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失ったもの、得たもの

「ナル叔父さん、今度、叔父さんのところのジムを見に行っても良いですか?」

「うん。何時でも来なさい」

「叔父さんはウチの父さんと結婚後会った事はありましたか?」

「1度だけ。最後の入院直前にガオが俺を訪ねて来たよ」

「それって、母さんの事?」

「うん」


「僕ね、父さんから叔父さんと話した事を聞いていたんですよ」

 ナルははっとした様に顔を上げて、ガルを見た。

 ナルもガルも何を言っているのかお互いに分かっている様だが、私だけが分かってないみたい。

 でも、ガオが亡くなる前に一度だけナルに自分から会いに行ったと言うことと、二人が話した内容を私には知らされていないのに、ガルには知らせていた事だけは分かった。


「ガル、お父さんはあなたに何て言ったの?」

「母さん・・・・それは男と男の秘密だから、今は言えないよ」

「ナルも教えてくれないの?」

 ナルも無言で頷いた。

 う~む、私には話せない私についての事って何だろう?

 何かモヤモヤするなぁ。これが息子や幼馴染でなかったら不安感満載になってお友達をやめちゃうくらい何かヘンテコなんだけれど、二人とも私のとって家族だから、まぁ、許してやるかぁ・・・・。


 その日はそれで王都に住んでいるナルは自宅へ帰って行き、お父さんとガオパパはウチに泊まった。

 翌朝早くに二人は礫里地区へ帰って行き、その後冷蔵庫と冷凍庫を開けると、お父さんの愛情いっぱいの料理が所狭しといろんなタッパーに入れられ収納されていた。

「お父さん・・・・ありがとう」

 思わず口から感謝の言葉が小さく零れ落ちしんみりした雰囲気だったのだが、お爺ちゃん二人を駅に送って来たばかりのガルが「おお!旨そうな料理がいっぱい!流石、お爺ちゃんだ」と早速冷蔵庫の中身を賑やかに物色しはじめた。


 しんみりしかけていても、家族がいるとそのしんみりさを無邪気に、そして無神経なまでに霧散させてくれるので、あまりくよくよもしていられない。もしかしたらガルは私があまり落ち込まない様にと思って、私の意識がガオの死ではなく、生きているガルへ向く様にしているのかもしれない。

 その証拠に今朝ガルの目が若干はれぼったい感じがしたので、一人の時には泣いたのかもしれない・・・・。


 お父さんの作り置き料理から今日のお昼はどれにしようかと悩んでいると、二人のお爺ちゃんを見送りに行ったガルが、「駅にはナル叔父さんも見送りに来てたよ。だから、今夜の夕食に招待したんだ」と天真爛漫に報告して来る。

「え?」

 ナルが招待を受けてくれたの?

 そんなバカな。

 お正月でさえ、私たち家族を避けていたのに?


「えっと、7時に来てくれる様にお願いしたけど、その時間でも良い?お母さんは何か用事がある?」

「用事はないけど・・・・ナルは、来てくれるって言ったの?」

「うん」

 お父さんの作った蓮根のピリ辛炒めを指で摘まんで口に放り込んだ息子は自分の部屋へ向かう様だ。

 私が変な顔をしているのにも気づかなかった様子。


 私としてもナルがウチに来てくれるならそれは嬉しい。

 でも、ナルは私たちと顔を合わせるのを嫌がっていたのに、どうして今は家まで来てくれるのだろう?

 ミソもガオも亡くしてしまって、私が落ち込んでいるから?


 兎に角、今日はナルの好きな鶏のナッツ炒めを作ろう。

 ガルの為にも頼れる大人が側に居てくれるのはありがたいしね。

 何より、ナルが何に対して怒っていたのか知りたい。

 今夜の食事で教えてくれるだろうか?



「こんばんは」

 若い時よりも若干筋肉がはっきり分かる体形になっているナルが遠慮がちにウチに入って来た。

 筋肉と言ってもボディービルダーの様ながちがちの筋肉ではなく、細マッチョと言って良い感じだ。


「ナルおじさん!いらっしゃい。早く上がって、上がって」

「いらっしゃい」

 私たち親子が無理矢理の様にナルを奥に通し、早速例の強化ガラスの居間に用意された食事を勧める。


「鶏のナッツ炒め・・・・」

「ナルが今でも好きかどうか知らないけど、前は好物だったから作ってみたの。お父さんみたいに上手には出来ないけれど結構頑張ったのよ」

「うん、確かに母さんの料理は美味しいけど、お爺ちゃんには負けてるな!」

「こら!正直に言うな~」

「あはははは」


 私たち親子のやり取りを温かい目で見つめていたナルに、「さぁさぁ、母さんの鶏のナッツ炒めの感想を聞かせて!」とガルがナルに料理を薦める。

「うん、おじさんのよりは少しだけ落ちるかなぁ~」

「ええええ!?」と態と怒ってみせれば、漸くナルが昔見慣れた笑顔を見せてくれた。


 それからはガルの誘いもあって、ナルはしょっちゅうウチに出入りする様になった。

 仕事が忙しい時でも、ガルは「ナル叔父さん、飲みに行こう!」と男二人で巷の飲み屋を梯子したりもしていたみたいだ。

 父親を亡くしたばかりのガルにとって、ナルという頼れる大人な男性がいることはありがたい。


 ガルは引き継いだ会社を運営するのに本当ならば四苦八苦しているハズなんだけれど、パリさんが全力でサポートしてくれているのと、生活面では私が支えているのと、息抜きの部分でナルに支えてもらえているのと、どうやら彼女がいるらしく、その彼女に支えてもらえているのとで、結構ガオの死からも早く立ち直ったみたいだ。


 いや、支えられているからだけではないと思う。

 ガルは私を支えようと一生懸命だ。

 お互いにだけれど、支えないといけない相手、というよりも支えたい相手がいると、これだけ大きな喪失感でも何とか乗り切れるのかもしれない。まぁ、時間は必要なんだけどね。


 ミソもガオも私の心の中に居る。

 寂しいけれど、ミソの後ろ姿に似て、ガオそのものの顔を持つ息子を見て、二人が戻って来た様な錯覚をする事も何度かあり、寂しい思いと懐かしさで嬉しかったりと気持ちの動きが激しくなる時もあったけれど、数週間もすると彼らの不在に段々と慣れて来た。

 そしてそれはナルが頻繁に顔を見せてくれる様になり、前の様に気軽に話せる様になった事も一因だと思う。

 よかったぁ。

 またナルと普通に会える様になって。

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