幕間 ピョートル大帝とは何者だったのか?
アレクサンドルです。
ここまで読んでくださった皆さんなら、この名前はもう何度か目にしていると思います。
ピョートル大帝。
正式にはピョートル一世。
我らがエリザヴェータ・ペトロヴナ陛下のお父上です。
では、この人はいったい何をした人なのか。
ものすごく乱暴に一言で言ってしまえば、
ロシアを、ものすごい勢いで西ヨーロッパ風に作り替えようとした人です。
本当に乱暴な説明ですけど。
でも、だいたい合っています。
◆
ピョートルが生まれたのは1672年。
当時のロシアは、今の俺たちが暮らしているロシアとは、ずいぶん雰囲気が違いました。
ところがピョートルは、
船。
外国の技術。
軍隊。
工場。
西ヨーロッパの制度。
そういうものに猛烈な興味を持った。
そして、自分で外国へ行きました。
いわゆる大使節団です。
オランダなどを訪れ、造船技術まで熱心に学んだ。
皇帝になる人間が、
「船ってどうやって造るんだ?」
と現場に入り込む。
この時点で、だいぶ変わった人です。
◆
帰国すると、改革を始めます。
有名なのが、
髭。
古いロシア風の服装。
西欧風の衣服。
髭を残したい人には税までかけた。
昨日まで普通だった格好をしていたら、皇帝に、
「今日から変えろ」
と言われる。
相当大変です。
◆
そして、この物語にとって何より重要なのが、
サンクトペテルブルク。
俺たちが今いる街です。
1703年。
スウェーデンとの戦争のさなか、ネヴァ川河口付近に新しい拠点を築いた。
それが後のサンクトペテルブルク。
西欧化された新しいロシアを、街そのものとして造ろうとした。
つまり、この物語の舞台そのものが、ピョートル大帝の巨大プロジェクトなんです。
◆
スウェーデンとの大北方戦争。
1700年、ナルヴァで大敗。
それでも軍を立て直し、
1709年、ポルタヴァで大勝。
ロシアは、ヨーロッパの大国として無視できない存在になっていきました。
海軍。
軍隊。
行政。
産業。
教育。
技術。
都市。
国全体を、強引なくらいの勢いで作り替えた。
◆
1722年には、
官等表――Table of Ranks。
軍人。
官僚。
宮廷人。
役職を階級として整理し、家柄だけでなく、国家への勤務や役職を重視する仕組みを作った。
俺たち宮廷人の世界にも、ピョートル大帝は深く食い込んでいます。
◆
ここまで聞くと、
「偉大な改革者だったんですね」
と思うでしょう。
まあ、
大帝
と呼ばれるくらいですから。
でも、話はそんなに単純でもありません。
改革は、ものすごく強引でした。
髭も。
服装も。
制度も。
都市建設も。
「嫌ならやらなくていい」
ではありません。
サンクトペテルブルク建設も過酷だった。
戦争も長かった。
国家を強くするための負担を背負った人も大勢います。
偉大な改革者。
強権的な君主。
たぶん、両方なんでしょう。
◆
さて。
『カーテシー・クラブ』の話へ戻ります。
今の俺たちは、
サンクトペテルブルクという新しい都で、
西欧風の宮廷服を着て、
西欧風の舞踏を踊り、
西欧式の礼法を学んでいます。
かなりの部分が、ピョートル大帝の時代につながっている。
だから、俺たちがこんな格好をしている遠因を探せば、確かにこの人のところまで行き着きます。
ただ――。
アレクサンドル「ピョートル大帝のせいで、俺たちがドレスを着せられている!」
とまで言うのは、さすがに責任を押しつけすぎでしょう。
そこから先は、娘のエリザヴェータ陛下のお話です。
親子二代で、ロシア宮廷をずいぶん面白いところにしてくださったものです。
……あ。
今の最後の一言は、陛下には内緒でお願いします。




