家族の証
原因は分からないが異世界?に飛ばされてしまったスバル。そして通りすがりのデント達に助けられて…?
『見えてきたよ、あそこが俺らの家』
デントの視線の先には少しだけ高くなっている丘の上に立っている良くありがちなレンガ造りの家があった。
『まぁ中に入ってゆっくり話を聞こう。まだ昼時だしな』
俺は死んではいないのだろうか。念のため頬をつねってみる。フツーに痛い。どうなっているんだ?俺の頭の中にはいくつもの疑問があって整理できないまま家に入った。
『とりあえず着替えろ』
家に入ってから唐突にハルに言われた。そういえばびしょぬれだった。これはきっと川でおぼれたから?
『俺の服貸してやるよ。こっち』
言われるがままに着替えた。身軽に動けそうな軽い服である。着替えた後、とりあえず座って話をすることになった。目の前のテーブルにハルのいれたコーヒーが出された。
『何があったんだい?』
『…それがよくわからないんだ』
『記憶喪失とか言うやつか』
『いや、覚えてるよ。それもかなり鮮明に』
『話せる?』
デントが優しく聞いてくる。
『…俺は川で友達二人と遊んでたんだ。川といっても俺が気がついたところじゃなくて全然違う所。…そして、友達の一人が溺れてしまったから助けに行ったら俺が逆に溺れてしまって…。気がついたら目の前に…デントがいたんだ…』
『どこの川だ?』
『俺は確実に死んだんだよ。…あの時』
『死んだ?』
『うん。ここは何て言う街なの?』
『極寒の氷の国で唯一暖かい街、ハルジオンの街だ』
ハルが得意げに答えた。
『…?』
『知らないの?』
『…ゴメン。さっぱり』
『では、スバルはどこの町から来たのだ?』
『僕は日本の東京だよ』
『トウキョウ?』
『え!?知らないの?』
『ゴメン。俺らどっちも知らない』
…どうなってるんだ?なんだ氷の国って。お互い黙りこくってしまった。沈黙を破ったのはハルだった。
『とりあえず、こういう時はロブ爺に訊いてみよう』
そう言ってハルは出かける支度をした。
『ロブ爺って?』
『ここハルジオンの街一番の長寿で何でも知ってる物知りなんだぜ。しかも八十歳近いのに魔法はメッチャ強いしさぁ』
『魔法っ!?』
思わず大きな声で叫んでしまった。まるでマンガの世界じゃないか。
『どしたの?』
『俺が意識を失う時にいた所では魔法なんかなかったぞ!』
『え!?』
『どうした?行くぞ、デント、スバル』
『あ、うん』
そう言うとデントは飛び出して行ってしまった。
魔法かぁ。もしも魔法が実在するのならあの二人も魔法が使えるのかな…。俺も使えるのかな…。少しだけ気持ちをワクワクさせながら先に行った二人を追いかけた。
『もしかしたらスバルは…another worldから来た人間なのかもしれないな…』
しばらく歩いてハルが言った。
『あな…あなざーわーるどって?』
『こちら側の世界と対になっているもう一つの世界のことだよ。俺も魔法学校で習ったよ』
よくわからない…。でも、たぶん異世界みたいなところだろうか。
『まぁ詳しい事はロブ爺が教えてくれるさ。だいじょぶ、だいじょぶ』
デントは優しく俺の事を励ましてくれる。
『見えてきたぞ』
そう言うとハルはハル自身の自宅よりはるかに小さな家まで行き木製の扉をノックした。この家なら俺がついさっきまで作っていた秘密基地の方が大きいくらいだ。
すると扉はゆっくりと音を立てて開いた。中からは今にも倒れそうな小さな老人が杖をついて出てきた。老人はこちらを向くなり孫を可愛がるような笑顔になった。
『おう、久しぶりだな。ハルもデントも大きくなって。…ん?見かけない顔じゃな。友達かい?』
目があった瞬間、細い目が大きく見開いたかのように見えた。たまらなくお辞儀した。
『はい、そうなんです。今日は訊きたい事があって』
『…その子の事かい?』
『何かわかりますか?』
『…部屋に入れ』
そう言うとロブ爺は俺達を小さな家の中の大きな一部屋、(というかその部屋しかないのだが)に招き、座るように言った。
『スバルと言います』
俺は自分から名乗った。
『うむ。わしはロブじゃ。何があったか詳しく話せるか?』
俺は今日の事を出来るだけ詳しく話した。話を聞き終わったロブ爺は難しい顔をしていた。
『東京か…。another worldじゃな』
『なんですか、それ』
『another worldとはその名の通りもう一つの世界じゃ。スバルから見てこちらの世界、仮に魔法界とでもいおうか、それがanother worldでわしらから見てスバルがもと住んでいた世界もanother worldなのじゃ』
『はぁ』
何となくだが理解できた。
『こちらの世界について説明しよう。こちらの世界に存在する全ての生き物には魔力が存在する。勿論お前にもじゃ。魔法についてはまたあとで詳しく説明するが、この時代は魔法がつよければいい世界なのじゃ。だから、この街の長も氷魔法のスペシャリストじゃ。だからまだ幼いデントたちは魔法学校で一人前になるまで勉強し、今のハルのように任務をこなし金を稼ぐといった形で生活する。そしてこの世界は氷の国、炎の国、風の国、水の国、雷の国、光の国、闇の国の七国からなっている。その中心にどの国にも属さない中央があるのじゃ。そこには世界中の魔法と頭脳が結集していて、世界の中枢ともいえる場所じゃ。中央にはないんじゃがそれぞれには一体ずつ竜が封印されている。まぁ竜についても後日説明しよう。…今の話を聞くとスバルは何らかの原因によってこっちの世界に飛ばされてしまったというわけになるのぉ…』
今の話の内容には尋ねたい所がたくさんある。竜何かいるんですかという質問を飲みこみ一番訊きたい事を尋ねた。
『戻れますか…?』
『何とも言えん。とりあえず帰られるようになるまでハル達の家で生活しなさい。原因はわしらで探しておこう。…くれぐれもこの事は誰にも言うでないぞ。街の悪い考えを持ったやつに聞かれたらすぐ締め出されてしまうわい。スバルの事を聞かれたら遠い親戚とか言ってごまかしておけ』
『はい』
『スバル、明日ひとりでまた来るんじゃぞ。わしがじきじきに魔法を教えてやるわい』
『ありがとうございます』
『では、さようなら』
帰り道。俺の胸の中はいろんな想いが渦巻いていた。魔法が使えるという喜びと帰れるかなという不安と…。
帰宅してハルの作ったご飯を食べた後、ハルが腕を見せてこんな事を言い出した。
『私とデントは母さんと父さんの形見である青いブレスレットを身につけている。これには魔力が詰まっていてピンチの時、装着者を加護する。スバル、お前は今日から私たちの家族として受け入れたい。…これを受け取ってくれるか?』
ハルは青く輝く魔法のブレスレットを俺に手渡してくれた。そのブレスレットは俺に大丈夫だよと言わんばかりに輝いている。
『…ありがとう』
『家族の証だね。今日から双子だ!よろしく!!』
『デント…』
『さぁもう夜は深い。寝よう』
『この布団使っていいよ。誰も使ってないから』
その布団で眠りに着くことにした。今日は色々な事がありすぎた。全部夢のようだ。明日の朝になったら夢でしたってことはないのだろうか…。でも俺を助けてくれたのがこの二人で良かった。そうこうしてるうちに瞼が重くなり眠ってしまった。
次の朝
『起きろぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!朝だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあ!!!!!』
鼓膜が破れるくらいの大きな声でデントと二人でたたき起こされた。
『おはようっ!!!』
『…おはようございます』
『よしっ!テキパキ行動!』
『…どうしたの、ハル』
『ハル姉さんは朝だけこのテンションなんだ。理由はよくわかんねぇよ』
『ぐちぐち言ってないで早く準備!!!スバルはロブ爺のとこに行くんだろう?』
あ!すかっり忘れてしまっていた。
焼きたてのトーストを食べて、顔を洗おうとして鏡を見るとそこには別人がいた。だがどう動いても俺と同じ動きをする。俺は向こうの世界では自分の顔については普通ではなかった。嬉しい事にイイほうに普通ではないのだ。その美形の顔は変わっていないが、髪は群青色で目は青い。ビックリした。
俺が自分自身の顔について驚いているうちに、デントは魔法学校へ、ハルは仕事に行ってしまった。俺も準備をすると大急ぎでロブ爺の家に向かった。
しかし、あの弱そうな老人の魔法が強いのだろうか。一抹の疑問を抱え昨日通った道を走りぬけた。