25 派出所
○派出所。昼。
T「女岩島派出所」
武藤組合長と三好巡査が机を挟んで話している。
三好「組合長!本部の同期に村上 杏奈のことを調べてもらいました」
武藤「おお、そうか!」
三好「村上 杏奈、三十四歳。昨年まで本土の県立病院の内科に勤務しとりました。成績も優秀で、将来を嘱望されとったのですが、ひとつ問題を起こしました」
武藤「何や?もったいぶらんと、早よ言わんか!」
三好「す、すみません!不倫です!」
武藤「不倫やと?」
三好「はい。同じ病院の医局長と男女の関係だったのですが、実は相手は妻子持ちだったそうで。病院にまで医局長の妻が乗り込んできて相当派手な修羅場を演じたそうです」
武藤「それで、こんな僻地の診療所に追いやられたちゅうわけやな」
三好「はい。結局、村上杏奈だけが割を食い、相手の医局長の方は何のお咎めもなかったそうです」
武藤「あの女医としては、一刻も早く本土に復帰したいやろうな」
三好「それと、村上医師は最近、村長の奥さんと頻繁に会っていますね」
武藤「そりゃ、村長の娘のあのスベタが診療所に入院しとるからやろ」
三好「いえ。それだけではなく、どうも二人で村の女を集めて婦人会を開くそうですよ」
武藤「なんやと!村長の嫁がまた選挙のための人気取りか」
三好「組合長!あの女医は村長一派と結託しとるんやないですか」
武藤「……考えられるな」
三好「となるとご子息の事件も、村長が組合長を陥れるために起こしたとも考えられます」
武藤「それにあの女医も一枚噛んどるというわけやな!」
武藤、札入れから万札を数枚取り出すと、三好に手渡す。
三好「(お辞儀をして)こりゃあ、また、どうも!」
三好、急いで万札を胸ポケットにしまう。
三好「婦人会の方も調べましょうか?」
武藤「いや。そっちは女の方が調べやすいやろ。わしの方で都合をつけるわ」
武藤、スマホを取り出し通話する。
武藤「おう!わしや!」
○スナック「亜矢子」。
開店前の薄暗い店内。
スナックのママ、川島亜矢子がスマホで武藤と話す。
亜矢子「婦人会?それに出ればいいのね。診療所の女医と村長の女房を監視するの?まかせといて!」
○派出所
武藤、スマホを切る。
武藤「今にみとれよ。あいつらのシッポを掴んで、絶対に雄太の仇を取ったるからな!」
採血
〇村長の家。育人の部屋。夜。
机でノートPCを操作している育人。
机の上にはトレイに載った採血用の用具がきちんと並べて置いてある。
PCのモニターには看護師真鍋 あゆみと藤井 実日子教諭が映っている。
あゆみが実日子を使って採血の仕方を教えているビデオである。
あゆみ「それではまず、感染予防のために手袋をはめて下さい」
育人はビデオの指示通りに手袋をはめる。
あゆみ「真空管採血用ホルダーに針を接続します。針はホルダーにカチッと音がするまで差し込んでね」
あゆみ、実日子の左腕の肘の少し上に駆血帯を巻き、血管を確認する。
あゆみ「手をグーパーグーパーして、軽く握ってね。それから指で静脈を探すのよ。弾力があって、太くて、まっすぐで、拍動がない静脈を選んでね」
あゆみ「アルコール綿で針を刺す所を中心に円を描くように消毒して乾燥するまで待ってね。アルコールは乾燥していないと消毒効果がないから、必ず乾燥したことを確認すること」
あゆみ「注射針のカット面は上にして、血管の走行に合わせて10から20度の角度で刺すのよ」
あゆみ「針が血管に刺さったら、針の角度を小さくして、針を少し進めてね。血液がドバーって出てくるわ」
あゆみ「血液の流入が停止したら、次の真空採血管を入れて。この時、右手でホルダーを固定したまま…」
ビデオの指示通りに自分で採血をしている育人。
と、部屋のドアを開けて寝間着姿の村長の橘 敏明が入って来る。
村長「育人!?何をしとるんや、お前!?」
育人「………!?」
驚いて固まる育人。
村長「ち、血を抜いとるんか!?こんな夜中に一体何をしとるんや!?」
育人「…………」
拳を握りしめる育人。
育人(こいつ、消すか………)
その時、村長の妻、房江が部屋に入ってくる。
房江「何を夜中に騒いどるん、あんた?」
村長「房江?こんな夜中に物音がするから見に来たら、育人が自分の血を抜いとるんや!」
房江「あ、ああ…。そ、それは村上先生が血液検査するから、毎晩決まった時間に採血するように言われとるんや。なあ、育人」
育人「………うん」
村長「血液検査やと?子供が自分で夜中に血を取るなんて、一体何の検査に使うんや?」
房江「そ、それは………」
答えに窮する房江。
村長が興奮して房江と育人に詰め寄る。




