ガオの置き土産
「タマ、さっきガル君から電話があって、少し遅れるから先に始めててって」
「あら、そうなのね」
今日、私たちはお洒落な所で外食をしようって事になり、首都の目ぬき通りから一本奥まったところにある洋食店に来ている。
こんな風にナルと二人だけで外に食事に行くと、ガオと良く夫婦二人で外食をしていた事を思い出す。
でも今日は途中から更に二人参加するので、そんなにしんみりとガオの事を思い出して寂しい気持ちにならない気がする。
ガルがそろそろ彼女との結婚を考えているらしんだけれど、まだ私には紹介してくれていないんだよね。
それで何時紹介してくれるの?って聞いたところ、今日を指定して来たのだ。
しかも、ナル叔父さんも一緒にだって。
ナルは年齢からしたらスタイル美男なんだよね。
顔はちょっと良いくらいだけれど、青年期からスタイルの良さは抜群だったのを未だに維持しているのだ。
だから普段あまり着る事のないスーツなんかに身を包んでもパリっとして見えるんだよね。
そこへ行くと私は普段から家ではダボっとした服ばかり着ているので、こんな風にヒールのある靴を履くだけでもう緊張しまくっちゃうんだよね。
あ~あ、そろそろ踵に豆が出来そうだよ。
ナルがさっとスマートに椅子を引いてくれ、向かい合って座ると、食前酒が出て来て、簡単に摘まめる物を出してもらった。
「ねぇ、ナルはガルの彼女に会った事はあるの?」
「え?オレ?まだないなぁ~」
「ふ~ん。どんな娘なのかなぁ。息子の彼女に会うのってこれが初めてだから緊張しまくりだよぉ」
「いやぁ、緊張しているのはあっちでしょ」
「そりゃ、そうなんだけどね。でも母親ってのも緊張するんだよ~」
ナルがクスクス笑っているところに、電話の着信音が鳴る。
「ごめん、ちょっと見ていい?」
「うん、どうぞ」
ナルが緑色の携帯を開き、届いたメッセージを確認した。
あちゃ~ってな感じの顔になり、「タマ、ガル君と彼女、今日来られないって」と困惑した顔をした。
「え?どうして?」
「なんか彼女の仕事場でトラブルが発生したらしい。明後日開催のイベントがあるらしんだけど、なんかそれの関連らしくて、彼女だけが仕事を抜ける事が出来ないっぽいよ」
「えええ~」
それなら最初からイベント開催日に近い日ではなく、もっと余裕のある日を指定してくれれば良かったのにと、元々息子の彼女ってものにあんまり良い感情を持ってないのもあり、彼女の評価が会う前から結構下がってしまった。
「タマ、そんな顔しちゃだめだよ。彼女はイベント企画会社に勤めてるみたいだから、いつもこんな感じなんだと思うぞ。それなのに無理してでもタマに会おうと仕事を調節してここんところ残業続きだってガル君も言っていたからね」
「まぁ、イベント企画会社ってそんなに忙しいのね」
「これが冬ならもっとゆったりしているらしいけど、春先から秋に掛けてはイベントも増えるらしいからね。1人で複数のイベントを抱えているのなんて当たり前らしいよ」
「ふ~ん」
「まぁ、折角来たんだし、ここの美味しい料理を食べて行こう。テーブルクロスが床まであるから、テーブルの下で靴を脱いでもいいぞ」
ん?ナルってば、私の踵に豆が出来始めている事を察知しているのかしら?
そう思ってナルの顔を見ると、いたずらっぽく笑って「豆、出来てるんだろう?」だって。
ガオと言い、ナルと言い、どうも私の行動パターンを熟知しているらしく、口に出さなくても私の状態を私より掴んでる気がする。
私の好きそうな料理をちゃちゃっとウエイターに注文するナルは恰好良い。
この子、こんなに恰好良かったっけ?
女性慣れしている雰囲気だしね。
こりゃぁ、私の幼馴染の中で一番遊んでいたのはナルかもしれないなぁ。
そう思っていたらそれがいつの間にか顔に出ていたらしい。
「そりゃぁ、この年になるまで異性と全く付き合ってないなんて事はないさ。こういう店でもちゃんとエスコート出来るくらいには場数は踏んでいるよ」だって。
こっわ!顔を見ただけでこっちの思ってる事が分かるなんて、めっちゃ怖いよぉ~。悟られない様に気を付けよう・・・・。
二人で美味しいご飯を食べた後、このレストランのあるブロックにある有名なホテルのバーで「一杯飲んで行こう。タマとこういう所に来た事がないし、出不精のタマが今度また何時外出するか分からないからね」ってお洒落なバーでカクテルを一杯御馳走になった。
「タマはミソとガルの遺品はどうしているんだい?」
デザイン性に優れたスツールに腰かけグラスを揺らしながらナルがこちらの顔を見ずに聞いて来た。
「うん、もう粗方は処分したけれど、ガルに残したい物はガルに渡すべく空いてる部屋に置いているよ」
クローゼットの中にあるミソとガオのシャツには触れず、淡々と説明した。
「そうか・・・・。まだ残っている遺品について自分だけでやるには辛かったら、いつでも声を掛けて」
「ありがとう」
私としては手伝ってもらうのもありがたいけど、ガオが生きていた間、お正月でさえ私たちを避けていたナルの心境の方を知りたい。
「どうして?」って聞いてもナルは困った顔をして答えてくれないのだ。
今回もやっぱり答えてくれなかった。
「ところでガル君が結婚したら、タマはどうするの?同居するの?」
「え?同居はないでしょう。姑と一緒なんてお嫁さんが可哀そうだよ。私だって自由に生活したいしね」
「ぷふっ」
ナルは思わずと言った風に噴き出した。
「タマさぁ、それってお嫁さんの事を思って言ってるわけじゃないよね?自分の生活空間に他人を入れたくないっていうある種の拒絶だよね?」って言われてギクッとした。
そうかぁ、私は息子が結婚するのに反対はしないけれど、お嫁さんを家族とは思えていないのかぁ。
「まぁ、まだそのお嫁さん候補には会えていないから、他人の様に感じるのは分からないでもないけどね」
「う~ん。私自身は結婚してお姑さんと暮らすのもあるかなって思ってたけど、実際は一回もお姑さんと一緒に暮らした経験が無いわけで、反対にお姑さんが嫁にどんな風に接するモノなのかを見て来てないから、変に気を使っちゃうと思うんだよね。それなら近くだけど別の家に住んでくれる方が落ち着くかなぁ~」
「なら、タマはオレの所に来て一緒に住む?」
「ん?」
想像もしていない事を言われたんだけど、一瞬それがどういう意味なのか分からなかった。
ゆっくりカクテルの残りを口に含んだ途端、ナルが何を言っているのか分かって、盛大に吹いてしまった。
ナルは私が噴出してしまったお酒をバーテンから貰った布巾であっちこっち拭いてくれながら、「知らなかった?ガオは亡くなる前に一度だけオレに会いに来たんだ。その時、自分が亡くなったらタマをよろしく頼むって言ってたんだぞ」だって。
ええええ!?
何それ?初耳なんですけどぉーー!
ええええ!?
それをガルも知っていたの?
なんですとぉぉぉ!?




