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第三十七話 楽は出来ねぇ

 疑問の残るやり取りの後。

 俺たちは探索を続けていたのだが、イメルダと雑談していたはずのタチバナが突如真剣な声を発した。


「コウジ、進行方向300メートルに獣型の魔物。たぶん、『レッドウルフ』だと思う」


 ……………マジかよ。

 感知魔法の使える秋人よりも早く見つけるとか、どんな視力してやがんだこいつ。さすがは遠距離魔法の使い手だな。

 というか、喋りながらもちゃんと周囲の見張りしてたのか、タチバナ。


「『レッドウルフ』もこっちに向かって歩いてくるから、このままだと遭遇するよ」


「体力的になるべく戦闘は避けたいところだが………」


 何だかんだで二時間以上も歩いてるから、結構疲れてたりする。

 森の奥へ行くだけで体力を使うんだ。それ以上の面倒は避けたい。


「コウジさん、さっきも言ったけど、このチームで一度は実戦をしてみるのも良いと思うよ?」


 秋人はそう言うが、俺の気は進まない。

 だが、


「あ、私も魔物相手の実戦はほとんど経験ないから、やってみたいかも」


「そういや、俺も集団で魔物と戦ったことはあんまねぇな」


 イメルダとラルフが続けた言葉に、やっぱりやっておくべきかも、と些か不安を覚えてきた。

 いくら何でもぶっつけ本番はマズイ。

 目的の相手が『牛鬼』なら尚更だ。


「コウジ、やってみても良いんじゃない?」


 最後にタチバナにまでそう言われてしまえば、もう俺に断ることは出来ない。


「はぁ、しゃーねー、やるか」


 つくづく、楽はさせてもらえないようだ。


「じゃあ秋人、どう戦う?」


「『レッドウルフ』は炎系統の魔物。使えるのは中距離狙撃の初級魔法『火炎の弾丸』、炎を纏った近距離突撃魔法『炎撃』だ。ラルフ先輩の水系統を軸に、近接戦闘をメインで戦おう」


「分かった」


「おうよ!」


「俺とタチバナ先輩で援護、イメルダさんが前衛の防御を」


「「了解!!」」


 一瞬で作戦が決まり、俺たちはすぐさま陣形を整える。


「俺とタチバナ先輩に至っては他の魔物の気配にも警戒しながら戦闘を行う。だからコウジさん、派手な魔法は極力控えろよ」


「うっ、分かってるよ………」


 先日『双竜の牙』でバカデカいクレーターを作っちまったからな。マジで力加減に至っては気を付けよう。


「先手は取られたくねぇから、俺が先に突っ込むぞ!」


「OK、陣形を保ちながら前進するから、あまり離れすぎないでくれよ」


「おう!」


 一応は秋人の許可を得て、俺は腰の剣を二本抜き、一直線に駆け出した。

 すぐ後ろに、同じく抜剣したラルフも付いてくる。

 『雲隠れ』の状態とはいえ、魔力を高め過ぎたこともあり『レッドウルフ』側にも気付かれたようだ。

 威嚇のつもりか『炎撃』による炎を身に纏い、見上げるほどの大きな狼が突撃してきた。


「タチバナ、狙撃で援護を頼む!」


「任せて!」


 俺の言葉に答え、タチバナは腰に付けたホルスターから魔法銃を抜く。

 自身の魔力を、威力・精度を上げて撃ち出す補助具的な意味を持つ魔法銃は、系統を問わず狙撃・砲撃魔法の全てに対応している。

 古代魔法具の一つだが、物が多く出回っていたから稀少性はそこまでだ。

 精霊そのものを宿せる『霊剣』の発展から今となっちゃ時代遅れの武器に等しいが、現代の戦闘に持ち寄ってもほとんど見劣りはしない。

 むしろ、まだ未熟でどの系統に強い特色があるか分からない魔法学園の生徒が使うなら、一つ、二つの精霊系統しか付与されてない『霊剣』より、どの系統にも満遍なく使えて、素早い魔法展開が出来る銃の方が勝手が良いと思った。まぁ、その分 火力は『霊剣』より若干落ちるんだけどな。


 それとこれは個人的にだが、タチバナには剣よりも銃の方が良い気がした。

 あいつは、砲撃手じゃなくて狙撃手だ。

 『霊剣』を使った火力重視の遠距離魔法で圧倒するんじゃなく、威力は低くともその命中率と連射力で敵を翻弄する方が向いてると感じた。


 そんなこんなで、俺は魔法銃をタチバナに渡したんだが……………………………果たして良かったのか今は疑問符が浮かんでくる。


 俺たちと『レッドウルフ』がぶつかる手前で、タチバナが魔法銃による魔力弾を連続で放った。

 燃える魔物にではなく、その足元だ。

 駆けている四足歩行動物の前足。しかも着地しようとしていた地点にドンピシャで放たれた狙撃は、見事に『レッドウルフ』の巨体を崩した。

 そこに追撃をかける連射された二発目がぶち当たり、炎を纏う巨大な狼は地面に転げる。


 ……………………………冗談だろ。


 魔法銃を使ってるとはいえ、ただの魔力弾だぞ。

 あんな大型魔物の体勢をあんな簡単に崩すかよ。

 しかも今の連射。早すぎて二発目を撃ったことも気づかなかった。


「コウジ、今のうちに!!」


「お、おお!」


 危うく呆けるとこだった。今は戦闘中だ。


 集中してなきゃ、死ぬ。


 忘れてんじゃねぇよ。


 俺は足を止めることなく突き進み、『レッドウルフ』の射程に入ろうとしたとき、倒れたまま首を動かした狼は、その口から炎の球体を放ってきた。


 真っ正面から『火炎の弾丸』が迫る。


 そこで、


「『大地の精よ――今ここに我を守り・守護する防壁を造り出せ』」


 イメルダの詠唱が聞こえたと思った瞬間。

 俺は足元から伸びた土系統の防御壁によって押し上げられ、『火炎の弾丸』の進路から離脱する。

 おまけに炎の球体は大地の壁に阻まれ、俺の後ろにいるラルフたちにも影響はまるでない。

 そして、押し上げられた俺はそのまま跳躍し、『レッドウルフ』へ斬りかかれる。

 これが防御から攻撃まで一連の流れを作り出す、イメルダの土系統―――地形操作。


「おらよ!!」


 俺は落下の勢いを付けたまま、二本の剣を『レッドウルフ』の脳天に叩き込んだ。

 だが、


 思ったより硬い!! ってか熱いわ!! まだ燃えてるからこいつ!!


 斬り裂けないと思った俺は敢えて弾かれ、狼の頭上を通りすぎて背後に着地した。

 狼野郎は直接攻撃した俺に注意が向いてる。

 よし、チャンスだ。


「『水の精よ――我が剣に纏え・流水の剣撃』」


 大地の壁が解かれた先から出てきたラルフは、その剣に水系統を纏わせて『レッドウルフ』へ突撃した。 


「『歌え精霊の声――水の魔力に纏い・彼の者に力を』」 


 秋人が第三種強化魔法―――支援強化の詠唱を響かせると、ラルフの『流水の剣撃』に宿る精霊の力が跳ね上がる。


 ―――――――一閃。


 振り抜かれたラルフの剣によって、『レッドウルフ』の首が飛ぶ。


 ズン、と鈍い音を上げて力なく崩れ落ちる狼の巨体は、自身の炎によって焼失していく。


 随分とあっさり勝てたな。


 まあ、連携も申し分ないし、これなら本番でもちゃんと戦えるだろう。


 …………………………たぶん、な。


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