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第十三話 昼休みは屋上が基本

 学園の購買は比較的空いていて、昼飯のパンを買うにもほとんど並ぶ必要はなかった。

 ちなみに、パンと飲み物は俺がまとめて買うことにして、タチバナとイメルダは先に行かせた。


 さすがに人目のつく場所であの二人と一緒に居続けるのは俺の精神的にかなり辛い。周りの目が………目が嫌すぎる。マジで不登校になるレベル。


 あいつらは今頃学園の屋上で腹を空かせて待ってることだろう。自分で買いに行くと言っといてなんだが………何故だ、パシり感がある。


 そうして、メリゼル魔法学園屋上へ辿り着いた。


 ここは学園生徒なら誰でも出入り自由となっているため、昼休みになると人もチラホラ見える。といっても、このバカ広い場所にしては数えられる程度だ。

 まぁ、大抵の生徒は学食か中庭、テラスとかに行くし、目立つようなことはないだろ。


「あ、コウジ君。こっちこっち……」


 屋上に出ると、隅の方のベンチからイメルダが声を上げた。

 なるべく目立たない場所をチョイスしてくれたのは良いが、大声上げて手を振ってたら台無しだろうが。

 数えるほどはいる人の視線が俺やイメルダたちに集まっていた。


 目立ってる目立ってる。意味もなく目立ってる。


 重い足取りで近付きながら、俺は持っていた袋から購買で買ったパンをイメルダに放り投げる。


「ほら、エサだ」


「私は飼い犬か……」


 イメルダのツッコミをスルーして、俺はタチバナの方にもパンと飲み物を手渡す。


「あ、ありがと、コウジ……」


 お金……、と言おうとしたタチバナに「いらん」のジェスチャーで手を振り、俺は隣のベンチで自分の分のパンを食べ始める。


 ちなみに購入金額は全部で九百五十ゴールド。十一歳には中々の値段のような気もするが、現在の俺の所有金額からすると大した出費ではない。

 これから大きな買い物がある訳だが、その前に少しくらい金持ち気分を味わわせてくれ。


「ホントにいいの?」


「タチバナさん、コウジ君がいいって言うんだから遠慮しなくていいわよ?」


「お前は少しくらい遠慮しろ。礼くらい言えっつの!」


 いつの間にかリスのようにモグモグとパンを食ってたイメルダは、俺の持ってた袋から勝手に飲み物を取り出してやがる。まぁ、渡すつもりだったけどさ。もうちょっと感謝を示せよ。奢ってやったんだから。


「コウジ君の依頼を聞いてあげるんだから、多少の見返りくらいないとね」


「…………」


 何も言えんとです。

 もとよりタチバナの課題なのに何故に俺がこんな肩身の狭い思いをしなきゃならんのだ。

 思わずそのタチバナに視線を送ると、小さな口でパンにカプリと食い付いていた。


 …………なにそれ可愛い。


 いや、そうじゃなくてな。


 俺は頭をコンコンと軽く叩き、余計な思考を追い出す。

 そんなことをしている間にも、イメルダは袋の中を探っていたようで、


「あれ? このパン誰の? 一個多くない?」


 ああ、忘れてた。

 あいつの分も買ってたんだった。


「それはあれだ、あいつのだ……」


「あいつ?」


「おう、たぶん梯子を登った貯水槽の上に……」


 居るはず、とイメルダの手から受け取ったパンを、そこに放り投げた。

 最高点に達し、重力に逆らわず、放物線を描いて落下したパンは寸分違わず貯水槽の上に落ち、パンッ、と何かにぶつかった音を上げた。パンだけに。…………くだらねぇ。



「…………っぶねぇなぁ……何だよ………」



 という声と共に、下からは見えなかった貯水槽の上で一人の男子生徒が上体を起こした。パンをしっかり手に持ってるのを見るに、寝てる体勢でしっかりキャッチしたんだな。


 レイバ国ではよく見られるブラウンの髪と、同色の瞳。子供ながらも男らしい顔立ちは、目付きが些か悪い以外は整ってると言えるだろう。

 俺たちと同じ、メリゼル魔法学園の二年生。魔法実技学年四位―――ラルフ・ド・ラルーシュ。


「ふぁ~あ、ったく………昼休みくらい寝かせろよな………コウジ……」


 うわぁーやる気無さそー。人のこと言えた義理じゃねぇけど。

 デカイ欠伸をしながら愚痴を垂れるラルフを見て、軽く俺の思考が迷いを浮かべた。

 ホントにこいつを入れて大丈夫かね?


「え? ラルフ君?」


 俺が脳内判断を右往左往させていると、イメルダの方が声を上げた。


「あん? イメルダじゃねぇか…………つうかタチバナまで?」


「こ、こんにちは、ラルーシュ君……」


 なんだ、俺たちの幼馴染み繋がりでイメルダは知ってるとして、タチバナとも顔見知りだったのか。


「………学年上位……というより、この世代トップの天才が揃って何やってんだ?」


 俺の投げたパンを大口でかじりながら、ラルフは俺、イメルダ、タチバナを見回して首を傾ける。

 あー、こいつもそっちの繋がりか。強者は強者は知る、天才は天才を知るってのはどこでも同じなんだな。俺はともかくとして、こっちの二人はこの年代で間違い無くトップクラスの魔法使いになるだろう存在だからな。


 このラルフも恐らくその最前列の一人に加わる奴だ。


「もしかして、コウジ君が選んだ四人目のメンバーは………」


「おう、こいつだ」


 確認の問いを掛けてきたイメルダだが、そこまで驚いた様子はない。こいつのことを知ってる分、むしろ「なるほど」という顔だ。


「よっと……」


 身長の三倍はある位置から軽快に飛び降りたラルフに、適当に買った飲物を放り投げる。


「おう、サンキュー、コウジ…………で? 何の集まりだって?」


 この野郎。昨日の今日ですっかり忘れてやがる。


「昨日の晩に連絡入れただろ? 頼みたいことがあるんだって………」


「あー、そうだったか? ……………良いぞー」


 スゲー軽いな。まだ内容すら話してねぇのにドンと来いかよ。

 マジでドンと行ったら倒れそうな張りのない声だが。こいつは大概こういう奴だ。まぁ大丈夫…………だと思う。


「この面子を見るに、どうせロクでもないことだろ……」


 ラルフの呆れ気味の言葉に、俺は苦笑いした。

 ちゃんと事の重さくらいは理解して引き受けているようだ。腐れ縁はダテじゃないな。


 その後も俺がイメルダに説明したときと同じように話す内容を聞いても、ラルフは平然としたまま、前言を撤回することもなかった。


 それどころか、「ふーん、まぁ退屈はしなさそうだな」とまるで暇潰しでもするかのようなことを言ってやがる。頼もしいねー。


「ね、ねぇ、コウジ……」


 だが、今度はタチバナの方が遠慮がちに声を上げた。


「やっぱり、私が受けた課題に他の人を巻き込むのは………」


 気が引ける、という顔をしてる。昨日から思ってたけど、こいつってホントに真面目な性格してるよな。

 そして俺を巻き込むのは万事オーケーなのか? なんで俺にはもっと気を配ってくれないの?


「いや、あのなタチバナ。『牛鬼』狩りなんて課題………俺とお前の二人じゃどんな手を使っても達成率ゼロだぞ。昨日で十分にそれは分かっただろ」


「うぅ……」


 昨日の敗走を思い出したのか、タチバナはションボリ首をすぼめた。


「勝てない戦いはやらねぇ。俺だって死にたくはないしな」


「で、でも……」


「でもじゃねぇの。こいつらにも納得してもらえたんだから、もうこれ以上はうじうじ言うな……」


 ていうか、勝てる戦いになるかも怪しいんだけどな。

 いくらこれだけの頭数を揃えても、勝率六割が良いとこだろう。


 俺の言葉に、納得とまではいかないがある程度の理解はしてくれたようで、タチバナは何も言わなくなった。


「………それで? もう一人のメンバーは?」


 話が区切られたところで、イメルダが俺に五人目の話を投げてきた。


 魔法戦闘の基本チームは五人一組。


 気合いや根性。気持ちが負けてなければ負けない。そんな精神論で魔法戦闘は語れない。必要なのは情報と戦術。考えられた戦い方と、それを実行するだけの戦力と能力。冷静な判断。


 それぞれがそれぞれの役目を分担して戦うオールラウンド型のフィールド戦闘だ。

 アタッカー、ガード、サポートという役割ポジションをそのエキスパート魔法使い五人で分けて、チームの総力戦で戦うスタイルが定着している。というか、近代の魔法戦闘では個人での戦いはほとんど行われない。

 国の上位に立つ騎士クラスの魔法使いならともかく、現代魔法界において普通の魔法使いは五人戦闘でなければ到底生き残ることは出来ない。

 長い研鑽と試行錯誤から作られた生きるためのシステム。

 俺たち魔法学園の生徒がそれを使っちゃならない理由はない。むしろ使わなきゃ死ぬ。絶対死ぬ。


 死にたくない。

 よし、こいつらを巻き込もう。


 そんな思考で、現在この状況だったりする訳だが。


「この顔触れを見た感じ、俺が近中距離で戦う―――《ハーフ・アタッカー》、イメルダが戦列の最後方で敵の攻撃を防ぐチームの司令塔―――《エンド・ガード》、タチバナが戦列を外れて中遠距離射撃魔法で前衛を援護する―――《サイド・ガード》ってとこか……」


「当たり」


 見事に役割を当てたラルフだが、それも当たり前か。こいつらはもう、自分の得意分野をちゃんと理解している。それを踏まえた上で、自分たちの実力を伸ばしてるんだろうからな。


「となると、残る一人は最前列で敵を近接戦闘で引き付けながら戦う―――《トップ・アタッカー》か……」


「残念、外れ。残る一人は戦列をサポートする役―――《シャドー》だ」


「は?」


 と、ラルフ。


「え?」


 と、タチバナ。


「へ?」


 と、イメルダ。


 何だよ。揃いも揃って珍事に遭遇したような呆け顔しやがって。


「じゃあ、《トップ・アタッカー》は……」


「俺がやる以外にねぇだろ」


 文句あるのか? という意味を込めて三人を睨むと、代表してイメルダが言った。


「…………いや、てっきりコウジ君のことだから《シャドー》と言いつつ一番後ろに下がって安全を確保してるかと思ったのに」


「あー、確かにコウジってそんなイメージが………」


 タチバナまで意外とばかりに口を揃え、俺を見てくる。失礼だ。が、事実、後ろに下がりたい思いでいっぱいなので否定は出来ない。

 とはいえ、下がる訳にもいかないんだよな。


「《トップ・アタッカー》は、近接で敵を引き付けながら戦う役目だ。無理に呼び掛けといてそんな危ないポジションまでやらせる訳にはいかねーだろ」


 俺の言葉に、何故だか二人は呆気にとられたようにポカンとした顔になった。


「なんだよ」


「あ、うん。別に何でもないよ……」


 タチバナはそう言うが、些か俺を見る目が変だ。

 ………はぁ?

 ……………何なんだ?


「変なとこ男らしいというか、律儀だよな、コウジって……」


 いや、意味わからんぞラルフ。


「ま、とにかく五人目の話しだったな。お前やイメルダも知ってる奴だ…………心配はいらないよ。たぶん、今頃は人のいない校舎裏あたりで本でも読んでんだろ………」


 お前らと同じくらい。いや、たぶんそれ以上の才能を持つ。本物のというか、規格外というか、気違いな天才バケモノがな。


「そいつには俺から声掛けとくから、放課後に改めて顔合わせよろしく~」


「あ、あの、コウジ……」


「ん~? どしたタチバナ?」


「その、五人目の人に声掛けるの、私も行くよ。もともとは私の課題なんだし、コウジばっかりに任せきりに出来ないよ……」


 はぁ、律儀だねーこの女。俺だったら「やっとくわ」とか言われりゃ例え自分のことだろうが「任せた」で終わるぞ。


「ま、良いけどさ……」


 断る理由も特に無いし。

 たぶん俺が言えば、奴もすんなりチームに加わるだろうからな。


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