第17話 近衛騎士クリフの日常 2
「よぉ、お嬢さん。ちょっとこっちで話を聞かせてくれる?」
皇女の部屋から出てきたメイドを有無を言わせず廊下の隅まで引き込むと、クリフはにこやかな笑顔を浮かべた。
「あんた、部屋の中で何してた?」
「!」
青い顔のメイドは、心底驚いた様子を押し隠し、頬を引き攣らせる。
「わ、私は皇女殿下の部屋の掃除を……」
「道具も持たずに?」
「!!」
「それに掃除なら、家主が朝食で出払っている間にするもんだ。皇女殿下が部屋に戻ってから1時間……何してた?」
「……!!」
腕をつかまれたメイドは目を泳がせるばかりで何も答えない。
そのつかんだ細い腕をじっと見て……クリフはぽつりと呟いた。
「なんだ? この指輪」
「!!!!」
「随分変わった指輪だが……メイドが仕事中につけるものじゃないよなぁ? お嬢さん?」
クリフが睨みつけた視線の先。
そのメイドの指先には、曇った石のついた奇妙な指輪が嵌まっていた。
「まさかお前――物盗りか」
「!!」
「ほかの掃除婦たちの目があると盗めないから部屋に隠れたな?」
そうして部屋が無人になるまで身を潜め、無人になったところで無施錠の棚を探し物色。
あとは皇女が部屋に戻る前か、戻ったあと、寝室など別の部屋に移動する瞬間を見計らい、堂々と退室すればいいだけだ。
「皇女の部屋で毎日宝石を見ていて自分でも欲しくなったのか? だが王宮内での窃盗……下手すりゃ腕を落とされても文句は言えない重罪だよな?」
「ちがっ……」
腕を払って逃れようとするメイドの両腕をクリフは捻り上げる。
そして壁に押さえつけて拘束すると、その体を間髪入れずまさぐった。
「!!!!!!」
「おっと……変な勘違いはするなよ。これはお前への温情だからな。隠し持ってる盗品をあとで発見されてしょっぴかれるより、先にここで見つけて自首したほうが、その腕だって無事に済む――」
希望的観測だが、なにも無駄に腕を失う必要はないだろう。
クリフは淡々とポケットやカフスの裏、メイドが盗品を隠しそうな場所を検める。
(あとは女が物を隠しそうな場所といえば……)
「!!」
クリフは服の上からメイドの胸元を検めた。
(手癖の悪いスリなんかは、こういうところに隠すのが常套手段だが……ないな)
胸の間も、下着の下も。満遍なく服の上から触ってみたが、特に硬いものを隠し持っているような感触はない。
あるのは想像以上に柔らかで張りのある弾力だけで、特に何もなさそうだ。
盗品を身につけて逃げるような間抜けだから、それで自分のものだと言い張れるとでも思ったのか。
それともこれ以上の収穫はなかったのか……。
「……ちょっと!!」
思考に耽っていたからだろう。メイドから抗議の声が飛ぶ。
「あー……悪い。他意はないんだが立派なものをお持ちで……。つい忘れてたわ」
職務だというのに、ついつい良すぎる触り心地に我を忘れていた。
「……と、それはそれとして。窃盗は立派な犯罪だ。その指輪があんたのものだと証明できない以上、俺はあんたをしょっ引くことになる――――」
「その必要はないわ」
急にすんと声を落としたメイドが、抵抗をやめる。
そうしてひとつ深い溜め息をつくと――――…………。
「この手を離しなさい。私が、皇女よ。皇女シルヴィア――」
紅い瞳の女が振り返る。
「!!」
その瞬間、騎士クリフは凍りついた。




