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無能と追放された俺、捨てられた失敗魔法を回収していたら、いつの間にか世界の魔法体系が書き換わっていた件  作者: zero


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12/21

正しい魔法が、間違っている

ローデン村に、新たな来訪者が現れたのは、契約締結から十日ほど経った頃だった。


 白を基調としたローブ。

 装飾は控えめだが、布地は高級。

 腰には杖――だが、使い込まれた様子はない。


「魔法学研究院より参りました」


 名乗ったのは、初老の男性だった。


「エルヴァンと申します」


 その声は落ち着いているが、目だけが異様に鋭い。


「あなたに、どうしても確認したいことがありまして」


 村長は、ちらりと俺を見る。


 俺は、頷いた。


「話だけなら」



 集会所の一室。


 エルヴァンは、早速本題に入った。


「あなたは、“失敗魔法”を使っていると聞きました」


「そう呼ばれているものですね」


「定義を確認しましょう」


 彼は、机に指を置く。


「発動条件を満たさない

 効果が不完全

 再現性が低い


 これらを総称して、失敗魔法」


「一般的には」


「ですが」


 彼は、視線を上げた。


「あなたの成果は、再現性が高すぎる」


 核心だった。



「普通、失敗魔法は“結果が安定しない”」


「ええ」


「しかし、あなたが関与した場所では

 結果が固定されている」


 水路。井戸。畑。倉庫。


「これは、失敗ではありません」


 エルヴァンは、断言した。


「分類が、間違っている」


 空気が、少し張り詰める。



「では、何だと?」


 俺が、聞き返す。


 エルヴァンは、少し言葉を選んだ。


「本来は、“前処理魔法”です」


「前処理?」


「本命の魔法が、正しく作用するための準備」


 彼は、杖で床を軽く叩いた。


「魔法とは、世界に干渉する行為です。

 ですが、この世界は――」


 少し、間を置く。


「干渉される準備が、できていない」



「……意味が分かりません」


 村長が、困惑したように言う。


 エルヴァンは、頷いた。


「でしょうね。

 魔法学は、結果主義ですから」


 彼は、続ける。


「水を出す魔法。

 火を起こす魔法。

 回復魔法」


「どれも、“結果”だけを見ている」


「ですが、その前段階――

 土壌、水脈、魔力流路」


 そこに、視線を向けた。


「誰も、整えていない」



 俺は、少し考える。


(だから、失敗魔法が出る)


 無理やり結果を出そうとして、

 前提条件が壊れる。


「あなたは」


 エルヴァンが、静かに言った。


「結果を出していない」


「……?」


「結果が出る状態を、作っている」


 その言葉は、腑に落ちた。



「だから、派手な痕跡が残らない」


「だから、再発しない」


「そして――」


 彼は、わずかに笑った。


「だから、誰にも理解されなかった」


 胸の奥が、少しだけ痛んだ。



「魔法体系が、逆なのです」


 エルヴァンは、淡々と告げる。


「本来は、

 整備 → 発動 → 維持」


「だが、この世界は

 発動 → 崩壊 → 修復」


「失敗魔法は、

 その“歪み”の副産物です」


 部屋が、静まり返る。



「……もし」


 村長が、恐る恐る聞く。


「それが、広まったら?」


 エルヴァンは、即答した。


「混乱します」


「既存の魔法理論が、崩れます」


「多くの魔法使いが、

 自分の魔法を疑うことになる」


 そして――


「あなたは、中心に立たされる」


 視線が、俺に向く。



「だから、私は来ました」


 エルヴァンは、深く頭を下げた。


「この理論を、公開するつもりはありません」


「ですが――」


「あなたの協力が、必要です」


 その姿は、研究者だった。


 権力者ではない。



 俺は、しばらく黙った後、言った。


「協力は、条件付きで」


「もちろん」


「私のやり方を、変えさせないこと」


「……分かりました」


「そして」


 少し、間を置く。


「この村を、実験場にしないこと」


 エルヴァンは、はっきり頷いた。


「誓います」



 夜。


 一人になって、考える。


(失敗じゃ、なかったのか)


 ずっと、そう言われてきた。


 評価されず、切り捨てられた。


 だが――

 前提が、違っていただけ。


 世界の方が、間違っていた。


 そう思うと、不思議と怒りは湧かなかった。


(やることは、変わらない)


 整える。

 壊さない。


 それだけだ。



 その頃、王都。


「魔法学者が、辺境に入った?」


「はい。

 非公式ですが」


 誰かが、舌打ちする。


「……早すぎる」


 だが、もう遅かった。


 世界の前提は、

 静かに、揺らぎ始めていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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