オレの気持ち (ナル視点)
本日は短い話をもう一話一緒にアップ致します。
「ご愁傷様です・・・・」
喪服を着た男4人と若い女性が参列者に頭を下げる。
「あいつは親より先に逝くなんて・・・・」
タマパパは一気に老け込んだ顔を顰めている。
「まぁ、ウチのも一人先に逝ったからなぁ・・・・」
オヤジがオレの背中を撫でる。
オレとオヤジは血は繋がっていないが、親子だ。
ただ、オレの中で母親と言うか父親と言うか、そう言う位置にいるのは実はタマパパなのだ。
幼い頃から毎日手料理を食べさせてくれ、服の繕い物までしてくれたのはタマパパだからな。
色んな心配事も先に気付いて相談に乗ってくれたのはタマパパだったしね。
幼い頃、母さんの姉に当たる人が俺を引き取りに来た。
婚家で子供が出来ない事を相当責められていたらしい。
夫が妹に乱暴した結果生まれて来たオレを養子にすれば、自分の血も夫の血も引いているので自分の地位が安泰だと思ったらしい。
無理やりにでもオレを引き取ろうとした時、自分のお腹の中に子供が出来た事が分かって、オレはタマパパを含む家族みんなと離れなくて良くなったと言う経緯がある。
その時もオレを一番心配してくれたのは多分タマパパだ。
そのタマパパは孫やひ孫がいても娘の不在は相当応えているみたいだ。
喪服を着て、背中を丸めたその姿はいつものどっしりと優しく構えてくれていたタマパパとは全然違う人の様に見える。
ボロボロでナヨナヨで、吹けば飛びそうだ。
さっきパフが家族と来て焼香していった。
久し振りに会った幼馴染がオレを慰める様に言葉少なく声を掛けてくれたが、タマが召されてから、何故かオレの心は感情と言うものをあまりはっきり感じない。
不思議な事に涙も出ない。
ただただ虚無感があるだけだ。
お前を亡くしてしまった悲しみと、もう傍にいる事が出来ない寂しさと、世界に一人ぼっちで放り出された様な、迷子になった様な、そしてお前を助ける事のできなかった罪悪感・・・・うん、ちゃんと感情はあるみたいだ。でも、それら全部がどっか遠い所で感じている様な、とっても変な感じだ。オレとオレの感情の間に水の幕が1枚ある様な、そんな変な感じ。
タマパパやオヤジ、ガル君たちがいるので独りぼっちではないのに、でも、孤独ががっちりと腕を回して体にまとわりついている感じがするよ。
タマが逝ってしまったのは青天の霹靂で、未だに信じる事が出来ない。
でもこの孤独はお前が逝ってしまったからなんだと言うのは考えなくても分かってるよ。当然あるべきモノが無くなってしまったという、頭で理解とかじゃなくってもっと根源的な部分のモノ・・・・。タマ・・・・。
何れはオレとの結婚に頭を縦に振ってもらおうと思っていたのに・・・・結局は間に合わなかった。
ミソやガオと結婚し死別してしまったから、タマの性格からして直ぐに再婚なんてことにはならない事は初めから分かっていた。
オレはミソが亡くなった時、タマが落ち着いたら一緒になる事を打診してみようと思っていたのに、ガオがタマの同情心を煽って泣き落とし、なし崩し的に結婚した。
オレから見たら卑怯な手を使ってオレの前からタマを掻っ攫って行った様に見えた。
いや、実際に掻っ攫われたんだ。
だからアイツらの家庭を見たくなくて、正月でも実家に戻るのを見合わせてたりもしてたんだ。
今から思えば、意地なんて張らずちゃんと毎年会って居れば、ガルが亡くなってから感じていたちょっとした距離感もなかっただろうし、もっとオレの事をすんなり受け入れてくれていたのかもしれない。
まぁ、今更そんな事を考えても無駄だ。
タマはあっちへ行ってしまったんだから。
ガオが最後に入院する直前、オレに会いに来て、「自分に何かあったらタマを頼む。お前がタァ~マと結婚するのを許す」と言ってしばらく後あっちの世界へ旅立った後、ガオに言われなくてももちろんタマを支える心算だった。そして出来たら結婚を・・・・。
幼い頃からオレが惚れたのはタマ一人だったからな。
きっと、一旦はオレがタマと結婚するのを許したはずのガオが、実際にオレがタマに近づくのを天の上から見ていて嫉妬したのか、オレの嫁さんになる前に無理矢理連れて行ったのかもな。
ガオにはそう言う所があったからな。もしそうだったとしてもオレは驚かないぞ。
幼い頃からタマは自分の物だとオレやミソたちに物騒な周波を送っていたからな。
今回、めったに風邪をひかないタマが風邪をひいた時、医者に行かず拗らせてしまい、喘息が残ってしまった。
あの時、もっと強く医者に行けと言っておくんだった。こればっかりは悔やまれる。そしてだからこそオレはオレを許せない。
本当に普通の風邪に見えてたから、彼女が言う様に薬を飲んで横になってれば大丈夫だって思ったんだ。
まさかそれが隠れた喘息になり、一旦治った様に見えて、ある日突然呼吸困難にまで発展するなんて思っても見なかった・・・・。
オレが横に居ながらなんと不甲斐ない・・・・。ごめん、タマ・・・・。
ガル君にもタマパパにも申し訳ない。
何より、タマが居ない事でオレが一番寂しいと感じている。
オレはこれからどうしたら良いのだろう?
タマがミソやガオと結婚していた時、確かに数名の女性と付き合った事もあったが、それが結婚までの付き合いになる事はなかった。
オレの心の底にはいつもタマがいたから・・・・。
それなのに今タマはここにもういない。
厄介なのは、オレの心の中のタマは独りで現れた事は無い。
常に、ガオやミソに付き添われていたのだ。
オレの心や頭の中に表れているのだから、オレの好きな様に思い浮かべれば良いのだけれど、何故か常にミソかガオが横に立っていたんだよなぁ。
それは今も変わらない。くそっ!
もっと勇気を出せば良かった。ガオの様になりふり構わず、それもタマの気持ちも構わず、力技で結婚までもっていくべきだった。
まぁ、それはオレのやり方ではないがな。
それにしても早い内にオレと一緒になれともっと詰めよればよかった。口説けばよかった。
最近のタマは幼かった頃と違って落ち着きも出て来ていたし、料理も上手くなっていた。
恐らく、家庭に恵まれなかったミソに家庭らしい食卓を提供しようと、一生懸命料理教室に通ったんだろう。
あの何でも大雑把なタマが丁寧な下拵えを省かず、繊細な味の料理を作っているのをここ数か月、オレは複雑な思いで見て、そしてその料理を堪能していた。
これがオレの為に一生懸命料理を学んでくれたのなら手放しで喜べるのになぁ。
相手が全員幼馴染とは言え、他の男の影が常にチラチラ見えるのは面白く無い。
でも、それでも、生きてオレの横に居て欲しかった。
あっちへ行ってしまったら、もうオレの手は届かないじゃないか・・・・。
タマ・・・・。
まぁ、いいさ。
オレもそろそろそっちへ行っても良い頃だよ。
ガル君も家庭を持って落ち着いているしね。
タマパパがちょっと心配だけど、オレは早くお前の傍へ行きたいよ。
タマ・・・・ガオ・・・・ミソ・・・・。そっちはどんな感じだい?
そっちへ行ったらちゃんとオレも受け入れてくれよ!




