153.姐御による舎弟の為の教育 A-end
俺だけが全裸となり、誰得なのかと思っていた心の叫びが届いたのかは定かでは無いが、突発イベント発生である。
姐御は浴室に着いたところで気が変わったのか、無言のまま服を脱ぎ出して、さっさと湯船に消えて行った。
後ろ姿の臀部と太腿を見ただけでどうにかなりそうだったが、果たして入っていいのか謎だ。
「何してる! 早く入れ!」
「ひっ! は、はい、今すぐ~」
何て男気全開な姐御なのか。今まで接してきたお嬢様系女子とは、まるで違いすぎる。
「で、では、お言葉に甘えまして湯船に入――」
「ざけんな! まずは体を洗え! 入っていいのは、全てを流した後だろうが!」
「あー……はい~」
風呂に浸かるルールは個人差があるが、ここは人の家の、しかも姐御の部屋の浴室。
失礼の無いようにしなければ、裸のままで追い出されてしまいそうで恐怖だ。
俺が洗っている間に、湯船から出てしまうのがオチだろうが、念入りに頭と体を洗うのがベストだろう。
「……おい、みなと、まだか?」
「ま、まだです」
「ちっ、ボサボサ頭なくせに、風呂は長い野郎かよ……」
「あ、洗い終わりました」
「早く入りやがれ!」
「は、はい」
主導権握られすぎなんだが、同じ湯船に浸かっていたら普通はもっとこう、ドキドキなシチュエーションが起きてもいいはず。
そんなことは許さねえと言わんばかりに、湯気で姐御の姿が見えないままで、半ば我慢比べのような時間が訪れている。
当然だが、だだっ広い湯船で、お互いが背中を向けているということを推定。
「おわっ!?」
推定していたのに、どこからともなく自分の背中に、別の背中の感触を感じてしまった。
間違いなく、姐御の柔肌な背中が俺の背中にくっついて来ている。
「え、あの、嵐花さん!?」
「……みなと、あたしがどうしてダブっていて、同じ学年にいるのか聞かねえのか?」
「あー……いや、そういうのは本人が言いたくないことの方が多いと思うんで、聞かないですよ」
「優しい奴だな、お前。不埒な野郎は嫌いだが、優しい奴は好きだ」
「はは……ど、どうも」
「――今度こそ、失敗しないで共に歩みたいな……ふぅ~はぁ、はぁ……も、もう限界だ!」
「へっ?」
ザバーン! と勢いよく立ち上がった姐御は、湯気で隠された部分を除いて、包み隠さず俺の目の前を通り過ぎて行った。
かつてないほどのたわわなオムネさんを、この目に焼き付けたまでは良かった。
姐御が限界を感じて湯船から出て行ったのと同じくらいに、俺もすっかりのぼせていたらしい。
「うーん……」
「おい、おい! ったく、世話を焼く野郎かよ。仕方ねえな……」
気付かないうちに、完全にのぼせていた俺はヒンヤリとした風を受けながら、ふんわりとした感触の上で眠っていたらしい。
かつて鮫浜がしてくれた膝枕も、そういった気持ちよさがあった気がするが、今の方が断然……ん?
「ん、え……?」
「ジッとしてろ。全く、あたしは我慢出来たってのに、お前はとことん弱い野郎だな」
「のぼせてしまったんですね……?」
「そうだ。真っ裸な野郎を抱っこさせやがって、お前でほぼ確定じゃねえかよ!」
「何の話です?」
「――今はとにかく、体を休めておけ。泊める予定だったが、無理はさせたくねえ。落ち着いたら送るから、後日またあたしとここで過ごせ」
「は、はい~……こ、このままの姿勢です~?」
「夢中になりそうか?」
「はい~……嵐花さんの太ももが最高で……」
――って、これは瞬殺される不埒な発言か!?
「ふ……そうか。それは良かった。みなと、ゆっくり休め……」
「嵐花さん? ありゃ……」
俺を膝の上に寝かせながら、姐御もスヤスヤと寝落ちてしまったらしい。
さすがに頭は撫でられることが無かったが、年上の魅力は凄まじいということが分かった。
寝落ちていながらも、姐御の手は俺の手をしっかりと握って離さなかったのが、何とも言えない。
言葉は悪くても、嫌味が無いし悪気があるわけでもない姐御になら、受けるはずだった教育を受けてもいいかもしれないと思えた。
◇
「みなと、またな!」
「ら、嵐花さんも」
「さん付けしなくていい。学校でも、嵐花と呼べ。みなとだけ許してやる! そうじゃねえと……」
「じゃ、じゃあ、嵐花。また……」
「ええ、またね」
最後のセリフで惚れさせる計画!?
もしや俺は、年上女子に惚れやすいのだろうか。
相手は意識しているのかしていないのか分からないが、密着して来る率が高いし、難しいとされる膝枕すらすぐにしてくる。
いやいや、待て待て……すぐに好きになったり、惚れたらトラウマ発動しそうだ。
とにかく、また姐御の邸宅にお邪魔した時にでも、気持ちを確かめることにしよう。
栢森家付きの黒塗り過ぎる高級車は、さすがに俺の家の前までは乗りつけ出来なかったらしい。
家までほんの数分の距離を歩いていたら、俺の家の手前で仁王立ちしている奴の姿があった。
「お、遅かったのね! どこに行っていたのかしら?」
「お前のその言葉は、アレなんだよなぁ……」
「お前などでは無いもん」
「……で、何か用か? さより」
「あ、あのね、ごめんなさい」
「ん?」
「雨の中で、置いてきぼりにさせたのはわたしの落ち度なの。姫に怒られてしまったの……だ、だから」
「あぁ……気にしていない。あの後、浅海が現れたからな。さよりがあの場に残っていた方が問題になった」
「浅海? そ、それって、あゆの……?」
「ああ、まぁな」
「そうなのね……そ、それでね、湊は引っ越しを考えているって聞いたの。そのことでお話したくて待っていたの」
そんな情報をさよりに聞かせられるのは、姫ちゃんしかいない。
みちるのことはいずれバレそうだが、今は誤魔化すしかないかもしれないな。
姐御のこともあるし、自分の家に帰って来れない可能性が極めて高い。
「悪いが、疲れてるし帰って寝る。さよりには後で話す」
「そ、そう。分かったわ。お、おやすみなさい、湊」
「おー。おやすみ、さより」




