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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第2部第3章:新たなる恋芽生え

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161.為すがままに、修羅場を作る…… 中編


「ひ、姫ちゃん……さよりは先に帰したって、君はどうやって帰るつもりなのかな?」


 さよりと姫ちゃんは会話こそしなくても、迎えの車に乗って一緒に帰っている。


 さよりだけを帰したとすれば、帰る手段を確保しての行動を取ったということになるが。


「……あぁ、そのことですか。ここにいるじゃないですか」

「へ?」

「湊さんがいます」

「お、俺が?」

「はい。泊まるつもりならそのままでもいいですし、そうでなければ湊さんに送って欲しいです。駄目……ですか?」


 この子は俺が断れないことを計算している。


 弱みを握られているわけでは無いが、腰に手を回したまま、上目遣いでお願いしてくる辺りがあざとい。


「泊まるってことはバイトを一緒にする気があるの?」

「……それは微妙です。確かに一緒に住めるかもですけど、私、母に何も話していないので。そういうことをするのはきちんとしないとなので」

「そ、そうか。いさきさんは厳しい人だもんね。俺のことは何か言ってたりするのかな?」

「母がですか? それとも私が母に……?」

「い、いや、言ってたからどうってことじゃないんだけどね」

「母には大事なことだけ伝えることにしています。もちろん、好きな人のこととかです……」

「そうなんだ……は、ははは」


 あまり深く追求すると自分が危険だ。


 池谷いさきさんとは、さよりの問題のことで会ったきりではあるけど、さよりは家ではどんな感じで接しているのだろうか。


「ここだから、二人とも中に入って」

「あ、うん」


 チャリで移動するほどでもないみちるの家は、姫ちゃんと話をしていただけで、あっという間に着いていた。


「……ここですか?」


 店舗兼住宅の前に着くと、姫ちゃんは外観をジッと見ながら、目を大きく見開いていた。


 普段お嬢様している姫ちゃんにとっては、違った風に見えているのかもしれない。


「定食屋だね。姫ちゃんのイメージとは違った?」

「いえ、情報で見てましたから」

「そうだった……じゃあ、何でそんなに見ているの?」

「庶民の家って感じがしたので」

「お、俺の家も庶民だよね?」

「湊さんのお家は違いますよ」

「え?」

「湊さんが住んでいるってだけで、そこは普通のお家じゃないんです」

「う、うん……」


 何かが怖い……姫ちゃんは、俺のことが好きってことは理解しているが、どうしてこうなった。


 思い出に残る様なことをした覚えは無いはずなのに、姫ちゃんの中では何かが違うのだろうか。


「高洲、それと妹も裏口から中へ入る」

「お、おう」

「お邪魔致します」


 いわゆる俺以外の人間に接する時は、言葉遣いは丁寧なのに、それすらも作られているかのように見える。


「……アルバイトを募集している割に、お店は開いていないのですね」

「今は親父さんたちが休んでいるかららしいんだよ。そうだよな、みちる?」

「そう。でも、そうじゃない。バイトと住み込みが確保出来たら、高洲が頑張る……だから、コレ付けて」

「何で俺が!? 料理を作れても、客に出せるレベルでもないって俺、言ったよね?」


 バイトの風向きが違うような気がするが、実はお店は休業中とかなんじゃ……


「湊さんのエプロン姿、見たいです! 着けてくれたら、この人も納得すると思います」

「つ、着けるだけならいいけど……まだ何も決めてないんだからね?」

「お願いします」

「高洲、着けて」


 たかだかエプロンを着けるだけで、どうして二人の女子から期待を込められているのか。


「ん? んん……? 後ろはどうやるんだっけ?」

「私がやってあげま――」

「高洲、こう。これを交差させて、両側の金具に通す……出来た?」

「あぁ、そうか。交差か……ん? 姫ちゃん、どうかした?」


 何やら両手を出したまま固まっていて、ムスッとした顔をしているようだ。


「何でもないです! 湊さんのバカ!」

「なんかしたっけ?」

「何もしてないです!」

「よく似合う。高洲、今すぐ振る?」

「湊さん、似合っています! 振るって何をですか?」

「それは心の準備の問題があるし、今すぐは無理だよ。やるってことも言ってないしね」


 俺と似た疑問を浮かべているようだが、料理屋で振ると言ったら鍋しかないだろう。


「「鍋」」


 俺とみちるが同時に答えを言い放ったことで、姫ちゃんもさすがに困惑していたようだ。


「……最初から分かってますから、呼吸合わせて返事しなくても……」

「と、とりあえず、エプロンは今はいいよ。返すね」


 今日は何かをするつもりで来たわけでもないし、予想外のゲストがいるだけにやりづらさもある。


「湊さん、そのエプロンをその人に返す前に渡してください」

「うん?」


 エプロンを返したらそのまま帰ろうとしたのに、姫ちゃんもやる気になったのか、エプロンを着けてみる気になったらしい。


「……どうですか? 私、似合ってますか?」


 似合っているのはいいとして、姫ちゃん……この子、こんなにオムネさんがあったかな?


 黒のエプロンの中に見えるのは、白地でヒラヒラの洋服なだけにそれがどうにも分からなかった。


 はちきれんばかりのオムネさんが、エプロンを通じてアピールしまくっているように見える。


「ひ、姫ちゃん……窮屈そうだけど、大丈夫?」

「湊さん、どこ見てるのかバレバレですよ? 信じていないのでしたら、触れますか?」

「どこのことを言っているのか、俺には分からないなぁ……」

「高洲は、妹のコレが気になる? じゃあ、代わりにやるから」

「へっ? 代わりに?」

「ちょっと……私は湊さんに……や、やめっ……」


 思わず手で目を覆い隠すしか無かったが、目の前で繰り広げられているのは、みちるによる姫ちゃんの身体検査である。


 俺が姫ちゃんの言葉に従ってやれば、間違いなく通報案件に間違いない。


 姫ちゃんの同意があったとして、ソレをしてしまえば姫ちゃんから逃れられなかった気がする。


 それが彼女の狙いなのだとしても、人前でそれは勘弁して欲しい。


「高洲、妹のソレは一応、本物。疑うのは駄目。信じられないなら、触れてみれば?」


 見ると姫ちゃんは顔を真っ赤にしたまま、俺を睨んでいる。


「いや、疑ったわけじゃなくてね……もちろん、触らないよ」

「~~! 腹が立ちます。何で湊さんは私をいつまでも子供扱いしているんですか!」

「そ、そんなことは無いよ?」

「何だか納得できないので、今日はここに泊まらせてもらいます。湊さんも一緒にです!」

「え、俺も!? いや、帰るつもりしてたけど……」


 触る触らないはともかくとして、姫ちゃんの中で相当ムカついてしまったみたいだ。


「……高洲と妹は部屋は一緒でいい?」

「いいわけないでしょ!」「いいです!」

「……どっち?」


 みちるに妹だとかそうでないとか、説明しても恐らく通じないだろうし、これは困ったことになった。

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