第23話 豪商スグ・オール男爵
「ジローさん、・・・あたしゃ情けないよ・・・」
「違うんです! ルビーさん、話を、俺の話を聞いて下さい!」
俺は今、牢屋にいる、勿論誤解だ。俺はやってない。無実だ。
「あ~、はいはい、痴漢をやった奴は大概みんなそー言うのさ」
「違うのに・・・俺は何も・・・」
痴漢はやってない、ただちょっとウエイトレスさんの胸を鷲掴みしてしまっただけだ。冒険者ギルドの酒場で少し酔って、足がもつれて転びそうな所に腕を伸ばしたら丁度ウエイトレスさんの胸があって掴んでしまっただけなのに。
「メンデル子爵がとりなしてくれたから、1日2日で出られるよ、その間、頭でも冷やしな」
「ルビーさん、俺は、・・・違うんです・・・」
「はあ~、それじゃあジローさん、あたいもう行くね・・・これだから男ってのは・・・」
ルビーさんは行ってしまった、寂しい。知っている人に理解されない事が。まあでも、ルビーさんとはそこまで長い付き合いでもないけど。
「あ~、どうしてこうなったんだ、違うのに、わざとじゃないのに」
「おい、少し静かにしてくれんか」
「あ、はい、すみません」
隣の牢屋にも誰か入っているようだ、近所迷惑だったか。
「ん? その声、あの時の冒険者か」
「ど、どちら様でしたっけ」
「わしの声を忘れたか、スグ・オールだ」
「え、スグ男爵ですか」
「フッ、男爵かどうか、今となっては解らんがな」
ふむ、スグ男爵は隣の牢屋に入れられているのか、一体何をやってしまったんだろうか。
「なぜスグ男爵が牢屋なんかに、何かやってしまったのですか」
「忘れたのかお前、わしがサリー王女殿下に無礼を働いたであろうが」
「ああ、そうでしたね、しかし操られていたのでは」
「途中から意識があったのだ、サリー王女殿下に嘘を付く訳にもいかんのでな」
「それで自ら牢屋に、潔いですね」
「まあな、これでも国王陛下より男爵の爵位を賜っているのでな」
おや? スグ男爵とはこんな性格だったっけ? あ、そうか、確かバインダーとかいう奴に操られていたんだったけな。
「なにか性格変わってませんか」
「そうか?」
「もっと尊大な態度でしたよね」
「・・・・・・間違っていたのだ」
「何がですか」
「何かが・・・間違っていたのだ」
「・・・」
「最初はな・・・小さな道具屋から始まったのだ」
「・・・」
スグ男爵の思い出話か、しょうがない、付き合ってみるか。
「最初のうちは地域に密着したやり方でな、少しずつ儲かっていたんだ」
「・・・」
「そこから10年、今では伯爵と肩を並べるほどの財を築いた」
「豪商と呼ばれていたんでしたね」
「それから男爵になるのは早かったよ」
「すごいと思います」
「煌びやかだったな、あの頃は・・・」
豪商、スグ・オール男爵か。10年で財を築いたというのは、きっと並大抵の事ではなかっただろうな。商人としての器も必要だったろうし、商才があったんだろうな。
「・・・」
「その頃からだな、わしの目が曇ったのは・・・」
「・・・」
「妻や娘、従業員である奴隷に辛く当たり散らす様になった、商人としてあるまじき事にな」
「操られていたのでは」
「バインダーの様な訳の解らん者に隙を見せてしまったりしてな」
「・・・」
「フッ、こんな事、おぬしに言っても始まらん事だがな」
「・・・そうですか」
「わしは商人だ、男爵の爵位を取り上げられようとな」
「・・・・」
「もう一度商人としてやり直してやるわい、な~に、商売何ぞどこででもできるわい」
人に歴史ありだな、色々あるようだ。
その時、看守がやって来た。
「スグ・オール男爵、迎えが来たぞ、出るんだ」
「ようやくか、わしは王都へ上がる、陛下の前で証言せねばな、・・・名は何と言ったか」
「ジローです」
「そうだった、ではな、ジロー殿」
「お気を付けて」
どうやらスグ男爵は心を入れ替えた様だな。
スグ男爵は牢屋を出て行った。
俺も早く出たい。
おじさん、大人しくするよ。




