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2人の初恋   作者: 朧霧
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未来 (フィル)

 エミルが記憶を少しずつ取り戻してから半年が過ぎる頃、記憶を失うことからは解放された。過去にあった良い出来事も悪い出来事も全てではないが思い出すから内心では心配している。唯一救いなのはエミルが落ち込んだり泣いたりしないことだ。


妊娠中にふとしたきっかけで思い出すようになったから心が不安定になって無事に出産できるのか不安だったが元気な女の子を産んだ。髪と瞳の色は淡褐色で俺と同じだけど顔立ちはエミル似で可愛い。名前はエリーシャ、俺が名付けた。


俺はエミルとエリーシャが芝生を植えた庭に日光浴をしている光景を見ると幸せを感じる。エリーシャはご機嫌が良かったのに突然ぐずり出し、原因を調べたがおしめや乳でもなさそうなのにエミルがあやしてもなかなか泣き止まない。


「フィルさん、少し交代して。私、喉が乾いちゃって」


「エリー、今度は父さんが抱っこしよう」


エミルはあやし疲れたのかお茶を一気に飲んで一息ついている。


「ねぇ、そういえばクリス様の出産はいつくらいなの? 早く見たいな。確か私とクリス様が会ったときには妊婦3か月くらいだったかしら?」


「たしか殿…ニド様があと2か月くらいで出産と言ってたしクリス様のお腹も大きくなってきてる」


「いいな。今度は男の子が欲しいから滝に行ってお願いしようかな?」


「それはエリーがまだ小さいから無理だ。俺達もまだ若いし仲良くしていればまた自然にできるさ」


「うん、エリーにも兄弟が必要だしこれからも仲良くしすぎてね」


「もちろん任せて…。頑張るから!」


殿下は結婚してから2か月くらいで子宝に恵まれたことが分かり、クリスティン殿下にエミルをメンデス家で紹介したときは妊婦同士早く仲良くなれたようだ。


殿下は気を遣われるよりも正体を明かさない方が良いと言い、エミルの記憶も貴族の友人のままにしてあるからクリスティン殿下も貴族のご夫人となっている。


父はナジェルさんと酒を飲みながら談論を楽しむのが好きで最近は兄のアルフォンスが加わるようになり夜更かしする日も度々ある。

母は14日に一度はエミルに会いに来ていたが記憶を失くしてしまうことから解放された途端に今度は突然訪れて泊まっていくようになった。自由気ままな行動をしているからナジェルさん達に迷惑をかけていないか心配になる。


そしてアルフォンスが遂に父と母から承諾を得て婚約し婚約者は貴族教養と行儀作法を身につけるためにライゼンのシャノアール伯爵家へ滞在することになった。無事に習得することができたらシャノアール家の養子として認めていただけるし遠縁なので結婚もできる。


残すところはデュークだが相変わらずライゼンに滞在しており最近ではビンセント様の紹介で大きな商会の経理をしている。自活できる資金が貯まればニルセンブリナに帰るつもりは無いと思うようになってきた。 


姉のカトリーヌはデビットを出産後、更に2人の子供を産み3人の子持ちになったので精神的に逞しくなった気がする。


ナジェルさんとマリアさんは初孫をとても可愛がり溺愛気味でたくさん孫ができてもいいと言っている。 

それからこの先、歳をとっていくことを考えて雑貨屋を近々閉店し自宅に小さな店を構えて花屋のみ営むことにした。ナジェルさんは今まで通り配達をしてエミルとお義母さんが店に出る予定である。

来年には自宅の塀を一部壊して小さな花屋を建てる予定だ。


1ヶ月半後、少し早めであるが遂に殿下とクリスティン殿下の子供が産まれた。男の子で名前はエルナード殿下。子煩悩な印象がなかった殿下だが積極的に世話をしてとても溺愛している。


それにメイさんとトムがいつの間にか婚約していた。トムがエミルに振られて落ち込んでいるときにメイさんが心の支えになったそうで恋仲になりエミルはとても喜んだし俺も不安が消えた。


そして周辺諸国の情勢は落ち着いてきたのでザックとラミユも一年に数回は帰国して我が家に訪れるとナジェルさんも交えながら酒を飲み何日も泊まっている。

毎回、酔っ払って長椅子で寝てしまうので朝は見慣れた光景になってしまった。

エリーはザックとラミユを見て泣いていたが何回も訪れるうちによく懐くようになり「嫁に来るか?」と言っていたので冗談だと分かっていてもはっきり断った。

ザックとラミユは俺のことを相変わらず独占欲が強い男だと大笑いしている。エミルだけではなくエリーも増えて更に独占欲が増したので、たちが悪くなったと自覚し反省しているがなかなか直せない。



こうして平和になった時代に平凡で幸せに暮らしているが、エミルと出会ってから3年も経っていないのに俺の周りには大切にしたい人がたくさん増えた。この先長い人生、また苦難なこともあるだろう。だが愛する家族が傍にいて大切な人達と支え合い共に生きていける人生は本当に素晴らしいと思った。


幸せの基準は人それぞれ違うと思う。いつ聞いたか忘れたがザックとラミユは仕事は大変だし無性に自国へ帰りたいときもあるそうだが、やり甲斐のある仕事を辞めてまで家庭を持ちたいとは思わないそうだ。女性も子供も好きだし幸せそうな家族を見ると羨ましい気持ちもあるが自分の幸せは結婚ではないとはっきり言っていた。だからたまに我が家にきて家庭的な気分を味わえれば気が済むらしい。


殿下もそうだ。生まれたときから王族として育てられ重責を担って生きていく。そんな日々の中で愛する伴侶と出会えて子供が生まれ幸せを感じているようだ。


俺の兄弟も自分で選択した人生を歩む努力をしているし大半の人も一生懸命日々を送っているだろう。

俺はエミルを幸せにすることを選択したしおそらくエミルも同じ考えだと思う。そして何より自分は何もせず誰かに自分を幸せにしてもらおうなんて考えは決して駄目だ。エリーシャやこれから生まれてくるであろう子供達には幸せになる方法を失敗してもいいから自分で選択し苦難を乗り切って生きて欲しい。


運命的な出会いなんて一度も考えたことがなかった俺が一瞬で心を奪われるなんて今でも信じられない。運命なんて変わるものだし変えてもいけるはずだ。どうしても逃れることができないときもあるだろうが、全てどう生きるかは自分次第なのだ。そして普通に生きて平凡に暮らすことはとても簡単そうだが一番難しかったりする。だから必死になって生きることが人に与えられた使命なのかもしれない。


エミル、君に出会えたことは俺の宝物。君の幸せのためならどんなことでもするから一日でもいいから俺より長生きしてくれよ。

恋に落ちて初めて愛することを知った俺。エミルありがとう、愛してるよ。







ありがとうございました!

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