ep.41 七時九分
こんばんは。しょうもない小説です。これは小説とは言えないです。
情けない文章ですが、せっかく書いたので置いておきます。
「七時九分な」
俊宏が突然そういって誰もいない教室から出ていった。恵美は呆然としてその言葉を受け取った。しわくちゃのハンカチを丁寧に手アイロンで伸ばしながら、何度も「七時九分」と胸の中で呟いた。
次の日、恵美は七時九分のローカル線に間に合うようにいつもより早い時間に家を出た。
「よっ」
そう呼びかけてきたのは俊宏の方だった。
「あ、ああ」
呼びかけに対して恵美は消極的に返事した。
「よかった。こーへんかと思った」
俊宏は安堵感からか、その場にしゃがみ込んで、また体を起こした。
「なあ、お前のこと、今日から『メグちゃん』って呼んでもいい?」
突然言われたもんだから、恵美は返事に詰まって、素っ頓狂な声を出してしまった。でも、内心では嬉しかった。だって、憧れのあの俊宏くんが目の前にいるんだし、俊宏くんの方から「メグちゃん」だなんて。
「うん、いいよ」
言うなり、いきなり俊宏が、
「メグちゃん、今日の弁当何?」
と、恵美に聞くのだった。
「今日はお母さんがしんどいから私は食堂のパン」
恵美はそう答えた。
「そうなんや。パンか、パンも美味しそうやなあ。いつも何のパン食べるん?」
「そうやね、メロンパンと焼きそばパンかな」
「え? 2個も食べるん?」
思わず俊宏は聞いてしまった。食べ盛りの高校生だ、2個ぐらい食べるだろう。
俊宏は女のコの扱いに慣れていなかった。だから、女のコがどれくらい食べるものかを知らなかった。女のコだって本当は食べたいのだ。だから部活の後もこっそりパンを食べているのだった。
七時九分の電車が3番乗り場にやってきた。
「乗ろうか。先に乗り」
レディーファーストを守る俊宏が恵美に先に乗るようにという。
恵美は安心したかのようにローカル線に乗り込んだ。
十年後の同窓会。
「あのね、七時九分の電車のこと、覚えてる?」
恵美が唐突に俊宏に聞いてみた。
「覚えてるよ」
俊宏は照れながら、そう言うと、飲み放題のドリンクメニューに目を落とし、
「すいません、モスコミュールひとつ」
と、店員に頼んだ。
「あ、私もいいかな。私もモスコミュールひとつ」
と、真似するかのように俊宏の頼んだモスコミュールを恵美も頼んだ。
あの頃と変わらない。
恵美は俊宏の注文するのといつも一緒のものを頼む癖があった。
部活の帰り、立ち寄ったファミレス。そこでイタリアンスパゲティを頼んだ俊宏を真似て、恵美もイタリアンスパゲティを頼んだ。
周りからは付き合ってるように思われてた二人だったが、その距離は微妙だった。
二人がクラスの仲間と初めて行った地元の花火大会。浴衣の恵美はいつもより大人びていて、うなじから数本飛び散る髪の毛が俊宏の心をぶち抜いた。都合六名、男子三名、女子三名で行ったのだったが、二人だけ他のメンバーと逸れてしまったのだ。しかも、携帯の電源が二人とも切れてしまっていて、別のメンバーと連絡をとる手段もなかった。
仕方なく、二人は、はぐれないように手を繋いだ。初めて手を握った瞬間だった。
「そんなこともあったね」
恵美が突き出し(つきだし)の枝豆をつまみながら、笑う。
「あの後のことまでもしかして覚えてる?」
俊宏は不安げに聞く。
「覚えてるけど、それ、私に言わせる?」
俊宏はもちろん覚えていたけれど、ちゃんと恵美の口から聞きたかった。
「覚えてるんだ」
俊宏が訊く。
「もちろん、あの後、二人、キスしたんだよね」
二人はモスコミュールで乾杯しながら、顔が赤くなった。
「そこのお二人さん」
幹事の山中が声をかける。
「まだ同窓会は始まったばっかりやから、抜け駆けとか禁止な」
釘を刺された俊宏と恵美は顔が真っ赤になった。
いつだって、リードするのは恵美の方で、俊宏は恵美についていった。だから、花火の後、一緒に帰ろうって言ったのは恵美の方だったし、キスをしよう、って言ったのも恵美の方だった。
それでも、メニューを真似たりするのは恵美の方だった。だから二人はちょうど釣り合うのかもしれない。お似合いのカップルだった。
「俺の、ファーストキスはメグちゃんだったよな」
「私はちがうけど」
それを言われるのが俊宏の中では一番辛かった。初めてのキスの後、俊宏が、
「俺、ファーストキスはメグちゃんや」
って、言った後、恵美が、
「私は中学生の時」と言った瞬間、俊宏の顔は氷のように冷たく、そして固まった。
モスコミュールは半分ほど減っていた。
同窓会は盛り上がった。
「ラストオーダーやで」の幹事の山中の声に、俊宏は、
「俺、ラストはカシスオレンジ」と言った。
もちろん、恵美も、
「私もカシスオレンジで」と頼んだ。
「二人、相変わらずいつも一緒やな。付き合ってるん?」
クラスメイトの舞香だった。舞香のお母さんの口癖が「ま、いっか」だったから舞香と名付けられたと言うのはまだ誰も知らない事実だった。
カシスオレンジが手元にやってきた。
俊宏はひとくち口に入れると、
「甘いなあ」と呟いた。
同じく、恵美も口にすると、
「ほんまに甘いなあ」と続いた。
またあの花火大会が地元にやってくる。コロナ明けの何年振りかの花火大会だ。
またクラスメイトで行こうという話になっている。もちろん俊宏も恵美も行く、と言うのに賛成した。
いつだって、俊宏も恵美も意見は一緒だった。
同窓会の一次会はここで終わった。この後、二次会がある。俊宏も恵美も行く、と言った。
二次会はカラオケだった。コロナ以降声を出してないからな、と俊宏は内心で思っていた。
今日こそ、俊宏は恵美への気持ちを打ち明けるつもりでいた。
卒業10周年。つまり、二十九歳。三十路前の最後の年。結婚も意識した。だから、今日こそ、恵美への気持ちを明らかにするつもりでいる。
カラオケボックスに着くと、クラスの十二人が入れる大きな部屋を借りた。
「結構大きい部屋やなあ」
俊宏は呟いた。
みんなが一通り歌った後、最後に俊宏にマイクが回ってきた。俊宏は尾崎豊の「I Love You」を入れた。
「ひとつに重なり生きていく恋を 夢見て傷つくだけの二人だよ。何度も愛してるって聞くお前は この愛なしでは生きてさえゆけないと」
これはもう告白だった。
何度も、何度も恵美の方に視線を送る。
会った。
視線があった。
カラオケが終わって、駅に向かう途中で、二人は、「ちょっと用事がある」と言って、抜け駆けした。
「メグちゃん」
俊宏が突然真面目な顔をして言う。
「何?」
「急やけど、結婚を前提に付き合ってくれへんん?」
「え? え?」
戸惑う恵美。
「あかんかー」
俊宏は一瞬、諦めかけたが、
「お願いします」
恵美がオッケーを出した。
「ウオォーーーーー! やったあ!」
俊宏は思わずガッツポーズをした。
そうして、今、二人は幸せに過ごしている。
あかん、こんなふざけた文章、公開するの恥ずかしい。でもいいか、俊宏のラブストーリーでした。
ありがとうございました、こんな駄文に付き合っていただき、、貴重なお時間をお取りし、申し訳ないです。




