宇宙船716(なないろ)号
こんばんは、今日二本目です。716シリーズです。
宇宙船716(なないろ)号が今夜、木星に着く。ピテカントロスになる日も近づいた(誰がわかるねん、こんな古いネタ)。
地球を離れてわずか数日、池下、五反田女子、水下を乗せた宇宙船716号は、連日ニュースで話題になり、搭乗前のインタビューでは、池下船長は意気揚々と次のように答えた。
「我々、宇宙船716号は、今夜、地球を旅立ち、両日中には木星へとたどり着く計画であります。これは人類が長年描いていた夢でもあります。その夢がもうすぐ叶えられようとしています」
隣では涙ぐむ五反田。感極まったのだろう。水下もどこかぎこちない。
フジテレビのアナウンサーが質問をする。
「木星には何の目的のために行くんでしょうか」
周りにいた記者たちが一斉にメモをとり、カメラマンはフラッシュを炊く。この放送を日本中は愚か、世界中、セネガルだってマダガスカルだって、見ている。
池下俊宏は、船長として、仲間の命を預かることに緊張感はマックスだった。
「今回の目的は、ズバリ、木星でうんこが出るか出ないか、というものです」
巫山戯た答えだと思われようが、これは人類の進歩には切っても切れない問題である。由々しき問題である。現に、記者会見場では笑い一つ起こらなかった。テレビの前で笑っているのは愚か者だけだった。
NHKの記者が続ける。
「はい、NHKの財前です。今回、木星で出たうんこは地球に持ち帰るんでしょうか?」
これもまた真面目な質問であった。
「科学的に言えば、木星でうんこをすることはできません。生成AIによると、不可能だと。しかし、生成AIのいうことは理論上ですよね。我々地球人は、これまで数々の常識とされていたものを覆してきました。例えば記憶に新しいのはiPS細胞なんかがそうでしょう。誰が万能細胞なんてあると考えたでしょう。誰も考えたことはあっても実現は不可能とされてました。生成AIが不可能だと言っても、実際に木星に行ってうんこをするまでわからないですよね。それに実際に木星に行った人類は今までいないんです。誰もが試したことないことを高々コンピュータのデータ上で調査しただけで実験もせずに結果を出そうとする今の風潮に私は疑問を投げかけたいのです」
もっと厳しい質問が飛ぶ。
「ワタシ、AP通信のダンベル、ト、モウシマス。モクセイ、デ、ウンコヲシタアトハ、ドウスルンデスカ? ゴタンダサンモ、ウンコスルンデスカ?」
五反田は堪える。
「私だって、地球の未来のためなら、うんこをします」
そう言って五反田はAP通信のダンベルを睨め付けた。
池下船長が強く言う。
「我々はうんこをするというミッションを必ずクリアしてきます」
そして、宇宙船へと乗り込んだ。
今、テレビをつけると、木星に降り立つ瞬間がお茶の間を賑わせる。
(アナウンサー)
「今、宇宙船716号が木星に降り立ちました。歴史的瞬間です。速報です、今、宇宙船716号が木星に降り立ちました。あ、今、降りたのが池下船長でしょうか。いや、先に降りたのはカメラマンだということです、失礼しました。最初に降り立ったのはカメラマンでした。続いて降りるのが池下船長と見られます。池下船長の右足から、小さな一歩かもしれませんが、歴史的には大きな一歩となりました。続いて、五反田さん、水下さん、と続きます。あれ? 猫が一匹おりましたね、これは宮下さんの飼い猫の『たま』でしょうか。宮下さんのお母さんは、段ボールでたまの家を作った時、表札に『たまホーム』と書いていました。その宮下家で可愛がられている飼い猫の『たま』が肉球を、おそらく動物として初めて木星に、当たり前です、人間すら初めてですから、降り立ちました。これで全ての船員が木星に降り立ちました。しかし、カメラマンは誰なんでしょう」
アナウンサーは興奮していた。
街中では、オーロラビジョンに群がる人たちで溢れ、我先にとその様子を伺おうとしていた。
その日、テレビは木星到着のニュースで持ちきりで、大谷のホームランが報じられることはなかった。人殺しの事件も伝えられることなく、平和な一日だった。せめて大谷のホームランぐらいは映してほしかった。と思ったら、テレビ東京だけが大谷のホームランを映した。さすがテレビ東京。
九十年代のバンド、たま、の『さよなら人類』がヒットチャートの上位に食い込んだ。
みんな口ずさむ。
「今日、人類が初めて、木星に着いたよ。(着いたよ、着いた)。ピテカントロプスになる日も近づいたんだよ」
テレビの画面に釘付けになる。
「只今より、池下船長による独占記者会見を始めます」
アナウンサーがそういうと、日本は夜中の二時も関わらず高視聴率を叩き出した。
「どうも、船長の池下俊宏です。我々は、地球を旅立ってから丸二日、ようやく今日、木星に到着しました。木星でうんこをしようと何度も試みましたが、結論から言えば、うんこは出なかったです。我々UNKO計画2026を実践しようと思いましたが、失敗に終わりました。国際宇宙ステーションの中でうんこをすることになりました。大変残念ではありますが、今回のこのような形になり、申し訳ございません。続いて五反田よりお詫びを申し上げます」
「引き続き、五反田です。私は女性初の木星でうんこをするという大きな使命をいただきましたが、今回はそのミッションを果たすことはできませんでした。大変申し訳ございませんでした」
「続いて水下です。もう少しで出そうだったんですが、やはり不可能でした」
「池下です、一言いいですか? 今回はミッションの失敗に終わりましたが、いつの日か、地球以外で安心してうんこのできる時代が来ると信じています。我々の次世代にこの偉大なるミッションを引き継ぎたいと思います。皆さんが期待していた、木星でうんこをする、という人類史上最も程度の低いミッションではありましたが、この馬鹿馬鹿しいミッションに本気で取り組んでくださった、JAXAやNASAの皆さんには衷心より感謝申し上げます。」
池下はしばらくお辞儀をしたまま、顔を上げなかった。同時に、五反田、水下もお辞儀をしたまま顔を上げない。
「どうか、どうか、顔を上げてください」
アナウンサーがいう。
「そうだ! そうだ!」
群衆の声が聞こえた。
「今の気持ちを一言で表すならば?」
というアナウンサーの問いかけに、池下は、
「クソ」と言った。
最後までお読みいただきありがとうございました。ちょっと今回はふざけすぎましたね。反省。




