2M「再就職先、魔王様の側近なんていかがでしょうか」
ハローワークへ行き、私の番になったので受付に行くと、そこにいた女性が唐突に声をあげた。
「あれ、山田さんですか……?」
「はい、そうですけど……?」
「やっぱり!!」
そういって笑顔になる受付の女性に怪訝な顔を浮かべると、女性は、ひとつ咳払いをしてから私に向き直っていった。
「申し遅れました。私、山田 蛍様の就職を手伝わせていただきます、小澤と申します」
その声を、確かに私は聞いたことがあったけれど、何かにひっかかって思い出せない。
けれど、悩み続けていると、彼女の存在がするりと頭の片隅から出てきた。
「も、もしかして……3年前、私の担当をしてくれた、新人の……?」
「はい!覚えていただけているようで、とても嬉しいです!……といっても、今の私は、あの時みたいに新人ではないんですけどね」
そういった小澤さんが、手で椅子を示してくるので、素直にそこに座る。
すると、カウンターをはさんで向かい側にある椅子に座った彼女は、その場で頭を下げた。
「本当に申し訳ありません!新人の私が斡旋した企業が、まさかあんなことをしているなんて……私の調査不足でした。申し訳ありません」
「えっ……えっ、いや、その時あなたは新人だったんだし、新人がちょっと調査したくらいで汚職がバレるんだったら、そもそもそんなことやろうとしないから。そんなに重く感じないでも……」
「いえ、私が許せないんです。……ですので、今回は山田様の事情を最優先で企業を探さしていただきます」
そういう彼女の言葉に、思わずたじろいでしまう。
「別に、そこまでしなくても……」
「私なりの償いだと思ってください。今度は、私がもっとちゃんとした企業を紹介していれば……なんて後悔は、したくないんです」
その言葉に頷くと、彼女は笑顔でお礼を言って来た。
そんなに尽くしてもらうんだから、お礼を言うのは私の方だと思うんだけどな……。
そんなことを思いながら、次はどんな職業につきたいかを彼女と話していく。
「で、早速本題に入りますが、職種はどんなものがいいですか?……まぁ、今までの職業経験と、この検定の種類から考えていくと、前のものと似通ったものがいいと思いますけど……」
「そうですね……個人的にも、そっち方面の方が活躍できると思いますし、以前と同じように、会計とか、そういう関連のがいいかな……と」
私がそういうと、彼女がメモをとっていく。
シャーペンのカリカリという音を聞きながら、条件を言っていく。
「あ、あと、3ヶ月で1200万円稼げるところって、ありますか?」
「せ、1200万!?しかも3ヶ月で?一体、なんでそんな大金が……」
やっぱり、そんな企業なんてないだろうなと思いながら、彼女に事情を話す。
「実は、家族がある人の連帯保証人になったんですけど、その人、借金を残したまま逃げちゃって……。で、その借金があるもんだから家から何まで全部差し押さえられちゃって。でも、私に迷惑になるからって、今の状況になるまで言わなかったんです」
「そうなんですか……ご家族のお仕事は?」
「父がイラストレーター、母が絵本作家、兄が画家です。全員、収入が不安定な上に、仕事道具まで家と一緒に差し押さえられている状態だから、何も仕事ができなくて……私が3ヶ月以内に稼ぐしかないんです」
私がそう言い終えると、少し悲しそうな顔をした彼女は、明るい顔を作って、私に言った。
「きっと見つかりますよ!頑張って探しましょう」
私を元気づけようとしてくれる彼女の笑顔を見て、私も釣られて笑顔になる。
そんな私の顔を見た彼女は、少しホッとしたような息を吐いてから、私の資格と職業欄を見比べ始めた。
他の人に気遣ってもらうなんて、私もまだまだだな……なんて思いながら、私も彼女と同じように職業欄を見ていく。
「へぁっ」
「えっ、どうしたんですか?」
唐突に変な声をあげた彼女を見ると、私の資格と職業欄にある、あるところを、視線を忙しないくらいに動かして見比べていた。
見比べたあとは、じっと職業欄を見つめてから、ゆっくりと私に視線を向けた。
「あの……すいません」
「はい、なんですか?」
「ここに書いてある“魔法検定一級”って……」
「ああ、それですか」
その資格は、私が高校二年生のときに、友人に面白半分で無理やり受けさせられた資格だった。
胡散臭そうな検定名に眉を寄せながら試験会場に行って受けた試験内容は、自力で夢から起きるというよくわからないものだった。
今から魔法を~とか言っている試験官に、この人頭大丈夫か?なんて思いながら、試験に挑んだ。
五円玉を揺らすという古典的な方法で簡単に眠りについた私が見たのは、すごいしっかり者になった家族の姿だった。
鳥肌ものだった。
流石一級だと、意味が分からないことも思ったりした。
「ほーちゃん。おかえり。今日は遅いのねぇ。お夕飯、もう出来てるから早く着替えてらっしゃい」
「ほた、おかえり。……そういやこの前、この映画見に行きたいって言ってたよな。ちょうどチケットが手に入ったから、誰かと一緒に行きなさい」
「おかえり。ほたる。あ、そういや、この前なくしたって言ってたペン、見つかったぞ。机の上に置いといたからな」
思わず自分のほっぺたを引っ張るが、それでも目覚めなかったから、家族のほっぺたを往復ビンタしてまわった。
それでも起きなかったから、自分の部屋に行って寝たら目が覚めた。
本当に現実なのか不安になったから、私に魔法というか、古典的な催眠術をかけた人のほっぺたを往復ビンタしたら、涙目になりながら合格を言い渡された。
私と一緒に受けた友人は、私が終わった大分後に、別の部屋から涙目になりながら出てきた。
どうやら、王子のようにかっこいい人に救われたと思ったら、その人が実は友人の大嫌いな蜘蛛が大好きで、その人の家に御呼ばれしたと思ったら、蜘蛛になつかれて集られたらしい。
たぶんこの試験は、試験を受ける人の望みと、その人の一番怖いものを見させ、夢の中で寝られないようにする試験だったのだろう。
誰だって、幸せな夢は目覚めたくないし、怖い夢だと怖くて夢の中で再度眠るなんてことはできないだろうから。
……ちなみに。
「ほーちゃんおかえり~。帰ってきたばっかで悪いんだけど、キッチン爆発しちゃった~」
「ほたちゃんほたちゃん、今度美術館行こ!!うん、決まり!今度の休日ね」
「ほたるぅぅ~……俺の描いた絵知らない~?今度応募する絵なんだけど……あっ!そういや、今朝邪魔だったから自分で捨てたんだった!ごめんね~」
家に帰ったらいつもの家族だった。
……ちょっとほっとしたのは、内緒。
そんな感じのことを、いらないところは削って話すと、彼女はゴソゴソと、近くの箱から一枚の紙を取り出した。
そしてそれを、私に差し出した。
「ここの企業、私の知り合いがやってるんです。今まで魔法検定の資格をもっている人がいなかったから勧めなかったんですけど……持っているなら話は別です。ここなら、汚職もないしブラックでもないですし、1200万も3ヶ月で集められます!」
私はその紙を覗き込んで……職業欄のところで、固まった。
「再就職先、魔王様の側近なんていかがでしょうか」
そこには、“魔王の側近”という職業が、書かれていた。




