動かぬ身体
目的地到着までゆっくり歩いて十五分余りで到着した。依頼主の家はいかにも金持ちムードの漂う豪邸。それもそのはず、下級任務のくせして他の任務よりも異常に金額が高いからだ。選んだ理由はここにもあるらしい。何と言ったってこっちは生活がかかっているからである。
ピンポーン♪
インターホンを鳴らすと制服を着たショートヘアーの女子高生が出てきた。
『あら、あなた達が魔導士さん?かわいいわねぇ。わたしはマリよ』
『よろしくお願いします』
『詳しい話は中でね。さ、入って、入って』
家に入ると大きな踊り場のような所へ出てその中央にある大きな白いソファに座らせてくれた。
『いつ、どこでストーカーに?』
『あのねぇ、学校の登校の時よ。つかれてるって思って友達と一緒に帰ったりはしてるんだけど…なかなかね。特徴は…全身黒い格好なんだけど白いマフラーをつけてたような気がするわ』
『では、私たちが同伴して、ストーカが出現するなりこちらの方で』
『お願いするわ。じゃあ行きましょうか』
話はほとんどハルが進めてしまった。ハルの作戦によりストーカーにばれないよう3人でマリさんの後ろを話しながら歩き、ストーカーが出たら速攻で攻撃といったところである。
しばらくごく普通な路地を歩くがまだ出てこない。俺達を警戒しているのだろうか。しかし、マリさんとはほとんど目を合わせていないし俺達はそこらへんの街のガキを演じている。いつでもかかってこいと思った矢先、曲がり角からマリさんの証言通りの男が出てきた。堂々と俺達の前を歩いている。
こいつだ!!!
三人で目を合わせる。まずデントが後ろから蹴りを入れる。
『マリさん、逃げて下さい!!!』
ストーカーが前に振り向こうとするのの少し前にはもうハルが道を塞いでいた。そこらへんのストーカーが魔導士三人相手はムリだろう。まぁこっちが魔導士ってことは気付いてないだろうけど。
デントの蹴りがもう一発入る。その瞬間男は上空へ飛び跳ねたかと思うと俺達二人の前に来た。そして手に水を纏ったかと思うとその拳でデントを思いっきり殴った。
『デントっ!』
デントは吹っ飛ばされたが何とか大丈夫のようだ。
魔導士か…。
『あんたが水の魔道士なら楽だぜ』
そうか、デントは電気の魔導士だから有利なのか。しかし男は不敵な笑みを浮かべ、走り去って行った。その先でハルが身構える。すると、ハルの足元に桃色の魔法陣が出現し、ハルが腕を振りかざすと同時に風の刃のようなものが飛んだ。しかし、男の身体は水となりハルの後ろへ移動し、走って行ってしまった。
『あいつはかなりマズイ。気を付けろ』
『わかってるって』
デントは余裕である。正直俺は焦っていた。いつか来るであろう魔導士との対決がこんなにも早く来るとは…。
男の足跡が水のようにくっきりと残っているため追いかけるのは簡単だった。足跡は森に伸びていた。「零下の森」この森から暖かいハルジオンの街とは全く異なる氷の国特有の寒さが始まるのがこの森だ。
しばらく行くとそこには先ほどとは服装は同じなのだが背は明らかに低くおそらく俺達と同年代くらいの少年が立っていた。
『おら、ストーカー変態魔導士!…ん?ち、小さくなった?…まぁ、良い!くたばれってんだ!!!』
『ふふふ、バカだねぇ、君らも。わざわざ逃げるやつが足跡残すかい?』
…わざと足跡を残していたのか。じゃあ俺達はこの少年に罠にはまっていたということなのか。
『俺の名前はフリード』
『お前の目的は何だ!』
『え?ストーカーで役所に張り紙を張らせてお前らみたいな魔導士を狩るのさぁ。お前らの魔力をこの水晶に取り込むんだ。んでストーカーが上手く行けばあのお嬢さんの家の金も入るってわけ。格好がこのままだとガキに見られるから変身してたんだよ。…んじゃあ始めるよ』
『水竜弾!!!』
フリードの合わせた両手から水の塊が俺めがけて飛んでくる。スピードはかなりあったがかわせることが出来た。そしてデントが隙を見て攻撃を仕掛ける。
『電気斧!』
すると、デントの手に電気の斧が現れその斧で攻撃を仕掛けた。フリードはその刃先をギリギリでかわす。続いてハルが攻撃する。
『春風カマイタチ!!!』
あ!
飛んで行った先ほどの風邪の刃より大きいものがガッツリフリードにヒットした。派手に血が飛び散る。みねうちだろうか。ならば次は俺の番だ!よしっ!!!
…ん?
体が動かない。なぜだ?あれだけ練習してきた魔法を使えない。さっきはかわせたのに…。
『どうした、スバル!!!』
『体が…動かないんだ!』
その瞬間フリードが傷を負いながらも俺に飛びかかってきた。
『水流拳!』
水流を纏ったフリードの拳が近づいてくる。今度はかわすことも出来ない。…だめだっ!やられる!!
バンっ!!!
鈍い音が響くが俺の体に痛みはない。目の前にデントが立っていた。フリードの拳はデントの腹にめり込んでいる。しかしその瞬間にフリードも力尽き倒れてしまった。
…デントが俺の事をかばってくれた。
すぐにハルがデントに駆け寄り手当てをする。
『大丈夫だ。気にすることはない。お前のせいでもない』
『…でも…』
ハルの手から緑色の優しい光がほとばしり、つらそうだったデントの顔が元に戻ってきた。
『ゴメン、デント』
『いいんだ。お前が大丈夫なら』
『ごめん…』
その瞬間、傍らにいたフリードが立ちあがり不敵な笑みを浮かべた。俺達は身構える。しかし、彼の顔から笑みは消え何か言うのかと思えば、「覚えてろよ」の一言もなく、フリードは水となって消えてしまった。
『しまったなぁ。やってしまった』
『…でも、ボコボコにしたからいいんじゃない?』
俺の胸の中には悔しさしか残っていなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『…ということです』
今日起こったことを依頼主であるマリさんに詳しく説明した。
『うん、ホントにありがとうね。相手が魔導士だったんだから…ビックリしたよぉ。はい、代金』
もらったお金は目を見張るものだった。帰り道にデントがこんな事を言ってくれた。
『気にすんなよ、スバル。お前こっちの世界の人間じゃないからさ、色々あるんだよ』
嬉しいが俺はきっとそんな事関係ないと思う。たぶん、フリードにヒットしたハルの攻撃が怖かったんだ。初めてあんなに血を見た。だが、何としてでもこれを克服しないと二人の足を引っ張ってしまう事になる。
『…ごめん』
今の俺には二人に謝ることしかできなかった。