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吹雪

「……またですよ」


 開口一番、医者は困ったような疲れたような、曖昧な表情を浮かべながらそう言った。

 バルトを病院へ担ぎ込み、泣いているリーシャをなだめながら医者へ状況を説明し、なんとか検査が一通り終了し、一息ついた後のことであった。


「また、とは?」


 尋ねるとここ最近、同様の症例が多発しているとの返答があった。しかも発症者のほとんどがバルトと同じく国王に仕える職の者たちであるらしい。


「過去の資料を集められるだけ集めてみたんですがね、似たような症状の報告は見つからなかったんですよ。新種でしょうね。まだ原因も特定できてないんです」

「新種の病……それは相談所へ報告なさいましたか?」

「それなんですけどねぇ。職員の方が休みとってらして今誰もいないんですよね、相談所」

「そ、れは……なぜ?」

「さぁ……コレが流行り始めるちょっと前から連絡が取れないようでして」


 妙だ。相談所に誰もおらず、ましてや連絡すらとれないなどあり得ない。職員が休暇を取ったなら代理の者がその間配属されることになっている。これは思っていたより危険な状況なのかもしれない。まず他の相談所か、もしくは管理局に連絡を……いや、待て。これらは全て神族が運営しているもの。連絡を取った場合、私がここにいることが先生に把握される恐れがある。それは望ましくない。先生がなぜオート君を殺害したのかが不明な以上、会うのはあまり良くない、と思う。

 ……いや、そもそも先生は本当に彼を殺したのだろうか? 状況的に先生が殺害した可能性が最も高かったので逃げてきたが、冷静に考えてみればそうであると確信できるような根拠は無い。先生は昔から何を考えているのかよくわからない方ではあったが、生き物を躊躇なく殺せるような精神構造はしていなかったはずだ。オート君が殺される直前に話していた時にも、先生に不審な様子は見られなかったし、彼が倒れた時、慌てていて顔をよく確認できなかったが、ずいぶんと驚いた顔をしていたような気もする。

 では、もう一度会って話をしてみるか?いやしかし、もし本当に先生が犯人だった場合だと、オート君を家に帰すことができなくなってしまう。リスクが大きいように感じる。私は賭けは嫌いだ。だが他の相談所に連絡をしないとバルトが……


「せんせ~い、急患やで! また例の新種や!」


 ぐるぐると思考を巡らせていると、出入り口から大きな声がした。見ると、眼鏡をかけた黒髪の男性が服についた雪を払いながら院内に入ってきていた。男性の肩には顔色の悪い兵士が担がれている。医者はため息をつきながらも素早く受け入れの準備を完了させ、兵士をベットに寝かせた。


「ッあ"~。つっかれたわ。コイツの鎧、取り外し方わからんさかいそのまま担いどったら背中に尖っとる部分が食い込んで痛くてぇ……ん?」


 眼鏡越しに目が合った、がすぐに目をそらされた。男性の表情が一瞬こわばったような気がしたがきのせいだろうか……とその時、奥の部屋からリーシャが泣きながら歩いてきた。リーシャの手は血まみれになっていた。


「……、……⁉ リーシャ、どうし、どうした⁉」

「うぉお⁉ 嬢ちゃん何やっとんねん!」

「う"ぇぇ、わた、わたくし、おにいさまに、ひっ、リンゴを、むこうっ、と、思ってぇ」


 嗚咽交じりにリーシャは、リンゴでウサギを作ろうとして手を切ったと話した。『切った』というより『ズタズタにした』という方が正しそうなありさまだった。なぜ……せめて3回切ったあたりでやめられなかったのだろうか。幸い、数は多くとも切り傷なので傷薬で一瞬にして治った。


○○○○○○


「ほぉーん。嬢ちゃんらだけで兄貴を運んできたん? 若いのに偉いなぁ」

「いえ、わたくしは何も。イグニスちゃんがとっても冷静に行動してくださったおかげですわ」

「リーシャもしっかり病院まで道案内してくれただろ」


 待合室にて医者からの報告を待つ間、暇つぶしに話をしている。報告というのは、バルトについてのことだ。眼鏡の男性もなぜか参加してきた。医者の仕事は手伝わなくていいのだろうか。

 しばらくした後そういえば、と思い、眼鏡の男性に尋ねる。


「さっきの急患の家族に連絡は取りましたか?」

「ああ、ビシッと取ったで」

「では、そろそろ見舞いに来るでしょうか」

「いや来ないやろ。少なくとも今日中には」

「仕事が忙しいんですか?」

「いや天気が悪いからや。今ふぶいてんで」

「天気なんて、その程度――」


 ――魔法で変えればいい、と言いかけてやめる。たしか天候操作は他の種族にとっては容易な魔法ではないらしい、と先生が言っていた。だがしかし、雪雲を消し飛ばすことはできずとも、降ってくる雪をはじく程度の魔法なら子供でも使えたはずだ。ましてやここは雪国であるのだし、そのくらいで見舞いを断念するのだろうか。

 そう疑問に思っていると医者が診察室から戻ってきた。


「お兄さんはしばらく様子見ですね。入院です。リーシャさんたちも、今夜は吹雪の予報なのでここに泊まっていってください」

「わかりましたわ」

「ラッキーガールやなリーシャちゃん。今晩のメニューはカレーなんやで」

「えっ本当ですか! 嬉しいですわ~」

「……?なぜここに泊まるんだ」


 そう呟くとリーシャ達は不思議そうな顔をしてこちらを見た。


「何故って……外が吹雪だからですよ。危ないじゃないですか」


 と、医者が言った。


「……そうですか。いや、つい最近この国に来たので。雪国の方々はこのくらい、魔法で雪避けするものだと」


 私がそう答えると、医者は合点がいったようで「なるほど」とうなずきながら続けた。


「黒い雪がね。少量ならまだいいんですけども、大量に降っているときは魔法が使えなくなるんですよ」


 

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