第三十八話 何も変わらねぇ
一つの戦闘を終えて、俺たちは腹ごしらえをしようと腰を下ろしていた。
俺も食料はある程度用意してきたが、今日の昼飯はタチバナが弁当を持ってきたらしい。用意の良いことだが、弁当を収納魔法で保存しとくのは果たしてどうなんだろう。
いや、日常と切り離せないのが魔法なんだけども、そんなピクニック的な使い方で『魔法具』を使うのは良いのだろうか。
それは置いといて、立花レーナの手作りだという弁当は、意外でもないがかなり美味かった。
ただ少し疑問に思ったのは、皆に配られた弁当箱の中身が全部違ったことだ。
その疑問も、食べ始めてすぐに分かった。
魔法界には魔法に関わる特殊な食材を調理して、それを食べる魔法使いのスキルを上げるという身体作りを兼ねた料理があるが、どうやらタチバナが作ってきたのはそれらしい。
魔法植物や魔法動物にも食用の物があるからな。
たぶん、それぞれの食材を俺たちの特性に合わせて調理し、まるで効果の違う弁当を全員に用意したんだろう。
俺の弁当に体力増強のための『レッドボア』の甘ダレソース焼き肉を入れてる辺り、間違いねぇな。
何かさっさと体力つけろと言われてるようで肩身の狭い食事になりそうだと思ったが、一口食ってすげぇ美味かったから、もう何でも良いや。
同時に、食っていると腹から力が湧いてくる感覚を得て、栄養と魔力、体力を補給できていることが実感出来る。
同じように、他の皆にも必要な栄養を補給させているんだろうな。
一緒にいた僅かな時間で、ここまで俺たちの能力と欠点を把握した上に、それを補おうとするか。
こいつの眼力はとんでもねぇな。
「どう? コウジ、美味しい?」
「ああ、美味いよ。にしてもまさかタチバナが…………」
料理の感想を聞いてきたタチバナに答えようとして、俺の言葉は途中で止まった。
………………このやり取り、昔どこかで。
―――どう? コウジ、美味しい……?
―――ああ、美味いよ。にしても、パルレギア王国第二王女の光が料理を作れるとはな……。
ふと、そんな記憶が脳裏に甦った。
この弁当の、どこか懐かしい味のせいか。
「コウジ? どうかした?」
「いや、美味いって言っただけだよ」
「ええ、ホントに美味しい。タチバナさん、料理上手なのね」
皆から口々に料理に対する称賛の言葉が上がると、タチバナは嬉しそうに照れて頬を染めていた。
俺は甦った記憶を払うように、秋人へ話し掛けた。
「そう言えば秋人、お前って第三種の魔法も使えたのな」
「あー、そっか、塾生時代は使わなかったっけ。まあ、あの当時は相手が同じ塾生しかいなかったし、支援強化の魔法なんて皆には必要なかったからね」
冗談じゃねぇなこいつ。
あの当時でまだ力を隠してやがったのか。
そもそも魔法学園の一年生で、いや学園に通ってる最中の生徒で第三種と第四種の両方を使える奴なんていねぇだろ。
しかも、秋人はたしか第一種の魔法も何かしら使えたはずだ。
全く、底知れねぇ後輩だよホントに。
「言っとくけど、種別魔法なんて後々多くの魔法使いが修得するものだ。俺はそれを少し早く覚えてるだけに過ぎない」
「いや、それが凄いんじゃないの?」
流石に学年一位であるイメルダも苦笑いでそう言った。
「俺からしたら、練習したところで覚えられない稀少魔法をその歳で使いこなしてることの方が、よっぽど化物だと思うけどね」
何故か俺を見ながらそう言った秋人。
いやいやいやいや、そうは言うが俺の『竜剣術』は生まれつきのものだし、修得するも何も最初から使えただけだ。
動物でもそうだろ。持って生まれた牙や爪を扱って生きていく。客観的に見れば使えるのが当たり前であって、使えるようになるのは言わば本能みたいなもんだ。
生きていく過程で身に付ける普通のこと。
だから何の自慢にもならない。
当たり前のことを当たり前にやっているだけだ。
それを、努力とは言わねぇ。
何も特別なことはしてない。
ましてや化物とか言われるのは人聞きが悪ぃぞ。
俺は訝しげな表情をしていたのか、秋人は肩を竦めてため息を吐いた。
「どうにも、相変わらずみたいだな………」
「あん?」
言ってる意味が分からんぞ。
「その自分の凄さを分かってないところ。だから、コウジさんは天才なんだよ」
そのまま呟かれた秋人の言葉に周りの皆は苦笑いをしていた。
……………………何ぞや?
◇ ◇ ◇
腹もふくれて、体力もバッチリ回復した俺たちは、再び森の進行へと戻る。
途中で珍しい植物がある度に止まって採取してるから、無駄に時間を食ってるような気もするが、気にしないでくれたまえ。
「ホントにすげぇなこの森は……………『ブルー・バタフライ』まであったぜ」
まさかAAクラスの稀少植物まであるとは思わなかったぜ。世にも珍しい『水中歩行』が出来るようになる魔法薬の原料で、相当珍しいんだよな、これ。
市場では滅多に取引されない物だから、買って手に入れたいならオークションが基本の高価なものだ。
最低でも軽く二百万ゴールドはするから、そうそう買えるもんでもねぇし。
この森は、マジで何でもあるな。
危険区域とはいえ、とても学生用の演習場とは思えねぇ。というか、こんな貴重な物が大量に育っている区域に俺たちみたいな学生が入って良いのか疑問だ。
クレリア先輩は上級生用の演習場とか言ってたが、このレベルだと魔法教会のトップクラスでもないと入れない感じだ。
それこそ、海藤コーリエ騎士団長――――俺の姉貴クラスの人間でもなければ。
「…………気になってるか?」
俺が不信感を抱いていると、秋人がいつの間にか俺の横に来て声をかけてきた。
「秋人………」
「この課題がどういうものなのか気になり始めた、ってとこだろ」
秋人のこの口振り…………、
「お前、最初から…………」
「やっぱり知らなかったんだ。ここは確かに魔法教会などの演習場も兼ねてはいるが、元を正せばミーティア家が所有する森だからな」
…………………だと思った。
こいつ、下見のときから妙に手慣れてたからな。
レイバ国最大を誇る魔法の名門―――ミーティア家。
1000年以上も前にメリゼル魔法教会を設立して以来、代々このレイバ国を守り、支え続けてきた魔法使いの一族。
彼らが所有する森ということは、言うまでもなくレイバ国最高クラスの魔法区域だ。
とても魔法学園の生徒だけで入れるような場所じゃないのに、俺たちは五人だけでここにいる。
本来ならありえない。
容認されている、ということだ。
魔法学園はもちろん、魔法教会と、この区域の主であるミーティア家に話を通して。
たかが、魔法学園の―――しかも第二学年生徒の課題の為だけに、そんな許可が降りる訳がない。
上級生用の演習場だと、わざわざ俺たちに嘘をついてまでこの森に入れたクレリア・オルゴート先輩。
そして、それを差し向けた姉貴。
だが、例え姉貴であったとしても、こんな我が儘は簡単に通らない。
騎士団長以上の力を持っている者なんて、王族か、王族以上の権限を持つミーティア家の人間。
俺の頭に浮かんだその思考は、秋人の浮かべる含みのある笑みを視界に入れると、ため息と共に脳内から吐き出された。
この野郎、まさかとは思うが分かってて止めなかったな。




