3話 掘る
カチカチカチカチ
ざあざあざあざあ
時計の音と、雨の音がやけに煩い。
時計を見ると22:00を示していた。涼子はまだ帰って来ない。道草でも食っているのか、それとも、あの女が関係しているのか。ありえない考えだったが剛はそれを否定することはできなくなっていた。剛は立ち上がると玄関へと駆けていく、ドアを開いたところでひらりと隙間に挟まっていた紙がおちたことに気づいた。レシートだ。近くのスーパーのレシート。ステーキ肉、ステーキのたれ、じゃがいも、にんじん、…などが並んでいるただのレシート、今日買い物に行った涼子のものであることはすぐに気づいた。
「ステーキソース……買ってあるじゃないか…」
レシートを握りしめて自分の頭に押し付けた。時計の音が聞こえて、剛はゆっくりと深呼吸をして手を落とす。ひらりとレシートが床に落ちてその裏になにか書いてあることに気づいた。涼子の字だ。床に膝を落としてレシートを拾い上げる。
「私と一緒に暮らすことで剛君がなんらかのストレスになっているのだとおもいます、しばらく距離をおきましょう?」
違う、涼子のせいじゃない。剛ははじかれたように体を上げると、玄関を出て、エレベーターのボタンを何度も押す。ようやく開いたエレベーターに転がるように入り込み、叩きつけるようにして1Fのボタンを押した。足をもつれさせながら外に出れば雨が降っていた。剛の肩を雨が濡らしていく。視線を彷徨わせても涼子の姿は見えず、ただ車がテールランプを光らせながら走っていく。
涼子がいないのも当然だ。あれから何時間が経過したと思っている。「涼子のせいじゃない」それを伝えたいのに、スマートフォンは自分で砕いてしまった。誰のせいだ、あの女だ、あの女がすべて悪いのだ。恐怖が怒りに変わってきた、けれどぶつけるべき相手はこの世にはいない、いない、いないのか、本当に?生きていることを否定してきたが、指輪が戻ってくることといい、電話といい、やっぱり彼女は生きているんじゃないか。剛はいてもたってもいられなくなり、自宅へ戻ると、スコップと車の鍵だけつかむとエンジンを回した。
雨は強く降っていてワイパーを懸命に動かしても前が見づらいほどだった。あの日と同じように車を停め、ぬかるんだ地面を踏みしめる。気持ち悪いがこれは必要なことだ。林の中を回ってそれらしき場所に目星をつけてみたが、あの日はとにかく必死で場所など覚えているはずもなく。
この辺りだったと掘り起こしてみてもただ土をいたずらに掘っただけに終わる。なにを馬鹿なことをやっているのだろうと自傷的な笑みまで漏れてきた。たしかに目の前で死んで死体をこの手で埋めた女をまた掘り起こそうなんて。しかももしかしたら生きているかもしれないなんて。
「はは、あははは」
たまらず笑い声が漏れた。自分がどうにかなってしまったのではないかと、ただひたすら笑い続けた。もし誰かが通りがかったらあまりにも異様な光景に恐怖で凍りつくだろう。それでも剛は掘り進めた、まだ笑い声は続く。
ああ、雨がわずらわしい。




