないけど。……ちょっと聞いていいかな」

「なんです?」

「まさかとは思うけど、きみ、裏切り者のユダじゃないよね」

 すると彼は吹き出した。

「やだなー、違いますよ」

 それから彼は真面目な顔で言った。

「でもたしかに、ボクと同名の兄弟子があんなことになるなんて、驚きでした」

「その後、というか裏切った後、彼はどうなったの?」

 ユダ君は、さらりと言ってのけた。

「みずから首を括りました」


 うわー、エグいなー……とか思いつつも、興味をひかれて詳しく聞いてしまった。裏切り者のユダがどういう経緯で、そしてどういう顛末を辿ったか、教典にはほとんど書かれていない。

「噂では、金に目が眩んだらしいです」

「噂って……はっきりしていないの?」

「ええ、というのも、彼は最終的に金を持っていなかった。考えられるのは、彼が裏切りの後で金を返したということ……でも、はっきりしたことは何もわかっていません」

 オレは腕を組みつつ聞いた。

「彼に金を払ったのは誰かな」

「そりゃあ、主を捕まえたがっていたユダヤ僧たちでしょう。ユダさんの裏切りによって、主の居場所がわかってしまったのですから」

 ユダ君は不快感をあらわにして言った。さらに、

「でも実際に買収行為があったか、たしかな証拠はありません。やつらが認めるはずもないでしょう」と付け足した。

「ひどい話だね」

 オレも同調した。

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