162.さよりさん、妄想するSS③
「さよりさん、お話があります」
「えっ、は、はい、お母さま」
なんて珍しいことが起きているというの? お母様がわたしに話だなんて……
「な、何でしょうか?」
「……彼とは上手くやっていますか……?」
「え……あの、湊……とは、その……」
「分かっています。お付き合いを断られたのでしょう? それでも良好な友人関係だと聞いておりますけれど、違いますか?」
「は、はい。違わないです」
あぁ~びっくりした。
てっきり怒られるのかとばかり思っていたのに、そうじゃなかったなんて。
「それならいいのです。高洲家とは隣同士ですから、仲違いになることは避けたい所です」
「はい」
「……あの子、姫のことでお聞きしたいのだけれど、さよりはどう思っているのですか?」
「え……そ、それは、湊とのことですか? そ、それとも――」
「――そう、あの子も高洲家の彼のことを、まだ……。あの子の行動力のことは伝え聞いておりますけれど、わたくしとしては、心を入れ替えたさよりと彼が結ばれることを望んでいるのですよ」
「も、もも……もちろん、わたしも同じででででです」
「しかし今もそうですが、姫は彼に付いて行っている。違いますか?」
「は、はははい。たぶん、そうなのだと……」
帰りの車も乗って来なかったし、何も言って来ないし……それはいつも通りだけれど、湊もいなかったし。
ま、まさか、そのまさかだったりするの!?
「……近く、社交の場に池谷も参加を求められているのだけれど、さより。あなたが出なさい!」
「ひゃ……わ、わたしがですか!?」
「長女なのですから当然です。心配しなくてもあの人も出ますから、あなたはあの人の言われた通りにしていれば、何も問題はありません」
「お、お父様の言われた通りに……そ、そうだとしても、それに出ることに何か意味が?」
「……主催は栢森財閥で、そこの令嬢が社交デビューをするためです。他にも来られることでしょうけれど、恐らく鮫浜も……」
「鮫浜……」
「そこでの目的は、栢森の令嬢によるお披露目によるもの。池谷は財閥ではないけれど、参加が認められたのです。そこにさよりが出て行けば、あなたにとってもいい話が来るに違いありませんよ」
鮫浜というと、当然だけれどあゆのことよね。
それはいいとしても、栢森……どこかで聞いたような気がするわ。
「い、いい話とは何なのですか?」
「将来のパートナー候補が見つかる場でもあります。あなたはそこで、良き人に出会い、パートナーとなる方を……」
「い、嫌です」
「……お付き合いをしていない彼のことがそんなにも? たとえ付き合っていくとしても、あなたは苦労をすることになるわ。どうして、そこまで……」
「み、湊がいいの。湊だけがわたしを……社交の場には出ます。ですけれど、わたくしはそこで誰かと……なんてことはあり得ません」
「……とにかく、それまであなたは磨き続けなさい。姫のことは、わたくしで手を打ちます。姫の為にも、高洲家の彼にこだわる必要はないのですから……」
た、大変なことになったわ。わたしが社交の場に出るだなんて……
あゆとも顔を合わせることになるのも大変だけど、栢森の令嬢、それも主催だなんて。
姫のことはお母様も心配をしていたけど、姫にも無駄に優しさを出している湊が悪いんだわ。
絶対絶対、湊がいい。
湊に過去のことを許されたあの日、そっと抱きしめてくれたあの日のことは、絶対忘れないんだから。




