暁空大祭 本番~♪
「暁空祭のリポートを見ながらお茶はいかがですかぁ?暁空祭の見どころ満載ですよぉ」
アナウンサー希望の先輩2人が模擬店の前にテニス部なのか?と思わせる白のミニスカートで立ち、客寄せをやっている。
なので店内には断然男性が多く、女性はちらりほらりしかいない。
「私たちがリポートした暁空祭の見どころ番組を放映しておりま~す。どうぞ一休みして行ってくださいね~」
また、美人でミニスカートの先輩に誘われる様にフラフラと数名の男性客が入って来た。
数少ない女性客は奥で洗い物をしているガオや、ウェイターとして飲み物なんかを運んでいるワル会長が目的みたいで、そっちはそっちでやれ顔を見れたとか、皿洗いのためにめくった袖から見える腕が男らしいとかキャイキャイやってる。
美人な先輩やハナは男性客中心に配膳しているけど、私は女性客を中心に担当している。
ワル先輩じゃない者が運んできて「チェ~」って言われる事はあっても美人じゃないから敵対的なスタンスを取られる事もない。
淡々と給仕するだけだ。
この後、少しだけどリポート配信しないといけないので、そっちの方が気になってる。
リポートの後はもう模擬店を担当しなくて良いので、初の大学祭を楽しむぞぉぉ~。
元々アナウンサーは美人な会員を中心にやってもらっているけれど、美人さんたちは模擬店の客寄せもしてもらわないといけないので、私の様な特に美人でない会員にあまり顔出しの無いリポーターの役が回って来たのだ。
「ガオ、そろそろ時間だよ」
「うん、タァ~マ何時でも行けるよ」
そうなのだ。
私のリポートは演劇部の楽屋への突撃レポートなんだけれど、ガオが一緒なのだ。
勿論、顔出しNGと言い張るガオは画面には出ないけれど、撮影クルーの一員として音響マイクを捧げ持つ事になっている。
これから始まる演劇を前に、演劇部の面々はほぼ半裸に近い恰好で化粧をしている女性なんかもおり、撮影する方も結構気を使う状態だ。
大学の体育館なので市中のホールの様に楽屋がある訳ではないので、近くの教室を楽屋として使っているのだが、大きな教室の中に男子部員も女子部員も混ざって使っているのだ。
幕が開く直前の楽屋では男女入り混じって半裸に近い者がいても誰も気にしていないと言うのは、普段から公演の前はこんな感じなんだろう。
「放送協会の者です。取材させて下さい」
「ああ、ワルから聞いているよ。どうぞ、取材して行って」
赤いウィッグを被った男性が対応してくれているので、まずはこの人から取材しちゃおう。
「あの、まずは自己紹介をお願いします」
「え?俺?俺はヤサ。演劇部の部長だ」
おおおお!この人が部長さんだったのか。
じゃあ、遠慮なくどんどん取材させてもらおう。
「今回の演目は古典の『モルフォルフォ』だと伺っていますが、何故古典の作品にされたのですか?」
「うん。実力を分かってもらうのに誰でも知っている作品の方が良いかなと思って選んだんだ」
「この作品の練習時間はどれくらいかけてますか?」
どんどん質問してもちゃんと答えてくれるのでたくさん質問した。
インタビューが終る頃には楽屋全体を遠景として写しても既に全員がちゃんと服を着終っていたのがありがたい。
ある意味ほっとしたよ。
私のリポートも無事終わり、この後は自由時間だ。
ガオも一緒にだけれどね。
大学は違ってしまったけれど、首都の美大に通っているサニ先輩と約束しているので門の所へ迎えに行った。
サニちゃん、めっちゃ可愛くなっていて、モフモフの毛糸の帽子を被り、カジュアルで清楚な雰囲気だ。
「サニ~ちゃぁぁん♪ウチの大学へようこそ」
「タマちゃん、元気だった?」
「うん、元気、元気、サニちゃんは?」なんて挨拶をして、まずは3人でナルの居るサッカー部の模擬店へ行ってみた。
おかま喫茶で、とぉぉってもおぞましかった。
何がおぞましいかと言うと、ナルよりも筋肉モリモリに見える先輩たちが多数、エグイ化粧と鬘で「う~ん」としか言えない感じの女装だったからだ。
一人くらい美青年がいて、本物の女性かと見まがうが如きならばまだしも、全員がコミカルな女装って感じなんだよね。
「お!そっちは今休憩なの?」と早速ナルが私たちを見つけて給仕してくれるけれど、ナルも細マッチョなのでドレスから突き出ている腕には血管が浮き出ていて、とても女性っぽくない。
「が、がんばったのなっ」とガオが我慢できないみたいにクスクス笑っていたけれど、しょうがないと思う。
だってある意味このおかま喫茶はホラーだよ。
体格もだけれどあり得ない色でお化粧してるんだもん。
青色の口紅塗ってる人もいたからねぇ。
そんな色、どこで売ってるんだろう?
ナルん所に続いてミソの和太鼓サークルも見てみたかったんだけれど、模擬店を出しておらず、公演だけだったみたい。
公演の方は既に終わっていて、ちょっと残念。
丁度休憩時間が合う様にお互いに調整していたため、おかま喫茶の担当時間が終ったナルが着替えるのを待って、ミソも誘い、みんなで大学の中を練り歩いた。
「焼きそば!」
「りんご飴!」
「バンドの演奏!」
「ポップコーン!」
「大学祭Tシャツ!」
私とサニちゃんが目に付くモノに片っ端から駆け寄り、後ろから幼馴染3人が付いて来てくれている。
「はぁ、暁空は模擬店が多いねぇ。ウチの大学は生徒の作品の展示が主だから同じ大学祭でも全然雰囲気が違うわぁ」なんてサニちゃんの感想を聞きながら歩いていると、美人メイド喫茶が見えて来た。
嫌がるナルたちをなだめすかして5人で模擬店に入ると数少ない女性客たちがキャアキャアと姦しい。
「ちょっと何あれ?めっちゃカッコいいんだけれど」
「うんうん、イケメンばっかりだね」
どうやらウチの大学の生徒ではない子たちらしく、涎を垂らしそうな感じでウチの幼馴染たちを舐め回す様に見ている。
こういうのに慣れている3人はそれを無視して気にしていない。
サニちゃんや私はちょっと居心地が悪い。
給仕の女の子たちがこぞって私たちのテーブルに来るので煩わしい事この上ない。
もうオーダーも終わり、商品もちゃんと持って来たのに、さっきとは別のメイドさんが「お代わりはいかがですか?」とか、「店からの差し入れです」とか色んなモノを持って来る。
これ以上はやめてぇぇ。お腹がチャプチャプになるぅぅぅ。
「律儀に全部飲まなくても・・・・」とミソに呆れられたけれど、やっぱり食べ物を捨てるのは気が咎めるのよ。
姉の権限でウチの弟たちにも全部飲み食いする様、至上命令を出した。
女性客たちの目線で落ち着かないので、飲み食いし終ったら早々に模擬店を出たのだが、サニちゃんのたっての希望で漫研に行った後は、「相変わらず4人でひっつきもっつきなのねぇ。これじゃぁ、なかなか彼氏なんて出来ないはずだわぁ」と私に耳打ちして悪い笑顔を浮かべたサニは「来年はウチの大学祭にも遊びに来てね。ウチの大学にもカッコいい人は結構いるのよ」と言いながら帰って行った。
離れた所にいたミソやナルはサニが言った事が聞こえてなかったのだろうが、たまたま私のすぐ横にいたガオには聞こえた様で、「タァ~マ、どっかの学祭に行く時は僕も一緒だからね」と怖い目で言われてしまった。
弟の姉離れはまだまだ先らしい・・・・。




