第三十三話 作戦を考えよう
昼休みのチームでの話し合いは秋人がいなかったからあまり進まなかったな。
塾生の時代から、俺らのチームの識者は秋人だったし。作戦立案や攻略にはあいつがいないと始まらねぇんだよな。
………………一番年下なんだけどね。
ということで、今日は放課後に集まることになった。
場所、俺の家。
なぜ?
いや、まあ、俺としてもやることがあるから良いんだけど。
「『雲隠れ』? なんだコウジ、お姉さん怖さでついに身を隠すのか?」
「アホ、魔物に感知されないための魔法薬だっつの。人間には効かねぇよ」
例え人間に効果のある薬だったとしても、姉貴には効かなそうだ。あの人、第六感とか言って演習で気配のない隠密部隊を見もせず全滅させたとかいう武勇伝があるし。
もはやあれは人間じゃねぇ。
姉貴にかかれば『牛鬼』も裸足で逃げ出すレベル。
「それでコウジさん。その『雲隠れ』の魔法薬は作れそうなのか?」
「たぶんな。それほど難しくはないし、一日あれば全員分のを用意できるだろ」
秋人の質問に答えていると、今度はタチバナがどこか意外そうな顔をしていた。
「タチバナ、どうした?」
「ううん、何か思ったよりコウジがやる気になってるから」
「まあ、作ったことない魔法薬だからテンションは多少上がってるけどな………」
「コウジは魔法薬作るの本当に好きなんだね」
「あー、俺の心の拠り所だからなぁ~~~」
「あはは、でも今回は私たちの命が掛かってるんだから、真面目にやってね?」
「ああ………」
分かってるよ。
本当ならもっと嬉々としてすぐにでも作り出したいところだが、今回の魔法薬作りは今まで好きでやってた調合とは違う。
僅かなミスが俺の、いや俺たちの死に直通している。
正直、魔法薬の調合がこんなにも憂鬱に感じたことはない。
失敗は、許されない。
それが重りにも感じるし、気を抜かないようにとの戒めにも感じる。
俺はハッキリ言って魔法薬で商売をしている訳じゃない。金に困って売ってしまうことはあっても、あまりそのことを深く考えていなかった。
俺が作り、市場に回った魔法薬は誰かが必ず使っていて、もしかしたら誰かの命を左右している。
そんなこと分かってる。分かってるつもりだった。
まさか、こんな形で思い知ることになるとは。
思い知らされるとは、考えても見なかった。
この課題をこなすための一つ一つが、俺の中の何かを抉るようで、先に進めば進むほどに逃げ場を失っていく気がする。
まあ、姉貴がいる以上はどのみち逃げられないんだけどね。
とはいえ、この課題はどこまでも作為的で、意図的で、そしてどこか虚偽的だ。
「それと、コウジさんはもっと体力を付けるべきだな。いくらなんでも無さすぎだ。これじゃあ『ビルドスパーク』を使うにしたって危険区域での戦闘は持たないぞ」
「うっ、わかってるよ」
秋人のやつ相変わらず的確で痛いところを突いてくるな。
クソッ、思ったよりやることが山積みじゃねーか。
「第四種の魔法に魔力を体力に還元するやつがあるから教えようか? コウジさん、魔力量は飛び抜けてるし」
「生憎と俺に第四種の素質はねーよ」
なんなら竜剣術以外の魔法は全般的に素質ないかもしれん。
「まあ、コウジさんは『竜』の魔法以外だと、第一種精霊系統の『火』と第三種強化魔法の素質に寄ってるからな」
「は? そうなの?」
「いや、なんでコウジさんの方が知らないんだよ」
後輩に呆れられてしまった。
だってしゃーねーだろ。俺は『竜剣術』以外ほとんど魔法使ったことねぇんだから。
「使える魔法は多いに越したことはない。覚えられる限りは覚えといた方が良いぞ?」
「って言われてもなぁ~、魔法はそんな一朝一夕に覚えられるもんじゃねぇよな」
「けど、俺たちの手持ち魔法だけじゃ万全には程遠いぞ?」
秋人に言われるまでもなく分かってる。なんなら手持ち魔法が充実したとしても俺たちじゃ万全には程遠い。
だが今は新しい魔法を覚えるより、手持ちの魔法を如何に実戦を想定した武器に仕上げられるかが重要のような気がする。
秋人の感覚では魔法の修得なんてそこまで大したことじゃないんだろうけど。俺には時間が掛かりすぎる。例え素質のあるらしい火系統でも、一日やそこらで出来る訳もない。
「まあ、そこらも含めて今日話し合うとしようや………」
◇ ◇ ◇
俺たちのチームはポジションこそ決まっているがイマイチ戦術に不安がある。
問題は戦術担当の秋人、それと俺たちのチームにあった。
昔からそうだからな。
秋人の組む作戦や戦術はかなり注文が多い、というかハッキリ言って俺たちのレベルに見合ってない。
作戦事態は問題なくても、実行する奴等が半人前じゃあ作戦は半分も機能しないからな。これだけなら秋人が作戦ミスというか、戦術レベルを下げれば良いだけのような気もするがそれも違う。
本来、どんな物事も目的―――魔法使いで言うなら任務を達成するのが重要であり、作戦の成功に重点を置いてる訳じゃない。
目的を達成するために作戦がある。作戦を成功させれば目的が達せられる。
これは一般的だが、魔法使いの世界では生憎と当てはまらない。
作戦は目的の達成率を上げるためのものではあるが作戦の成功がイコール目的の達成じゃない。
何故なら、ここは魔法界。
魔法界での戦闘に絶対はない。何が起こるか分からないのが魔法世界の戦いだ。
秋人は作戦の成功率と目的の達成率を考え、多くの可能性、危険性を踏まえた戦術を組んでくれる。
そりゃあ、ある程度の妥協はあるだろうが、限りなくギリギリのライン引きで詰め込めるだけのものを作戦に詰め込む。
ちゃんと内容的にチームとしての能力に沿った形で、だ。
だがねぇ、まあ確かに俺たちの実力を踏まえてくれて、それに合わせた範囲でまとめてくれてはいる。
だが、あまりにケアする部分が多過ぎて、まだ未熟な俺たちじゃ対応しきれてないんだよな。
小さな仕事も次から次へと来れば頭がこんがらがり、簡単なはずの動きも上手く出来なくなってしまう。
一つ一つは実力に見合ってるのに、積み重なった結果実力に見合っていない。
塾生時代にもよくあったことだ。
何がダメって秋人の奴、ケアしきれないことを分かっててやらせるからな。
それで手の回らなくなったところに《シャドー》の秋人が動くってのが俺たちの塾生時代のチームでの戦い方だ。
「まあ、塾生時代の戦い方は今回の件には使えないな」
「当然だ。あれはあくまで対抗戦という枠組みの中で考えたものだからな。実戦じゃ危険すぎる」
あー、やっぱり実戦向きな戦術じゃ無かったのか、と秋人の同意を聞きながら俺はいつかの鬼のように無茶な作戦を思い出していた。
家に到着してからは、俺の作業場である工場に集まって話し合いをしている。
「装備は塾生時代よりも充実させる予定だから多少はマシになるだろうが、問題は………」
「対応力と機動力だな」
俺の言葉に続いたのは秋人だ。
イメルダとラルフの二人もその言葉に頷いている。
ただ、
「え? どういうこと?」
俺たちと同じ塾生時代を過ごした訳じゃないタチバナは些か理解してないようだ。
「俺たちはまだ魔法学園に通うだけの学生に過ぎない。経験があるのはあくまで同年代同士の試合くらいだ。魔物を相手にした実戦はほぼ経験がないといえる」
「魔物を相手にした場合のチームでの動きで、対応力、機動力の二つは課題クリア以上に俺たちの生死に大きく影響するだろうね」
「そこで………」
それら二つを確実に上げていくために必要なものは、
「…………チームワーク」
俺と秋人の言葉を理解して、タチバナは答えを呟いた。
「まあ、そういうことだ。個人の技量はそこまで心配してねぇが、つまるところ五人全員の歯車が噛み合わなきゃ意味がねぇ」
と、そこまで言うとタチバナは難しい顔をして、
「そっか。みんなは塾生時代から一緒だからともかく、私は入ったばっかりで上手く連携できないかも知れないしね」
納得したように頷く。
だが、それは些か違うな。
秋人も、イメルダも、ラルフも、バツの悪そうな顔をしている。もちろん、俺もだ。
何故なら、
塾生時代から一緒の俺たちも、ハッキリ言ってチームワークという言葉は程遠いチームだったからなぁ。
みんなは個人技で好き勝手やっちゃってまぁ、秋人が方針を決めてくれてなかったらマジでメチャクチャだったな俺ら。
流石に昔のことをタチバナに話すのは気恥ずかしいので、誰もが口を閉ざしている。
「じゃあ、チームの動きを決めようか」
話が脱線しない内に秋人が本題を切り出した。
基本は俺→ラルフ→イメルダの順でのオーソドックスな縦展開。近接戦闘の俺、近中距離戦闘のラルフ、最後尾に前線の防御担当イメルダだ。
そこからイメルダの横にタチバナが入り遠距離狙撃担当、全体をサポートする秋人に特定の位置はないが、基本はラルフのラインに入って主に俺とラルフを援護する。
これが戦闘開始時の基本的な布陣。
移動時は基本広がらずに密集。
場所が森林地帯だから下手に広がり過ぎると孤立しかねないからな。
移動している最中は索敵魔法、感知魔法にも優れた秋人とアタッカーの俺を戦闘にして動く。
後方は常にイメルダが警戒し、土系統の防御で上手くやってくれるだろう。
…………こんな感じでホントに大丈夫だろうか。
「あとはコウジ君が作ってくれるその『雲隠れ』の魔法薬がどこまで機能するかだね」
「無駄に責任を押し付けるなイメルダ……………」
ただでさえ胃が痛いってのに。
そして肝心の部分である『牛鬼』攻略だ。
「………対『牛鬼』戦での動きだが、まずはパターン1―――奇襲作戦。俺が『牛鬼』の不意を突いて視界を奪う。続いてイメルダさんが地形変化の魔法で敵の体勢を崩し、タチバナ先輩が援護射撃を連続で撃ち込む。そこへコウジさんとラルフさんが突っ込んで首をとる」
「そんな簡単に行くか?」
「まあ、シンプルだが勝算はそこまで低くないよ。ミスったら死ぬ危険度も割りと高めだが」
誰が一番死ぬ危険度が高いかは言うまでもなく俺だろうな。
「次、パターン2―――包囲戦。コウジさん、ラルフさん、タチバナ先輩、俺の四人で四方を囲み、近距離、遠距離から攻撃、全員の防御はイメルダさんに任せて俺たちは全員攻撃に専念する」
「それも些か博打じゃねぇか?」
「私、四方に散ったみんなの防御を完璧にこなす自信ないかも………」
というか、俺たちじゃ包囲戦を仕掛けても火力が足りなそうだ。秋人もそれは分かってるみたいで、あまり本気で言ってるようには見えない。
「パターン3―――罠戦術。適当な落とし穴に爆発系の魔法薬を仕掛けて、アタッカーが誘導する。無論、俺がサポート、タチバナ先輩が援護射撃、イメルダさんが防御を担当してアタッカーの二人を守る」
「問題は爆発系の魔法薬でしとめられるかだよな?」
「そこはコウジさんの腕次第だ」
おい。また俺に余計な責任を押し付けるな。
「最悪、爆発の魔法薬で倒せなくても落とし穴にはめれば一時的にでも動きは止められるし、そのすきに大量の毒系魔法薬を流し込んだり、遠距離魔法で総攻撃したり………」
そんなえげつない作戦、実行する側もドン引きだぞ。現に俺らは全員引いている。これでまだ十歳とか、こいつの将来が真面目に心配だ。
「でも、これがたぶん一番危険度も低く確実性も高い。罠は昔から知恵をしぼり作られた人間の切り札だからな」
そう言う秋人の顔がこええよ。
だが秋人らしくて、単純だが魔物には上手くハマりそうな作戦だった。
これでいくか。




