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第三十二話 何故に俺が怒られる?

 校舎裏。

 マジで絡まれてんじゃなかろうか。

 そんなことを考えてしまうほど強引にここまで連れて来られた俺は、移動中一言も喋らなかったタチバナにビビりながら縮こまっている。そこ、情けないとか言うな。

 男と女。

 学園の校舎裏。

 それだけ聞くと何やら素敵な展開が待ってそうだが、この状況では勘違いの要素は皆無だった。夢を見る暇すら与えてくれそうにない。


「ねぇ、コウジ………」


 ようやく発せられたタチバナの声は異様なまでに低かった。


 こわっ!! 何こいつ、こっわ!!


「みんなが噂してるけど。昨日、演習場に行ったって本当?」


「は、はい、本当です」


 思わず敬語になった。


「何しに行ったの?」


「ええ、と、地形と魔物が住むエリアの下見を………」


「一人で?」


「いや、秋人と二人で………」


 嘘は許されそうにない雰囲気なので、とにかく正直に話す。

 というか、何でタチバナはこんなに怒ってんだよ。


「元々『牛鬼』狩りは私の課題だよね?」


「ああ、まあ、そうだな……」


「成り行きでコウジの課題にもなっちゃってるけど」


「不本意ながら、な……」


「なら、下見のときどうして私には一言も声を掛けてくれなかったのかな?」


「いや、それは別に………」


「どうして私には一言も声を掛けてくれなかったのかな?」


 これか、怒ってる原因。

 まったく有り難くないが分かりやすい。

 と、思っていたら、タチバナは先ほどとはまた違った、どこか咎めるような声で口を開いた。


「あの演習場の危険区域は、学園の下級生が二人で入るのは自殺行為だって、コウジは言ってたよね?」


「ああ、まあ………」


 確かに最初にあの場所へ言ったとき、そんなようなことを言った気がする。


「人に危ないって言ったことを自分は平気でやっちゃうんだ、へぇ………」


 あー、問題はそこなのか。

 でもそれ元の原因、俺じゃなくね?

 秋人だよな、言い出しっぺ。下見は二人で十分とかなんとかで、俺は嫌々だったはずだ。

 というか、


「いや、俺は最初下見も五人でやるつもりだったんだが………」


 そう言ったらタチバナは訝しげな顔をしながらも怒気をおさめた。


「じゃあ何で結果的に二人で行ったの?」


「お前がイメルダとラルフを行動不能にしたせいだろ!!」


 そうなのだ。言い出したのは秋人だが元の原因をたどればこいつなんだよ。


「うっ、それは……確かに申し訳なかったけど。じゃ、じゃあせめて私に一言くらい言ってくれれば」


「お前に言ったら絶対ついて来るじゃねぇか……」


「それはそうだよ。コウジにばかり負担をかけさせる訳にはいかないし……」


 分かってる。

 ここ数日の付き合いだが、タチバナは責任感が強い。元々が自分に与えられた課題を人に押し付けられるタイプじゃないだろう。

 だが、ファイブマンセルならまだしも、俺と秋人が組んでこいつを連れていくのは些か抵抗がある。

 未熟さの残る魔法の技量とアンバランスな魔法戦闘能力の高さに感じる違和感。

 あのイメルダとラルフを同時に相手にして手玉にとるだけの実力を持っていながら、使える種別魔法が火系統初級魔法の『火炎の弾丸』のみ、というのが不思議でならない。本人はそう言っていたし、実際に威力の弱いその魔法しか使ってなかったのもこの目で見ている。

 嘘を言っている感じとも、ちょっと違う。

 けど、事実だとも思えない。

 正直言うと、俺はいまだ立花レーナという存在を掴みきれていないのだ。


 こいつの目的が、本当のところは何なのか。


「まあ、言わなかったのは悪かったよ。下見はちゃんと出来たから、心配すんな……」

 

「それはそうだけど。自分で危ないって分かってて、人にも注意してることを平気でやっちゃうの、やめてね」


 そう言ってくれるタチバナの声と表情は、本心から俺を案じてくれてると分かる。

 だからこそ、行動の節々に違和感を感じずにはいられない。


 自分の身の丈に合わない課題を受け入れることも。

 自分の実力と課題の難易度を計りきれていないことも。

 第三者でしかなかった俺が課題に加わることにあまり否定的でなかったことも。


 全て、これまでの立花レーナという存在を見ていたら到底当てはまりそうにない行動ばかりだ。


 傍からみれば、ただの無能。無知。

 無理難題に勝算もなく挑むバカ。


 それもまた、立花レーナの像には当てはまらない。


 タチバナの性格を見るに自分の技量を過信するような奴とは思えないし、あれほど実戦慣れした戦闘術を持っていて、自分の実力を把握しきれていない訳がない。

 自分一人では『牛鬼』を倒すことが出来ないことも当然分かるだろう。

 となると、タチバナは最初から俺を戦力として数えていたことになる。


 ただの不真面目な生徒を。


 ミーティア塾の出身の者以外から見れば、学園での俺の評価はそんなもんだ。自覚してる。してるともよ。

 だが、どうにもこいつは違うようだ。

 最初から、俺のことを『双剣童子』としてこの課題に巻き込んだ感がある。

 予想はしていた。が、もし本当にそれが事実ならまた疑問が増えてくる。

 この課題そのものにも、立花レーナという存在にも。


 ただ、一つだけ確信して言えることがあるとするなら。


「なぁ、タチバナ……」


「あら、お二人さん、こんなところで愛の告白でもしてるのかしら?」


 突然声を掛けられ振り向けば、制服姿の美女―――クレリア・オルゴートがいた。


「オルゴート先輩……」


「ダメだよ、コウジ君。私の弟子に求愛なんてしたら」


 呆れ顔の後輩(俺)に笑顔で言う先輩 (クレリア・オルゴート)。

 そのやり取りを聞き、「えぇっ!」と些か悲鳴に近い声を後ろで上げているタチバナは置いといて。

 俺はこれ以上ここで真面目な話が出来ないことを悟った。


「はぁ、タチバナ、打ち合わせはまた昼休みだ。オルゴート先輩、ホームルームの時間も近いですし、俺はもう行きます」


 言って返事も聞かぬまま、そこを立ち去った。

 オルゴート先輩は最後までニヤついた顔をしていた気がする。

 全く。計ったようなタイミングで出てきやがったな。余計な詮索は入れるなということか?


 ただ、一つだけ確信して言えること。


 クレリア・オルゴートは立花レーナの協力者であっても、師弟の間柄じゃない、ってことくらいか。

 

 ◇ ◇ ◇


 ハッキリ言おう。

 俺は今日ほど学校というものが苦痛に感じたことはない。

 学園内、廊下や教室で俺は完全に注目の的だった。

 俺はどこのスターだと言うほどに、歩けば人波が割れ、遠目に視線が集まり、誰も話し掛けてこない。

 あ、最後のはほとんどいつも通りだったわ。

 そんな訳で、俺は大層 居心地の悪い午前中を過ごしたのである。

 こんなことなら今日もサボればよかったか? いつもみたいに保健室とか?

 いや、課題関連以外のサボり行為は姉貴にバレたら今度こそヤバそうだ。

 何がヤバイって、授業に来る先生方々が俺と視線を合わせる度にビクついてる現状くらいヤバイ。

 授業中、俺がちょっと椅子とかの音をたてると教室中に凍り付くような緊張が走る。

 あれ? スターというか完全に危険物じゃね?

 途中から面白半分に音たててたら椅子から転げ落ちるやつまでいたから爆笑するのを堪えるので必死だった。

 いやいや、こんなことしてたらどっちみち姉貴に怒られそうだ。

 けどこれ俺が悪いっていうと微妙じゃね?

 怒られる要素ないよね?


 なのに昼休みに入って早々、姉貴がいきなり学園に説教しに来るというね。

 ちくしょう、誰が呼びやがった。




「ははは、そりゃおめーが悪いだろどう聞いても!」


 昼休み。姉貴の説教を食らった後、例によって集めたチームと屋上で飯を食ってたときにその話をしたらラルフの奴が盛大に爆笑しやがった。

 笑い事じゃねぇよ。いや、事の最中は

俺も内心爆笑の嵐だったけど。


「なんていうか、懲りないよねコウジ君も」


 イメルダも呆れ顔である。


「変なとこで子供だよね。イタズラ小僧っていうか………」


 タチバナも苦笑いしている。

 ほっとけ。


 だが一番 俺のことをバカにしそうな後輩はここにはいなかった。


「そういや、秋人はどうした?」


「あー、何か一年に転校生が来たとかで、ミーちゃんが案内役をしてるらしいよ」


 俺の疑問に答えながら、イメルダは手元のバターパンにかぶりつく。


「こんな時期に転校生かよ……」


「んー、まあ珍しいけどね。だから昼休みもその転校生さんにいろいろ教えてあげてるんじゃないのかな?」


 とかなんとか噂をしてると、屋上のドアが開いて当の本人がやってきた。


「ここが屋上、出入りは自由だから昼食をここでとる人もいるよ」


 秋人が後ろにいる黒髪の女子生徒に場所の紹介をしながら俺たちに視線を向ける。

 はい、昼飯はここで食ってます。


「コウジさんたちはやっぱりここか」


「おう、秋人。お前も食うか?」


 パンを見せながら誘ってみたが、首を横に振られた。


「遠慮しとく、俺は彼女と下で食べるよ。彼女、人見知りで恥ずかしがり屋らしくて、いきなりコウジさんたち上級生の輪には入れないだろうし」


 確かにさっきから、件の転校生である女生徒は秋人の後ろにしがみつくように隠れている。

 てか、人見知りの恥ずかしがり屋って、秋人は良いのかよ。今日が初対面だろお前も。


「あ、あの、一年A組―――天樹リエラ、です」


 と思ってたら、漆黒の長い髪と真っ赤にした顔をちらほら覗かせながら彼女は自己紹介をしてくれた。


「あ、ファミリーネームが漢語なんだね。私も同じ、立花レーナっていうの。よろしくね」


 コミュ力高いなタチバナよ。

 いつの間にか秋人たちのそばまで寄ってにこやかに話してやがる。


「え、え? 漢語、でも……」


 天樹と名乗った転校生が、戸惑ったような素振りを見せる。


「ん? 何かおかしかった?」


「あ、いえ、何でも、ない、です……」


 疑問を覚えた、か。

 タチバナは気付いていない。何に疑問を覚えられたのか。

 いや、今のやり取りの意味に気付いたのも、俺と秋人だけだろうな。

 イメルダやラルフも不思議そうな顔してるし。

 そうなんだよな。

 立花。立花レーナ。

 彼女がそう名乗った時点で、そもそもが疑問だらけだったんだよな。

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