第58話 演劇部員ジロー
俺達を乗せた馬車はライン大橋の少し手前で止まった。
ライン大橋を渡ればすぐにザンジバル王国に入る、だがその前に厳しい検問がある。国境を越えるのだから厳しくて当然なのだが、ただの一冒険者のパーティーなんかを易々と通してはくれないだろう。
ランディウスさんは顔を隠している様に見えるし、エミリーはミレーヌ伯爵のご息女だ。みんなには、馬車の中で待機してもらっている。俺だけが馬車から降りた。
ゆっくりとした足取りで、検問所に近づく。なるべく大物ぶって・・・そしてわざと大きな声で検問をやっている人達に聞こえる様に声を掛けた。
「はいはい! そこまで、お前ら検問作業をやめろ、作業中止! おいそこ、検問作業をやめろって」
大きな声と合わせて手を叩きながら検問官に近づく。
「いーから、早く検問作業をやめろって」
「何だ? 何の騒ぎだ」
検問所から誰か出てきた、検問をやっているのはバーミンカム王国軍の兵士の様だ。
「検問やめー! おいそこ、検問作業をやめろって」
「だから誰だよお前」
「街道管理局の者だ、おいそこ、検問やめろって」
俺は冒険者ギルドのギルドカードを一瞬だけ見せて直ぐに仕舞う。
「街道・・・管理局?・・・聞いた事ないな」
「新設されたばかりなんだよ、おいそこ、検問作業やめろって」
「で? その管理局の奴が一体何の用だ」
「責任者誰だぃ」
「俺だ」
よし、ここで一気に畳み掛ける。
「ああ、あんたか、ちょうどいい、命令書見せろ」
「何? 命令書?」
「そうだ、昨日届いてるだろう、それに不備があったんだよ、そこ、検問やめろって」
「昨日? 命令書なんて届いてないぞ」
「何、まだ届いてないだと! あいつめ、またドジをやったな、まあいい、今から口頭で伝える、いいか、検問作業を中止、直ちに通常任務に戻れ、だ、そうだ」
「なんだと? 通常任務に戻れだあ?」
「ああ、そうだよ、いつも通りモンスターを橋に近づかせない様にする任務だ」
「しかし、いきなりそんな事言われてもな、どこからの命令だ」
「街道管理局だっつってんだろ、おいそこ! 作業をやめろ、バリケードどかしとけ」
「しかしなあ」
有無を言わさず、俺は次々と畳み掛ける。もう一押し、と言う感じか?
「わかってる、あんたのせいじゃないよ、悪いのはドジをやったウチのもんだ、上の方には俺からうまく説明しとくからさ、あんたらはいつも通りライン大橋の警備任務をやればいいよ」
「本当に検問任務が解かれたのか?」
「ああ、たぶんな、俺だって使いっぱしりだからな、おいそこ、検問作業やめろって、バリケードどかしとけって」
「俄には信じられんが、・・・よーし、検問やめー、そこのバリケードもどかせ」
よし! 乗ってきた。このまま勘違いしてくれればこっちのものだ。
「ああ、そうしてくれ、じゃあこっちはこっちで橋を渡らせてもらうよ」
「ああ、わかった、俺達は通常任務に戻る、ザンジバル王国は今荒れているらしいからな、道中気をつけろよ」
「ああ、ありがとよ、お仕事ご苦労さん、それじゃあな」
俺はゆっくりと馬車まで戻る、ギャリソンさんはニコニコしている。
「ジロー様、橋は渡れますかな」
「ええ、渡れるらしいです」
俺は馬車の中に入って椅子に座る。何事もなかった様に。
「ああ、女神様。嘘つきなジローさんをどうかお許しください」
「ファンナ、あたいの分も祈っておいておくれ」
「ジローってば、よくもまああれだけ言えるわね」
「やるじゃないおっさん、見直したわ」
「な、なにはともあれ、これでライン大橋を渡れますね」
「皆様、準備の方はよろしいですかな、それでは出発いたします」
こうして、俺達を乗せた馬車はライン大橋を無事に渡る事ができた。
目指すはザンジバル王国にある妖精の森だ。このまま街道に沿って馬車は進む。ピピはさくらんぼみたいな果物に齧り付いている、ホント好きだねさくらんぼ。ライン大橋を渡って、俺達を乗せた馬車はザンジバル王国に入った。
さあ、ここからは何が起こるのか、少し不安だ。
お腹が少し空いてきたのでパンとチーズ、それと干し肉を食べながらの馬車の旅は順調だ。
「そう言えば自己紹介がまだだったねえ、あたいはルビー、魔法使いのメイジだよ」
「私サーシャ、エルフの弓使いでスナイパーよ、よろしく」
「冒険者のファンナと言います、よろしくお願いします」
「ジローです、一応ウォーリアです」
「ランディウスです、みなさん道中よろしくお願い致します」
「・・・ピピ」
「私は・・・エミリーよ」
「ルクード家の皆様にお仕えしております、執事のギャリソンと申します」
一通り自己紹介も済んで、俺はランディウスに聞いてみた。
「そう言えばランディウスさんはご実家がザンジバル王国にあるんですよね」
「ええ、途中まででよいので、ご一緒できればと思っています」
そこへ、ルビーさんがこちらの旅の目的を伝える。
「あたい等の目的は妖精の森でモンスター討伐だよ、いいのかい」
「え~と、僕の実家は王国の王都にあるんです。ここからだと妖精の森の方が近いですね、僕は剣が使えます、自分の身は守れますから、お手伝い致しましょうか」
「いえ、それには及びません。どちらにしても霧の森を抜けないといけませんから馬車は森の中へは入れませんから、何人かは馬車の護衛をしていただかないと」
「あ、そうなんですか、わかりました、では僕が馬車の護衛を致します」
「すみません、そうしていただけるとありがたいです」
「いえ、構いません、こうしてザンジバル王国まで連れていってもらってますから」
「エミリーさんも馬車の護衛、よろしくお願いします」
「いやよ、私も冒険するわよ」
お嬢様の我侭にギャリソンさんが一言言った。
「いけませんお嬢様、ここはもうバーミンカムではないのですよ」
「森の中に入るのなら盗賊としての私の出番じゃない」
「それではこうしましょう、危険な感じなら馬車の護衛、いける様なら盗賊としてお手伝いしていただくと言うのはどうでしょうか」
「私が必要なら言いなさいよ」
「わかりました、それまでは馬車の護衛を」
「わかったわよ、ギャリソンと待ってるわ」
「ありがとうございます」
これで霧の森を抜ける為に馬車の護衛はなんとかなった。後はピピの依頼のモンスター討伐クエストをこなすだけだ。霧の森まであとどれくらいの距離かな。
おじさんゆっくり行くよ




