第1章:2.2 慌乱の蔓延:地下室から地上へ引き裂かれて
「列に並ぶのはやめなさい」
「レジ機能は完全に死んでいるわ」
伊凝雪の眼鏡の奥の双眸は、氷のように冷徹だった。
彼女は周囲でエスカレートしていく小競り合いと将棋倒しのリスクを一瞥し、少しのためらいも見せずにコートのポケットから長財布を取り出した。
細くブレのない指先が素早くファスナーを開け、新札の千元札を三枚引き抜く。
「恆遠、カートを前に押し出して! 一番端の無人の十番身障者用通路を狙うのよ!」
伊凝雪の凛とした声が飛んだ。
闕恆遠は一瞬たりとも躊躇しなかった。足裏で床を強く蹴りつけると、作業着のジャケットが風を孕んで翻り、巨大な金属製カートが圧倒的な勢いで通路を塞いでいた無人の空カートを撥ね飛ばした。
重量級の二台のカートが唸りを上げ、まるで鋭利な刃物のように十番通路のプラスチック製フラップを突き破っていく。
カートがレジ台をすり抜けるその刹那、伊凝雪は腕をしならせ、バチンと小気味よい音を立てて、三枚の青い千元札を十番レジの無人のステンレステーブルへと叩きつけた。そしてすぐ脇にあった重厚なテープカッターをその上へ力任せに押し当てる!
「十番レジ!」
「三千元置いていくわ! お釣りはいらない!」
伊凝雪は振り返ることもなく鋭く言い放ち、その足取りを一秒たりとも緩めなかった。
テープカッターに押さえつけられた三枚の千元札を残し、満載のカートを押した五人は、揉み合う群衆の外縁を鮮やかに切り裂くように駆け抜け、階下へと続くエスカレーターを目指して突っ走った。
「カート用の下りエスカレーターへ行くぞ!」
闕恆遠の瞳は炎のように鋭く研ぎ澄まされ、前方の一階正面口へ盲目的に殺到する人の群れを完全に切り捨てた。
一階の正面口の先には、骨身を刺す寒風が吹き荒ぶ台湾大通りが横たわっている。今やその方角からは、絶え間なく鳴り響く車の盗難防止アラームと、鼓膜を引き裂くような急ブレーキの音が途切れ途切れに届き始めていた。
何も考えずに一階から外へ飛び出せば、雨風の吹き荒れる無防備で混沌とした路上に身を晒すだけであり、移動手段の車にすら辿り着けない。
五人は重たい二台のカートを押し、迷うことなく地下一階へと続くスロープ式エスカレーターの乗り口へと滑り込んだ。
ガタッ――!
ショッピングカートのゴム製滑り止めタイヤが、傾斜エスカレーターの金属の溝へと的確に噛み合わさった。
機械のベルトコンベアが重々しい駆動音を響かせ、満載の物資を積んだ二台のカートと五人の若者を乗せて、地下一階の薄暗く冷え切った空間へとゆっくりと滑り降りていく。
背後の一階フロアでは、激しい電磁ノイズとともに館内放送のスピーカーが完全に沈黙した。正月祝いの音楽が途絶え、その代わりに、いっそう生々しく耳障りな人々の泣き叫ぶ声と、力任せに引き下ろされるシャッターの重苦しい金属の擦れ合う音が響き渡っていた。
「こわいよ……」
悦清禾はカートの金属バーを両手で強く握りしめ、荒い息を吐きながら、マスク越しに小刻みに声を震わせた。
「さっきの薬局の……」
「あの薬剤師さん……」
「本当にニュースで言ってたのと同じ……」
「清禾」
「私の目を見て」
「ゆっくり深呼吸して」
千慕羽は優しく、けれど芯のある確かな仕草で手を伸ばし、悦清禾の冷え切った手の甲をそっと包み込んだ。
「私たちはみんなここにいるよ」
「恆遠兄が前にいて」
「凝雪もすぐ隣にいる」
「今は自分の足元だけに集中して」
「このままエスカレーターで降りていこう」
「後ろを振り返っちゃだめ」
千慕羽の穏やかで透き通った声には、不思議と人を落ち着かせる力があった。それはまるで温かな泉のように、悦清禾の不安と混乱で張り裂けそうな胸へと染み渡っていく。
悦清禾は力強く頷き、奥歯を噛み締めると、小刻みに震えていたその肩が次第に落ち着きを取り戻していった。
エスカレーターは一定の速度で下降を続けていく。
しかし、フロアが低くなるにつれて、地下一階の駐車場から吹き上がってくる空気の異臭に、闕恆遠はさらに険しく眉を寄せた。
それは極限まで充満した車の排気ガスと、エポキシ樹脂の床の上でタイヤが激しく空転して擦れ合って生じる、焦げ付いたゴムの悪臭が入り混じったものだった。
ヴオオオオオン――! ガガガガッ――!
大排気量のSUVのエンジンが吼える轟音が、閉ざされた地下のコンクリート空間に狂ったように反響し、地下一階全体をビリビリと震わせていた。
カートのタイヤがエスカレーター終端の金属プレートを抜け、ガタンと音を立てて地下一階のフロアに降り立ったその瞬間、目の前に広がった光景は闕恆遠の危惧していた通りだった。
地下駐車場は、すでに蜂の巣をつついたような大パニックに陥っていた。
一階にいた途方に暮れる人々とは違い、地下一階に車を停めていたドライバーたちは、スマホの情報か、先ほど駆け降りてきた人々の波から外の異変をいち早く察知したようだった。
鉄の塊の中に閉じこもった人々は、生き残ろうとする本能に突き動かされ、普段の理性も礼儀も完全に投げ捨てていた。
狭い対面通行の車路では、少なくとも五、六台のセダンやSUVが十字路で鼻先を突き合わせるようにしてガチガチに噛み合っていた。
一台の黒い輸入セダンが我先にバックで出庫しようと無理にハンドルを切り、そのリアバンパーが隣に停まっていたシルバーのSUVの右リアフェンダーを激しく削り取った。耳を劈く金属の擦れる悲鳴と、甲高い盗難防止アラームの警告音が、密閉された地下室の中で反響し合っている。
「てめぇ、目ぇついてんのかコラ!」
「バックしろよ!」
「前が詰まってんのにバックできるわけねぇだろ!」
「やれるもんなら突っ込んでみろや!」
窓が乱暴に引き下げられ、三十代ほどの男性ドライバー二人が身を乗り出して口汚く罵り合っていた。片方の男は運転席の下からハンドルロックの頑丈な鉄棒を引き抜き、相手のボンネットに力任せに叩きつけた。ドゴッと鈍い衝撃音が響き渡る。
「あいつらには構うな」
「自分たちの車へ急ぐぞ」
「急げ!」
闕恆遠は低く鋭く促した。カートを押し進める足を少しも緩めることなく、両手で正確にコントロールしながら、駐車枠の間に挟まれた狭い歩行者用通路を一気に駆け抜けていく。
数秒後、壁際の非常口のすぐそばに静かに佇む、あの見慣れた黒い旧型SUVが全員の視界に飛び込んできた。
「キー!」
伊凝雪が鋭く叫んだ。
闕恆遠はすでに使い古されたプラスチック製のリモコンが付いた車の鍵を伊凝雪の手のひらに押し込んでおり、自身はそのままリアへと回り込んでいた。両手でバックドアのハンドルを掴み、腕の青筋を浮き上がらせながら、分厚く重たいリアゲートを一気に跳ね上げる!
バチン!
バックドアが跳ね上がった瞬間、車内に漂うかすかな柑橘系の香りと、古い車特有のレザーの匂いが正面から押し寄せてきた。
だが今この瞬間、もともと五人分の冬物コートや季節の布団、分厚い教科書で埋め尽くされていたトランクには、ほとんど隙間など残されていなかった。
「教科書とどうでもいい布団は両脇に押し込め! スペースをこじ開けるんだ!」
闕恆遠の声は鉄のように低く落ち着いており、その手元は一秒たりとも止まらない。
彼は腰を屈めると、カートの中で最も重い十二リットル入りの大ボトルミネラルウォーターのダンボールを両手で抱え上げ、腰と腹に力を込めてトランクの一番奥のフロアボードへと迷いなく滑り込ませた。
ドンッ!
「水餃子と生鮮品は潰しちゃダメよ」
「布団の間に挟んで保冷するの!」
伊凝雪が的確に指示を飛ばし、悦清禾が両手で差し出してきた二つの大きな冷凍手包み水餃子の袋と生卵のパックを受け取ると、布団の隙間に慎重に挟み込んだ。
千慕羽と玥映嵐は力を合わせ、二つの大きな箱入りティッシュペーパー、特大サイズの詰め替え用洗濯洗剤、そして麦香アルミパック飲料のケースを一気に押し上げた。
「映嵐」
「お前のツールバッグと延長コードは後部座席の足元に直接突っ込め!」
闕恆遠は後部座席のスライドドアを力任せに引き開け、玥映嵐の透明耐衝撃ケースと二巻きの電線コードを前席シート下の隙間へと確実に押し込んだ。




