第1章:1.2 序幕:大肚山下の湿り冷える雨季
そして後部座席の中央では、悦清禾がまるで柔らかな赤い雲のように小さく丸まっていた。
肩の落ちたゆったりとした真っ赤なローゲージニットを着込んでおり、その丈はちょうど膝を覆うほどで、下には防寒用の厚手の黒タイツを合わせている。
ふわりと波打つ栗色のロングヘアが肩口に豊かにこぼれ、抜けるように白く小づくりな顔立ちは、冷気のために淡い桜色へと染まっていた。
わずかに温もりの残る使い捨てカイロを両の小さな手でぎゅっと包み込み、顎をハイネックの中に深く埋めながら、その瞳には長いドライブの疲れと甘やかな気だるさを滲ませている。
「さむいよぉ……」
「どうして台中の二月って、台北の士林より湿っぽくて冷え込むの」
「二日前の大晦日にお母さんと台南のおばあちゃんの家に行ったときはさ」
「向こうはお昼なんてかき氷が食べられそうなくらい暑かったのに」
悦清禾は小さな鼻をすすり、まつ毛にかかる前髪を指先で軽く払った。
彼女は顔を傾け、左側の窓際でずっと外の煙る雨空を見つめ続けている千慕羽へと目を向けた。
「慕羽」
「カイロ、ひとつ使う?」
「さっき台北で車に乗った時から」
「ずっと顔色も冴えないし」
「手もすごく冷たそうだったから」
後部座席の左側の窓際に身を置く千慕羽は、小さく首を横に振った。
深みのある黒いウールのベレー帽がその形の良い額を覆い、少し長めの黒髪が飾り気のない頬の両脇を柔らかに撫でている。
深いモスグリーンのダブルブレストのロングウールコートに身を包み、首元にはライトグレーの上質なウールマフラーが巻かれていた。
社会福祉学科に身を置く彼女は、普段から人の表情を読み取り、心の声に耳を傾けることに長けていたが、今日この車で南下する道のりでは、その眉間にかすかな陰りがずっと張り付いていた。
太ももの上に置かれたレザーのバックパックの上で、白く細長い指先が重ね合わされており、その爪は極めて清潔に整えられている。
「私は大丈夫」
「清禾」
千慕羽の声は細く柔らかで、緊張のこわばった車内を撫でる一筋の温かな微風のようだった。
「ただ寒がってるわけじゃなくて」
「その……」
「みんな、ここまで来る途中で気づかなかった?」
「台中インターを降りて台湾大通りに入ってから」
「反対車線を走り去っていく救急車の数が、いくらなんでも多すぎないかなって」
彼女がその言葉を口にした瞬間、それまでエンジンの唸りとワイパーの摩擦音に満たされていた車内が、ふいに数秒の間静まり返った。
闕恆遠のステアリングを握る両手に、わずかに力が込められる。
確かに、先ほど朝馬バスターミナルを通り過ぎ、沙鹿方面へと上り坂を走り始めたこのほんの数分の間だけでも、対向車線にはまばゆい赤と青のストロボ灯を点滅させた救急車が丸々三台、鋭く耳をつんざくサイレンを響かせながら、BRT専用レーンを逆走するように市内の大病院を目指して猛スピードで駆け抜けていっていた。
そして彼らの前方少し先でも、中港澄清病院所属の白い救急車がハザードランプを点滅させながら緩行車線の車の列を強引に縫うように割り込み、けたたましいサイレンとともに青いBRT専用レーンへと直接滑り込んで、アクセル全開で坂の下り方向へと轟音を上げて走り去っていった。
「きっと、今日がちょうど春節連休の最終日と重なっているからよ」
伊凝雪は人差し指で鼻梁の眼鏡のフレームを軽く押し上げた。法律家特有の緻密な論理を帯びた理性的な声で、車内に静かに漂い始めた奇妙な空気を和らげようとする。
「台湾の医療現場は、旧正月の四日や五日になるといつも受診のピークを迎えるものなの」
「お年寄りの多くは、大晦日から三が日にかけて体調を崩しても」
「お正月に医者にかかったり薬を飲んだりするのは縁起が悪いっていう迷信のせいで我慢し続けてしまうでしょう?」
「それで五日の仕事始めになって」
「一般の診療所がまだ完全には再開していないと」
「各大学病院や総合病院の救急外来に患者が一気に押し寄せるのは当然のことよ」
「それに、官公庁も企業も明日から一斉に始業するわけだから」
「病院へ慢性疾患の処方箋を受け取りに急ぐ人だって絶対に少なくないはずだわ」
「法学部で去年、医療資源の適正配置について議論した時も」
「この手の統計データは毎年のお正月ごとに繰り返し現れていたもの」
「凝雪の言う通り、ただそれだけのことならいいんだけどな」
闕恆遠は低く落ち着いた声で相槌を打ったが、その視線は依然として前方の減速していく車列を鋭く見据えていた。
彼は右のウィンカーを点滅させ、台湾大通り四段の脇にある緩やかなアプローチへとSUVを滑り込ませ、道沿いにある台糖量販店の外周道路へとハンドルを切った。
「今日はまだ運が良かったほうだな」
「途中少し混みはしたけど」
「それでも十一時前にはここの台糖に着けたんだから」
闕恆遠は前方に広がる巨大な建物を見据え、バックミラー越しに四人の少女たちへ向けて微かに笑みを投げかけた。
「昨日台北で話した通りにな」
「どうせ芸術北街の一軒家は、正月の前に帰ったとき冷蔵庫の中身も空っぽにしてあるし」
「今日は車があるうちにさ」
「トイレットペーパーとか洗濯用洗剤みたいな、バイクじゃ運べない大物の日用品を一気に買い込んで山の上に運んでおこう」
「ついでに食い物もパパッと買っておけば」
「このあと部屋に戻って掃除してヘトヘトになっても」
「夜に誰も雨の中を晩飯買いに出かけなくて済むだろ?」
「それは絶対に買い込まなきゃだめ!」
伊凝雪は頷き、コートのポケットから几帳面に二つ折りにされたメモ用紙を取り出すと、黒いペンでその上をトントンと二度叩いた。
「リストはもう全部作ってあるわ」
「今学期の共有費は、まず私の手元から立て替えておくから」
「恆遠の言ったトイレットペーパーと洗濯用洗剤のほかに」
「私たち女子が普段使う日用品と大きなゴミ袋もリストに入れておいたの」
「それと、貯水タンクは一ヶ月も水を通していないから」
「まずは飲み水用に大ボトルのミネラルウォーターを二ケースほど確保しておきましょう」
「食べ物は冷凍水餃子にインスタントラーメン、それに卵を二パック買っておけば」
「一番手軽だし無駄がないわね」
「映嵐の欲しい延長コードは二階にあるし」
「清禾が救急箱に補充したい綿棒とイソジンはドラッグストアのエリアね」
「あとで手分けして集めたほうが早いわ」




