祝!中学校入学
ウチとガオたちの家の母親や妹が亡くなった事は、ウチの団地でも住民たちを驚かし、しばらく噂スズメたちが五月蠅かった。
驚異的な事だが、このしばらくと言うのは数週間とかじゃなくて年単位だった。
私たちがバスの事故で家族を亡くした時、パフとミソは悲しそうな顔で私達3人に接してくれたが、その悲しそうな顔は遊び始めるとすぐにどっかへ行ってしまった。
でもいつもの顔で接してくれたから、私たちも家族の死を乗り越える事が出来たのだと思う。
もちろん心の中ではずっとお母さんやミルの事を恋しがっているけど、だんだんと彼女たちが居ない生活に慣れたのだ。
ガオやナルがいつも一緒にいてくれたので、寂しさが徐々に薄れて行ったとでも言おうか・・・・。
それに何よりパフの家にテレビが来たのが大きな役割を果たしていたと思う。
パフの家は瓦工場を営んでいて羽振りが良く、金持ちの親戚がいるので、この辺りでは滅多にお目に掛かれない電気掃除機やテレビなどがどの家よりも早く入手できるのだ。
夜になると近所の大人たちが押し寄せ、テレビを見せてくれと家にまで上がりこむ人も少なくないのだが、昼間、学校が終ってから夕食までは大人は働いているのでテレビを自由に見れるのだ。
私たちは学校が終るとまずパフの家に集まった。
各家から持ち寄ったおやつを手にパフの家の居間に陣取り、テレビを見るのだ。
チャンネル争いは毎度毎度律儀に実施され、この中で一番強い者、つまり私が見たい番組に決まる事が殆どだ。
私たちが見る時間帯は大抵アニメかドラマが主流で、夕食が始まる前にニュースが始まるので、自然と解散となる。
私が好んで見るアニメが女の子アニメではなく、ロボットアニメだったことから、別段男子たちが問題にしなかったというのも大きいかもね。
夕食後もテレビを見たい事は見たいのだが、食べ終わる頃には近所の大人たちが図々しく乗り込んでくるので、私たち子供のゴールデンタイムは夕食前のニュースまでなのだ。そして夕食は各自の家で食べるので、それからまた集まるっていうのは現実的じゃなかったしね。
それから数年も経つと自宅にテレビを持つ家もポツポツ出て来た。
ウチも店舗の方にテレビが設置された。
お父さんが食堂を経営する合間を縫って上の階とウチの2軒分の家事をする事になっているので、ガオパパが生活費を入れてくれている。
贅沢しなければそのお金だけで5人が生活できるのだけれど、食堂も結構な利益を出していたので、ガオパパの援助を少し受けて、更に客を呼ぶために食堂にテレビを入れたらしい。
こう言う事情も近所の噂スズメたちの会話で聞こえちゃったのだ。
本当に大人って油断してる事が多いものね。
夜は前から居酒屋の様になっていたが、今では更に近隣のオジサンがお酒を飲みながらテレビを見るために長っ尻する事が日常的だった。
プロ野球の試合なんてある時は、夜遅くまで五月蠅くてたまらなかったなぁ。
ウチのお父さんは長っ尻の客に追加注文を取るなんて事はしない人だったけれど、そこはそれ、私がいるからね。
子供の寝る時間までは、せっせと追加注文のオーダーを取りました。
正真正銘の看板娘だ。
そして悪ガキ4人とお姫さまのテレビ鑑賞はパフの家からウチの食堂に場所を移し、母親が呼びに来るパフは夕食を機に帰宅するが、ガオやナルは夕食自体を食堂内で食べる様になり、そうなるとガオパパまで食堂でご飯を食べる事が多くなった。ミソは誰も迎えに来ないのだが、パフママが来るタイミングで帰宅する事が多い。
テレビの効果は抜群でいつも満員御礼となった食堂の儲けで、ウチの居住スペースにもう一台テレビが設置するまでそんなに時間は掛からなかった。
そうなると夕飯はまたウチの居間に場所を写した。
だって家族だけで食事を摂る方が落ち着くものね。
もちろんチャンネル争奪戦の勝者は大抵私だよ。ニヤリ。
ガオは私と同じ年に中学へ入学した。
飛び級したのはガオだけで、そうじゃないナルたちは来年、入学の予定だ。
私たちの中で頭が良いはガオとミソだ。
でもミソは飛び級したいとは思わなかった様で、のんびりナルたちと一学年下の学生ライフを満喫しているみたいだった。
ガオが中学校に入学してから同級生だけじゃなく上級生の女の子まできゃぁきゃぁとファンが増えた。
顔が良いからだ。
いや、顔だけじゃなく、背も高いし、髪型も都会的だし、何なら服の趣味まで都会的なのだ
制服のある学校でどうして服の趣味まで分かるかと言うと、冬の間学ランの下にベストを着るのが男子の間で流行っていたんだけれど、原色の赤や黄色を好んで着る学生が多いなか、白地に紺と臙脂のラインの入ったお洒落なベストを着て登校したガオを見て、女の子たちが姦しかったこと、姦しかった事。
その直ぐ後に、かなりの数の男子がガオが着て来たのと似たベストに変えたのは言わずもがなだ。
「ねぇ、あなたってガオの幼馴染なんだよね?」
「うん」
学校で初めて見る女の子たちは、必ずこのフレーズで話し掛けて来た。
その後に続くフレーズは人によってまちまちだが、それでもある程度パターンが決まっていた。
「ガオって何が好きなの?」
「ガオってどんな女の子が好み?」
「これをガオに渡して」
「この前の返事をガオから貰って来て」
そのどれに関しても私の返事は決まっていた。
「ごめん。ガオ、本人に直に話てね」だ。
そういう答えをもらって喜ぶ女子は皆無だ。
うん、まぁ、そうだろうねぇ。
と言う事で小学校だけでなく、中学校に入っても私は女子の虐いじめにあった。
でも、その分ガオが時々休憩時間に私のクラスに顔を出してくれたり、毎日お昼を一緒に食べたり、行き帰りも常に一緒だったからとっても助けられた。
と言っても原因がガオなので、何か複雑・・・・。
それでもガオが私のクラスに顔を出すと、クラスメイトがきゃぁきゃぁと遠巻きにガオを見つめ、顔を赤らめて満足そうだ。
私をいじめていたから、それを心配したガオが私のクラスに来るのに、ガオを身近に見れる事が他のクラスの子たちに対するアドバンテージの様に感じるらしく、クラスメイトからのいじめは激減した。
ただ、私には同じクラスに友達は出来なかった・・・・。
ぐぬぬぬ。ガオめぇぇ。




