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第8話 九条~くじょう~

人里離れた山奥、それとも山の頂上だろうか。深い霧に囲まれた場所にそれはあった。


「失礼いたします」


着物に身を包んだ女性がある一室を訪ねた。


「九条様、ご報告があります」


「ん?どうした?」


九条と呼ばれた人物は静かに呼んでいた本を閉じ、耳を傾ける。


「高天原から抜けた、器の高木。狒々ですが。先ほど討伐したとの連絡が入りました」


「ほう。もしかして、神来社かい?」


「・・・はい」


「ふふっ。やはり、あの妖気は茨木童子だったか。当主になって、そうそうに力を勝手に使うとはね。面白い子だ。挨拶もまだだったし。いいよ。私が直々に裁こう。捕縛隊に伝えておくれ。

『神来社を生きたままここに連れてこい』って」


「かしこまりました」


女性はそれだけ返事をすると、静かに襖を閉めた。


「それにしても、まさか神来社家が鬼を引き出すなんてね。これが吉とでるか凶とでるか」


そして九条はまた手に本を取った。




「三鏡楓か。するとお前が神来社宗助だな。何故命を解かれたお前らが此処にいる」


一難去ってまた一難か。


「それは、高木が私たちを襲ってきたのでその防衛に・・・」


楓が状況を説明しようとするが、相手は聞く耳を持たず、赤髪の男が話を遮る。


「では、何故それを本部へ連絡しなかった。本部へ連絡し、援護を呼べばよかったはずだ」


「それは・・・」


((とりあえず、そんなんどうでもいいから捕縛隊早く呼びな。じゃないとまた起きるぞこいつ))


茨木は話を切ると、高木を指さした。


高木は気絶したからか、元の人間の姿に戻っていた。そして体からは煙が出ていた。


え?煙?


「捕縛隊なら既に呼んであります。それよりも話をそらさないでください」


容姿はわからなかったが、女の人の声だった。おそらく観察係の人だろう。


((おいおい。自分たちの手柄盗られたからってピリピリすんな。それにお前らがこいつと、

やりあっても勝てるとは思えねぇけどな))


たぶんこれは本音なんだろう。ただ、それは相手を挑発するには十分だった。


「ほう。試してみるか?」


もう一人の器であろう、細身の男が刀を抜いた。


「おい!なに余計なこと言ってんだ!」


((ちょうどいいだろ。むしろまだ・・・))


すると俺の体からは煙が出て、だんだんと、茨木の部分だけが消えていく。


「えっ!ちょっと!なんでこのタイミングで引っ込むんだよお前!」


((知らねぇよ!お前が引っ込めたんだろ))


そして茨木が引っ込んだことで足に激痛が走った。


「いってぇぇぇぇぇ!えぇ!足折れたらめっちゃ痛いじゃん」


「騒がしい奴らだな。よくこんなんで狒々を殺ったもんだ」


そんなこと言ってないで助けて赤髪の人!めっちゃ痛いから!


「・・・」


そして、細身の男は絶句していた。


「そこまでです。水無月。法炎」


どこからともなく声がしたかと思うと、目の前にいきなり人が現れた。


「はじめまして。私は捕縛隊隊長、神楽坂と申します」


神楽坂と名乗る男は俺に向かって礼儀正しくお辞儀をした。


「あっ・・・ど、どうも」


俺は痛みに耐えながら返した。


「神来社宗助様。本来あなたは、宿している者の力を本部の許可なく使ったため消されてしまいます。しかし、先ほど本部の方から通達がありました。宗助様。楓様あなた方を本部へ連行します」


え?


神楽坂はそういうと、懐から巻物を出して広げた。


すると、なんてことでしょう。俺と楓はその巻きものから出てきた鎖につながれた。そして


「しばらく眠っていてくださいね」


プシュッっと何かを顔にかけられ、それを最後に意識を失った。



「・・・・。・・・け。・・すけ。宗助!」


誰かに名前を呼ばれ、ゆっくりと目を開ける。


すると目の前には、楓の顔があった。


「いつまで寝てるのよあんたは。早く起きなさい」


まさかの、寝起きで責められるとは思ってなかった。


「ん?てか、ここは・・・」


辺りを見渡すとそこは、とある部屋だった。


「どこだここ?なんでこんなところに」


「昨日のこと覚えてるかしら?」


楓にそう言われ、やっと思い出す。


「は!俺の足!」


「・・・そっちじゃないわよ」


「なっ治ってる・・・!」


まじか。昨日の今日だぞ。しかも、擦り傷とかじゃない。


折れてたのにこんなに早く治ることなんてあるのか。


「鬼の力よ。鬼は足や腕を切り落とされても、切り落とされた部位をくっつければ

元に戻るほどの治癒力があるわ。それよりも他に心配することは?」


「ん?そういえばここどこだ?」


楓は肩をワナワナと震わせると、深い溜息をつき説明してくれた。


「ここは高天原。これから、私とあなたは昨日の一件で九条様に裁かれるわ」


え?高天原?ここが?それもだが


「九条様?」


「九条様は高天原当主のお方よ。私たちに命を出したりするのも九条様よ」


「へぇじゃあ・・・」


もう一つ楓に聞こうとすると、襖が開いた。


「神来社宗助。三鏡楓。お時間です」


物腰柔らかな女性が頭を下げ、俺らの名前を呼んだ。


「わかりました。案内よろしくお願いします」


楓が立ち上がったので俺も、楓の後ろを付いていく。


高天原の中は神社やお城といった類よりも、平安時代の建物に近い感じだった。


「こちらでございます。九条様は先にお待ちになっておりますので」


案内してくれた女性は、そういうと扉を開けた。


!!


その瞬間、俺でもわかるような圧力を感じた。


その圧力の元は部屋の真ん中で静かに本を読んでいた。


「あら?もう来たのか。早かったね。どうぞ座ってください」


口調は静かだったが、あの人の周辺だけではない。この部屋全体が圧をかけてきているようだった。


そして何よりも驚いたのはこれだけの圧を放っているのが女性だということだ。


「しっ失礼します・・・」


額に汗をかきながら。俺と楓は、九条の前に座った。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。初めまして。私は高天原当主、九条静。

楓は久しぶりかな?」


「はい、おひさしぶりです。九条様」


楓は深々と頭を下げた。


そして九条はこっちを見つめる


「挨拶が遅れました。神来社家当主、神来社宗助です」


緊張してる割にはすらすらと言葉が出たと思う。


そして、この時点でわかることがある。この女、格が違う。


「そんなにかしこまらないでいいよ。頭を上げて。すまないね。本来は当主になったら、

こちらから呼ぶんだけどね。状況が状況だったから、先に命を出させてもらったよ」


「い、いえ。こちらこそ挨拶もせずに申し訳ありませんでした」


言葉に甘え頭を上げ、緊張を押しつぶし言葉を発する。


「そういえば、鬼の力を使えたというのは本当かい?」


「はい、短い時間でしたが何故か力を貸してくれました」


「ほう。恭介は力を“借りる”という認識なのか?」


「えっ違うんですか?」


何か間違ってるのかと思い聞き返すと


「ふふ。いいや。珍しい考えだが間違いではないよ。ふふ。そうか。借りるか」


九条は何が面白いのかわからないが、クスクスと笑っている。


「あぁそういえば今回、君たちを呼んだのは鬼の力を勝手に使ったからなんだけど

それに関しては今回は不問にしておくよ」


「えっ本当ですか!」


「状況も楓から先に聞いたし、何より結果的に高木を倒したからね。それを考慮すれば、

不問にしても問題ないだろ」


よかった。これでとりあえず命はとりとめた。


「九条様、そろそろ・・・」


扉に待機していた女の人が九条に声をかけた。



「あら、もうそんな時間か。せっかく来てもらったのにすまないね。

もしよかったら、少しゆっくりしていくといい。特に楓。まだ傷癒えてないだろう」


「いっいえ!私は大丈夫ですので!」


珍しく楓が慌てている。


「楓。女の子は無茶してはいけないよ。そこは男に任せな」


「ははっ。手厳しいですね」


慣れてきたのか、最初に感じていた威圧感はほとんど感じなくなってきた。


「では、私はそろそろ失礼するよ」


九条はそういうと立ち上がり、俺たちが入ってきた扉へと向かった


「神来社宗助、三鏡楓」


不意に俺たちの名前が呼ばれる。


「期待してるよ」


それだけ言い残し、扉は閉じた。

宗助の苗字は神来社からいとです。俺も読めません。

来世はかっこいい名字で生まれてきます。


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