序章 十年前から今までの道のり
私は今、家の中で危機に瀕していた。
しかしそれは初めて起こった訳でもなく、軽微な家庭内の虐待は日常の物として起こっていて、自身の体には様々な部位に打撃痕や切り傷の痕などがある。
両親はバレるのを恐れ、腹部や胸部、大腿部など服から隠れるような箇所を目掛けて暴力を振るわれていた。
大腿部に関しては母に物で叩かれたりして
「あんたが父さんを誘惑してるから悪いんだよ!」
母からはとんでもない言い掛かりをつけては物で叩かれる。体育の時は「娘がやんちゃで良く傷を作るんですよ」と事ある毎に言い訳をし、何か言おう物なら「あんたを夜中に殺して海に捨ててもいいんだよ!」と日常的に脅迫されている毎日を送っている。
父に対しては腹部や胸部など、乱暴をする目的で色々な傷を付けられていたが、始まりは中学一年の春だった。母からの虐待は小学校低学年からだったけど、どうやらその時点で私の事を乱暴する対象として見ていたらしい。
そこで注意しないで私が悪いとひたすら何かある毎に叩きつけられていた為、母も全く期待できず、それどころか共犯者にしか見えない。
時間は就寝前となり、私を父の自室へと追い込み、実父から性犯罪の餌食にされようとしていた。
父はただ、不気味な笑顔を見せるだけで無言で襲い掛かろうとしている。周囲は電気が点いてなく、用意周到に犯行を実行する為、準備していたようだ。
助けも借りられない状況にしてから、私を襲う計画を立てていたらしい。母はと言うと、助けを求めたところで私が悪いと言う未来が目に見えてる為、どうやっても期待できない。
父は身構えて、少しの間、体を静止する。
そして、次の瞬間。私は薄汚れた父の欲望の餌食になる事を想像し、恐怖のあまり身動きが取れなくなっていると
バンッ!と部屋のドアが乱暴に開けられ、警察官と思しき服装をした男性二人が現れ、うち一人が父に向かって警棒で殴打し、私の身の危険を回避した。
父は肩を殴打されて痛みで苦しんでいる様子をよそに
「九塚剛馬。午後十時四十六分、不同意性交等罪で現行犯逮捕」
あっという間に地面に組み伏されて後ろに回されてた両手に手錠をかけられた。
「九塚希有海はどうなってる?」
「先ほど連絡があり、犯行がバレないように偽装工作をする素振りを見せた為、複数の犯行映像を見せて黙らせたようです」
「ご苦労」
既に母についても、虐待の疑いで逮捕されたとの連絡を目の前で行っていた。私は両親の逮捕を聞いて、その場にへたり込む。
「大丈夫ですか、静菜さん」
連絡を受けていた警官が私を抱きとめてから保護をする。
この後私は最寄の警察署に保護され、一時間後に叔母が引き取り人として私の元にやってきた。
そこで警官達とのやり取りで聞いた話では、母に対する虐待の証拠映像で前もっての通報、父については何度も性的虐待をしていた事に対しての処理も、事前の打ち合わせなどを通して準備をしていたらしい。
叔母自身は当初、自分がと言う事で父を取り押さえるつもりでいたみたいだけど、さすがに警官達に止められたらしい。
普通に考えれば、公的機関の名の元に正式な手続きをとった方が効率的だけれど、両親の虐待に関しては叔母とその子供になる美結は怒髪天を衝く。と言うほどに高い殺意を抱いていたと警官から聞いた。
これだけなら、警察もそこまで親身に動く事はなかったのだけど、これが私の為だけに叔母の親友である総理大臣の命令もあったと言う話なら別の問題に発展する。もし、適当な軽微な罪で野に放つなんて事をすれば『警察庁なんて不要だから失くしてしまいましょう』と言う法案を出して、可決されれば警察は失態どころか加害者の圧倒的な味方として、国民の敵として認定される事になる。
そうなればもう、自分達の今後の居場所すら確保できなくなる為、さすがに総理大臣の命令には従おうと言う事になる。
(本当に私を助けてくれる人達が頼りになる人で良かった)
考えられないほどの好条件が揃っていた為、私は本当に幸運だった。だけど、両親から虐待されて恐怖で身動きができなくなると言う後遺症は残ってしまった。
でも、今後の人生もずっと地獄の日々が続く事を考えたら、父からの虐待が四年間で済んだのは良かったと言わざるを得ない。普通なら、被害を訴えたとしても弱い人間が悪いと排他的に処理されて被害者は絶望し、自殺を考えたりする人も多いからだ。
それから数日後に先ほど挙げた総理大臣はすぐ、家庭内の児童虐待についての法案を提出し、性的虐待をされている子供達が不利益を被る事の無いようにできる限りの感情に訴える発言をした。
案の定、反対勢力の議員達がそれっぽい理由を言って、法案を通さないように妨害した。しかし、総理大臣は待ってましたとばかりにテレビ放送されているであろう公共の電波を利用し、反対発言をした議員の関わった複数件の同意と言えない半ば強姦したような映像を流して世論を動かした。
それを見せられた議員は当然「ディープフェイクだ! このクソ総理大臣が捏造したんだろうが! これだから女はずる賢くてしょうがない」など、これ以降も長々と色々言い訳を続けていたが、この放送を見ていた知らない一般人がテロ宣言を配信サイト内で出した。僅か数秒後、国会に殴り込んで該当議員を締め上げて気絶させた。
そこで警備員に取り押さえられたが、襲ってきた一般人はテロ宣言した人達とは別人で、どうやら過去に該当議員からの性的虐待を繰り返し受けていた女性秘書だったらしく、彼女は数ヶ月後に訴訟されたけど、結局は執行猶予付きの判決が出て、刑務所に送られる事は無かったらしい。
後の彼女の扱いについては同様の被害を受けていた様々な人達がNPO法人を立ち上げ、同団体に所属し、加害者に好き勝手させないように総理大臣に色々と訴えを起こした。
総理大臣は数々の訴えに真摯に対応した甲斐もあって、約三年後にかなりの法律が改善された。これについては私も本当に良かったと思う。でなければ、両親が反省したふりをして逆恨みで襲ってくる事態も普通に考えられたからだ。
逮捕された私の両親はと言うと、表向きでは数年の懲役刑にはなっているけれど、実際は常に叔母とその親友が常に目を光らせ、一切悪事が行えないように人の行き来がほとんど無い土地に移し、粗末な刑務所も真っ青の粗悪な施設に幽閉していると言う事を叔母から聞いた。
どうやら、お互いに長年の日本の癌の中枢として取り扱い、色々と対策を練っていたらしく、数人の男性大臣も家庭内虐待の件については色々と情報を共有していたらしい。なので、情報を共有していた大臣も私の味方と判断してもいいだろう。なぜなら、事情を知っていてこの時まで、一切他言しなかったのだから。
他にも色々と裏事情があるようだけど、私が聞いているのは以上の内容までとなり、一般人の私には政治がどんな物かも知らない為、細かい点までは把握してるはずがない。
あの事件から現在となる十年後までの話をまとめると、私は従姉の美結と同じ高校を卒業し、私は地元の企業で働いて早くも八年目の始めの月となった。
相変わらず叔母の家に住まわせてもらっていたが、これは虐待を続けていた両親がいつ逆恨みで襲ってくるかもしれないと言う状況にさせない為。それでも、二年前に飼った白いオスのマンチカンと一緒に部屋で過ごす事となる。
美結は高校を卒業すると大学に進学し、理系の学科を専攻した。卒業後は大学院生となり、引き続き理系に関する研究を行っていた。
大学卒業から一年で修士となり、先月の大学院四年修了で博士となり、今月から政府のお膝元の一つである環境省で働いている。
試験自体は正規のルートで合格し、通常の道を辿っている事になっているけど、実は十年前に助けた時にやっていた女性総理が今も総理として任に就き続け、既に三期目に入っている。両親の処分についても細かく指示を出して私に危害が加わらないようにしていたようである。
そして、叔母の子供である美結の省庁への就職は、総理自身が是が非でも手元に置いておきたいと思うのは自然な事だと思う。要するにコネ就職と言う事になり、通常なら批判もされるのだが成績も優秀だった為、通常のルートで就職させる手筈になった。
勿論、環境省の関係者から邪魔が入ったりもしたが、むしろ邪魔した者が不正なルートで成績の劣った者を就職させ、国に損害を与えようとしたと言う理由で、推薦された者と共に職を失う羽目となった。
ただ、私には直接関係の無い話で、普段一緒に行動してる美結の姿と言えば、叔母や夫となる義叔父のプロレスの試合を一緒に応援すると言う事くらいだ。観戦後に色々な店に行ったり、買い物したりするのだけど、それは観戦のついでと言う事になる。
とにかく今、私は平和な毎日を送っている。飼い猫と共に……そして、ある日の夜。
ここが本編前のエピソードとなります。
今回はコンテストを実施している主催様向けに傾向を考えた結果、このような仰々しいエピソードとなりました。この設定は終盤に生きる事になるので、外せなかったりします。
そして今回、主人公の無事を確保しながら、物語を進めるにはこのラインが最低条件でした。




