第6話 覚醒~かくせい~
遅い。
なんやかんやで、楓の家を出たのは昼を過ぎてからだった。
今はもう、18時を過ぎてる。
いつもならまだ明るいが、今日は曇りだからかもうすでに薄暗くなっていた。
「せっかくアイツの機嫌取りしようと料理を作ったんだけどな」
しょうがねぇ、探しに行ってやるか。
楓は幼いころから、家を出ていくことがちょくちょくあった。
そのたびに、探すのを手伝ってたからまた拗ねてどっかに隠れてるんだろ。
外に出ると、遠くの方で雷が鳴っていた。
「夕立くるかもな」
それまでには楓を見つけて、家に帰ってきたい。
「とりあえず、公園か川原行ってみるか」
あまり時間もなかったため、とりあえず昔楓を発見した場所に走って向かった。
「ん?」
しばらくしてから、違和感に気づいた。公園、川原までは少し距離があるのだが
家を出てから誰ともすれ違ってない。夕方といってもいつもなら、ちらほら主婦や子供が歩いている。
なぜかここだけ、人がいなくなったかのように静かだった。
「くそ!楓どこに居る!」
なぜだ。なんか嫌な予感がする。自然に走る速さも速くなっていった。
家を出てから辺りは少しずつ暗さが増してきて、辺りは暗くなった。
「はぁはぁはぁ。くっそ!」
ポツポツ。ザー
見つからねぇ。それに追い打ちをかけるように雨が降ってきた。
それでも、探し回っているうちに楓の家の近所まで来てしまった。
「ん?」
今、なんか匂いが。
アスファルトの匂いではない、あの甘い匂いだった。
「楓!」
しかし、辺りに楓の姿はない。
「匂いが続いてる・・・」
今までは一瞬、強い甘い匂いが来ていたが今回はその匂いが残っていた。
もう、これに賭けるしかない。
その匂いを辿っていくと、匂いは強くなっていった。
それと同時に、あたりに楓が使ってたあの人の形をした紙が散らばっていた。
「あたりだ。嫌な予感も」
奴が現れた。くそ!なんで気が付かなかった!勝てるわけがねぇ!
辺り一面に匂いが広まっていた。そして、目の前には
「楓?」
血だまりの中、座り込んでいる楓がいた。
「楓!おいしっかりしろ!楓!!」
急いで駆け寄る。
「そう・・すけ」
「楓、大丈夫か。かえ・・・」
「ごめんね。やっぱり、私は・・・宗助を、守ってあげられなかった」
「なに言ってんだお前!」
「やっと来ましたね。神来社宗助」
声のする方を見ると、そこに居たのは
「高木、総一郎・・・!」
「まぁ辺りも暗くなりましたし、時間的にはベストですね。いやぁそこの観察係の女もやはり
高天原に属しているだけありますね。狒々の力を少ししか借りれない状態だとはいえ、
かなりの時間鬼ごっこをしましたよ。最後は時間切れでしたけどね。その女が死ぬ前に来て
良かったです」
(おい高木。さっさとしろ。あの女を目の前にして食うのを我慢したんだからよ)
「どういうことだ?」
(俺らが興味あるのは、お前だよ小僧。昔から赤子の生き肝は俺らに千人力の力を与えてくれる。
そして、それに匹敵するのがお前ら神に仕えるものだよ。ただ俺も鬼を宿した神職の肝なんぞ食った
事が無いからよぉ。楽しみにしてたんだ!)
「俺に興味があるんなら、なんで楓を襲った」
すると今まで笑いながら話していた高木が、蔑むような目を楓に向けた。
「あぁ。高天原に連絡されると面倒ですしね。だから餌として使わせてもらいました」
ドクン。
高木からその一言を聞いた瞬間、今まで感じたことのない熱さを体の中感じた。
俺は楓を抱きかかえ、少し離れた壁際に避難させた。
「楓。止血とか自分に効果のある様な術ってあんのか?
「えっあぁうん。止血くらいなら」
「そうか。じゃあ悪いけど、ちょっと待ってろ」
「宗助、ダメ。鬼の力を使わなきゃ、アイツには勝てない。もし、使えても本部に妖気を感じられる!
宗助、死んじゃうよ」
楓は、今にも泣きそうな顔で俺の裾を掴んだ。いやもしかしたら、泣いてたのかもしれない。
その手を、振りほどいて高木のところへ向かう。
「おい、鬼。聞こえてんだろ。お前の力貸せよ。何百年も散々黙りやがって。怖いのか?
高天原の連中に消されるのが。自分が負けるのが。お前鬼だろ?好きなものは力で奪い自分のものにして、全部をぶっ壊す。」
(・・・)
「ほう。死ぬとわかってて、逃げないとは中々肝が据わってますね。それに、心の奥底から
怒りを感じますね。私があなたの心を探っても無駄みたいですね」
(高木、さっさと変われ。もういいだろ、もう我慢できねぇ)
「そうですね。後はあなたにお任せします」
そういうと高木の四肢が変化した。
「だったら俺にその力貸して、目の前に守れる命があるのに力を使えない掟も。
てめえが何百年も、人なんてくだらない器に入れられて飼われてるこの世界を。
ぶっ壊そうぜ!だから俺に力、貸せ!」
(!!)
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(簡単に言うと、儂という器にお主の魂を入れる。普通の人間ならできんが、
儂は陰陽術をかじっとる。それにお主が一番わかっているだろが、儂は普通の
じゃない。だから、お主の力貸してくれんかの?そんで・・・)
(このつまらん世の中、ぶっ壊しに行かんか?)
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(じゃあな。坊主)
その瞬間、高木の姿が消える。
しかし、その爪は俺には届かなかった。
(な、なに!)
俺の頭部を目がけ振り下ろされた爪は、俺の角によってはじかれた。
(・・・てめぇ、その二本の大角。その妖気。貴様まさか、大江山の・・・)
「茨木童子・・・」
楓がつぶやく
((あっ?なんだもう知られてんのか?じゃあ、名乗る必要もねぇな))
そういうと茨木童子は、狒々を真っすぐに見つめた。
((今日は気分が良い。数百年ぶりの仕合だ。楽しませろよ?狒々ぃ))
「クハハ・・・姦計にて断たれ、戻りし身の右腕は怪異と成った!走れ、叢原火!『羅生門大怨起』」
やっと出てきました鬼。
ブックマークしてくださりありがとうございます。頑張って書いていきたいと思います。