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26 瀉血

〇女岩島(めいわじま)診療所。診察室。

T「翌朝」

 村長が杏奈と話している。

杏奈「瀉血(しゃけつ)ですよ」

村長「瀉血(しゃけつ)?」

杏奈「一般的になじみのない治療法ですが、瀉血とは血を抜く治療法です。血を抜くことで、病気や有害物質や老廃物を排出させて健康にさせます」

村長「なんでまた、育人が瀉血をせんといかんのですか?」

 杏奈、溜息をつく。

杏奈「……育人君は長年に渡って父親から育児放棄(ネグレクト)を受けていました。劣悪な環境で暮らしていたため、インスリン依存型小児糖尿病の疑いがあります。インスリンが不足し、摂取した糖を利用できないため脂肪の分解が進み、血液中にケトン体という脂肪酸の代謝物が増えます」

村長「はあ………」

杏奈「ドロドロになった血液を抜き、新しい血液を作ることにより、不要な成分が減少して血がサラサラになるのです」

村長「それなら、なんであんな夜中にコソコソと…」

杏奈「育人君の身にもなって下さい。あの子は優しい村長さんに引き取られましたが、今までずっと父親の虐待を受けてきた。もしも自分が病気だと村長さんに知られたら、また捨てられるのではないか。育人君はそんな風に怯えていたのですよ」

村長「育人のやつ、そんなことを考えとったんか…」

杏奈「育人君には病気のことは口止めされていたのですが、村長さんが不信感を抱いておられるようなので、お話した次第です」

村長「い、いや、わしは何も……。そんなこととはつゆ知らず、怒鳴ったりしてあの子にはすまんことをしてしまった………」


 診療所から出てゆく村長。

 窓越しに村長の後ろ姿を見ている杏奈とあゆみ。

杏奈「うまく誤魔化せたわね」

あゆみ「さすがですね、先生。よくあんな嘘をペラペラと喋れますね」

杏奈「あら?瀉血って本当にあるのよ」

 ほほ笑みあう二人。

杏奈「でも今回は誤魔化せたけど、早いとこ育人の保護者(ガーディアン)を増やさないとね。婦人会の準備の方は進んでるの?」

あゆみ「房江さんが声をかけて三十人ほど集まります」

 名簿を杏奈に手渡す杏奈。

杏奈「あら?意外と少ないのね」

あゆみ「先生はご存じないでしょうが、ほとんどの島民は村長派と組合長派に分かれています。集まるのは村長派の人ばかりです」

杏奈「ふーん……。田舎の権力争いも大変ね」

あゆみ「それがですね、一人怪しい人が参加しているですよ」

 あゆみ、名簿を指さす。

杏奈「川島亜矢子…」

あゆみ「スナック亜矢子のママです。こいつ、バリバリの組合長派ですよ。組合長の愛人って噂があるくらいです」

杏奈「へぇ………。組合長のスパイか。まあ、構わないわ。どっちみち、島の女はみんな育人派になるんですもの」


婦人会

○村の大通り。女岩島食堂。昼。

 昔風の小さな食堂。昼食を食べながら井戸端会議をしている村の女たち。

T「小西 久美子(38)。女岩島フェリー事務員」

久美子「明日、コミセンで健康づくり教室があるで」

T「上野 英子(35):女岩島郵便局職員」

英子「生活習慣病予防のためのヘルシー料理を食べる会やて」

T「浦野 綾花(31):女岩島食堂店員」

綾花「タダでランチ食べれるし、ダイエットのためのヨガ教室もするって」

久美子「こりゃ、行かな損やな!」


○女岩島(めいわじま)コミュニティセンター。会議室。朝。

 あゆみ、房江、実日子が机や折り畳み式椅子を並べている。

 紗雪、果乃、まりな、碧、圭織の女生徒達も手伝って、弁当を運んでいる。

 部屋の隅に加湿器を置く杏奈。

 水の入った加湿器のタンクを取り外す。

 杏奈がタンクの中に少量の育人の血液を投入する。

 水タンクの中に血が薄く広がって行く。

 ニヤリと笑う杏奈。


○女岩島(めいわじま)コミュニティセンター。会議室。昼。

 入り口に「女岩島婦人会」の案内板。

「いきいき食生活」と書いたホワイトボード。

 壇上には杏奈が立ち、生活習慣病の講義をしている。

 三十名ほどの女性が熱心に聞いている。


あゆみ「みなさん!お待ちかねのヘルシー弁当ですよ!」

 あゆみと女生徒たちが弁当を運び入れる。


 談笑しながら弁当を食べている村の女性たち。

 部屋の四隅では加湿器が稼働し、水蒸気を出している。

 と、身体の異変を感じる村の女性たち。

綾花「何か変やわ…」

英子「身体が熱い…」

久美子「のぼせてもうたわ」

 次第に村の女性達が押し黙り、静かになってゆく。

 育人が会議室に入ってくる。


 女たちの目の色が変わり、うっとりとした表情。

育人「お前たちは俺の保護者(ガーディアン)だ!俺のために命を捧げるんだ!」

村の女性達「(一斉に)はい!!」

育人「来週の日曜日も同じ会合を開く。今日、ここに来ていない女を誘って連れてくるんだ。わかったな」

村の女性達「(一斉に)はい!!」

育人「それと、川島亜矢子はどいつだ?」

 スナックのママ、亜矢子が嬉しそうに手を挙げる。

亜矢子「はい!私よ!」

育人「お前、組合長のスパイだな?」

亜矢子「ええ。そうよ。組合長に頼まれて参加したの」

杏奈「組合長は何か言ってた?」

亜矢子「村長の嫁と女医は結託してるって。二人で組合長の息子を殺したって思ってるわ」

杏奈「ふん!まあ、当たらずといえども遠からずね」

亜矢子「駐在を使ってあんたのこと調べさせていたよ」

杏奈「私のことを……」

育人「邪魔だな、組合長」

杏奈「そうね。消えてもらいましょう」

育人「よし!ついでに村長も…」

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