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世界最強の元騎士と  作者: ユタニ


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74.再会(3)


シャイナは拉致された。


それは昼前の大通りでシャイナはエスカリオットと共にいつもの買い出しに来ていた。

人通りは多く不穏な様子はなかった。油断していたかと聞かれればしていたかもしれないが、それにしても真っ昼間の衆目の中で何かあるとまでは考えていなかったのだ。


八百屋の店頭に苺が出ていてシャイナがそちらに向かった時、エスカリオットとの距離が少し空く。

あっという間に雑踏から複数の男達が出てきてエスカリオットを取り囲み、シャイナの横には一人の魔法使いが現れていた。

 

「移動の扉よ、開け」

魔法使いに腕を引かれたのと呪文の詠唱は同時だった。何をする暇もない、シャイナの足元が光る。



移動して、そこがどこかを確認する間もなくシャイナの腕に魔力を封じる腕輪が嵌められた。

「魔力の輪よ、拘束せよ」

移動の魔法陣を作動させた声がそう唱え、魔力封じの腕輪とは別の何かがシャイナの両腕と両足に絡みついた。


「うわっ」

両足の自由を失いシャイナは後方に倒れ込んだ。

「おっと」

尻もちの衝撃に備えたのだが、後ろから別の男の声がしてシャイナを抱きとめると椅子に座らされた。

シャイナの両手は光る魔力の輪でまとめられて膝の上だ。


シャイナはすぐに周りに目を走らせる。

そこは薄暗い小屋のような場所で五人の男が居た。正面には魔法使いのローブを着た男。全員隙がない。先ほどの移動の魔法陣の手際から察するに魔法使いは少なくともBランク以上だ。

 

状況を把握してからシャイナは自分の魔力の状態を確認する。

腕に嵌められた腕輪はシャイナの造った腕輪だった。


(問題ない、魔法は使える)

魔力を練ろうとすると確かな手応えがあった。

さて、どうしてくれようと魔法使いの男を睨むと男はニヤリと笑った。


「君がシャイナだね。時間がないから一方的に喋らせてもらう。直にエスカリオットも来るからね。まずここは王都の外れの森の中にある小屋で周囲には何もない。助けを求めて叫ぶのは無駄だ」

魔法使いの男はそこでシャイナの腕を指し示す。


「それ、もう何か分かるだろう? 魔力封じの腕輪だ。君がAランクの魔法使いという事は知っているがそれを嵌めていては何も出来ない。そして手足の拘束の輪は俺の魔力で練られていて対象者の変化に応じて伸び縮みする。君がウェアウルフという事も知っているよ。狼になった所で拘束はとけない。だから無駄な抵抗はやめたまえ、いいね?」


やけにペラペラと何でも教えてくれる奴だなとシャイナは思う。最初に全部教えて大人しくさせるのが目的なのだろうか。


「自己紹介もしておこうか。俺の事はケーと呼んでくれればいい。雇われの身でね。雇い主はハン国の王都でテロを起こしたいんだ。そして君の奴隷のエスカリオットに実行犯になってもらいたい」

「…………」

シャイナはとりあえず沈黙した。


「実行犯になればハン国は君達を追うだろう。そうすれば俺達が君達を匿おう。そして協力してハン国から独立して新たな国を作るんだ。旧タイダルの有力な貴族が幾つか絡んでいてね。国名は明かせないが他国も介入している。テロの混乱と君達二人がいれば実現は可能だ。もちろん新たな国での地位は保証される。悪くない提案だろう?仲良くやっていこうじゃないか」

どうやらシャイナはきっちりと、ルキウスの言っていたテロの一派に捕まっているらしい。

白昼堂々と仕掛けてきたという事は、テロの計画はもう実行段階なのだろう。


しかし、シャイナはそんなものに加担する気はない。平和な国で自分の店を持ち、それなりに悠々自適に暮らすのがシャイナの人生の目標である。

そしてその側に美しい黒豹は必須だ。


「……エスカリオットさんはテロなんて起こしませんよ」

「ところが起こすんだよ。日時も三日後と決まっていてね。王都内のいくつかの場所で爆発物を起爆させよう。君がいれば可能だ、さてこれで制約の説明は終わったかな」

ケーは言葉を切ると、ローブのポケットから古びた首輪のようなものを取り出した。

古い魔道具のようだ。


(嫌な気配がする)

魔道具の纏う気配にシャイナは眉を寄せた。

本能があれは致命的なものだと告げている。


「最後にこれの説明をしよう」

ケーが再び口を開く。


シャイナは迷わなかった。


おそらくシャイナへの丁寧な説明は全てこの魔道具の起動条件だ。対象者に全て理解させる事が制約となっているのだろう。効果が強い魔道具にはそういった制約が付いている事が多い。特に致命的なものや精神的なものには必ずといっていいほど付いている。制約を課す事によって効力を強めるのだ。


この上に魔道具の説明を聞いたら終わりだと思った。

おそらくあれを嵌められればシャイナは意思を失うか、とても薄弱になる。そうなればエスカリオットはケーの言う事を聞くかもしれない。場合によってはシャイナ自身が奴隷の首輪を使ってエスカリオットに命ずるだろう。

それは絶対に避けたい。


幸いここは王都から外れているらしい。

僥倖だった。街中であればこの手は取れなかった。

 

三日後のテロの詳細を知りたいのでケーや周囲の男達は生きて捕らえたかったが、気遣う余裕はなさそうだ。

シャイナは気休め程度だか無詠唱の防御魔法を小屋にかける。それなりの手練れ達のようだし後は頑張って生き抜いてほしい。 

 

無詠唱の防御魔法の発動と共にシャイナは命じた。

「来い、エクスカリバー」


キンッと音がして拘束されたシャイナの右手に白く輝く聖剣が現れる。天上天下唯我独尊の剣だ。


「なっ」

ケーと男達が驚いているが構わず進める。こちらには説明してやる義理も理由もない。


「天使の光弓!」

唱えた途端にシャイナの周囲にシャイナだけを避けて光の矢が降り注いだ。

 

眩しさで何も見えなくなり屋根が崩壊する音がして「ぐあっ」「ぎゅうっ」という悲鳴か断末魔か分からない声が響く。

シャイナは降り注ぐ屋根から身を護る為に自身には障壁を張った。

神々しいとすら思える光の中、濃い血の匂いが鼻をつく。

目が慣れるまでの間にシャイナは両腕と両足の拘束がなくなったのを感じた。どうやらケーは魔法を維持出来るような状態ではなくなったようだ。


むっとする血や臓物の気配。

シャイナは魔物相手のものならば嗅ぎ慣れているのだが、人間相手のこういうのは苦手である。

冒険者として請け負う任務は素材の回収や魔物討伐に限っていたので、人間相手の攻撃は野盗相手に一度したくらいしかない。


それでも自分のした事から目を逸らすべきではないと怖ごわと周囲を見回した。

 

「うえぇ」

屋根の残骸が辺りを覆っていて隙間から人の体の一部や血が見えた。

安全が確認出来れば生きている者には治癒をかけてあげよう。

 

シャイナはまず先ほどの魔道具の気配を追った。幸い、シャイナの近くの瓦礫の下からその気配がする。

シャイナはそろりと椅子から降りると腕を瓦礫の隙間に入れて生温かい血の中に落ちていた首輪のような魔道具を拾う。


「触るとさらに禍々しい……」

手に取ると見ていただけよりも更に嫌な感じがする。

ここから戻れれば出来るだけ早くに城へ届けよう。こんなものは個人で持っておくものではない。


「さて……」

どうしようかと佇んでいると、前方の床が光る。

光の中現れたのはボロボロになった見知らぬ男と、それを締め上げている殺気だったエスカリオットだった。

締め上げている男も魔法使いのようだ。移動の魔法陣で送られてきたのだろう。


「エスカリオットさん!」

「…………」

シャイナの声と眼前の光景にエスカリオットが目を見開く。それから油断なく周囲を確認するとエスカリオットは締め上げていた男の意識を落とした。


シャイナは瓦礫を回り込んでエスカリオットに近づいた。聖剣エクスカリバーはシャイナには少々重いのでズルズルと引きずる形になる。


「無事か?」

「はい、すぐに全力を出しましたので」

「……そのようだな」

エスカリオットは改めて周囲を見回し、シャイナから「貸せ」とエクスカリバーを取り上げた。シャイナを荷物のように抱えると小屋だった場所から退く。


「まさに触らぬ神に祟りなし、だな」

エスカリオットはそう呟くとぎゅっとシャイナを抱く腕に力を込める。

「ぐえ、人を厄病神みたいに言わないでください。でもこれどうしましょうか」

「俺への襲撃者達は殺してはいない。直に騎士が駆けつけるだろうからここを突き止めて来るだろう」

「死なないように少しだけ治癒をかけましょうか? 致命的な魔道具は回収したのでもう危険はないと思いますが」

「ほっとけばいいとは思うが」

「生きているなら生きていた方がいいですよ。テロの計画があるようでした。おそらく他にも仲間はいるでしょう」

シャイナはテロ犯達の傷を何となく治療してまわった。



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― 新着の感想 ―
シャイナ、相変わらずの無双っぷり。 世界最強の元騎士と世界最強の魔法使いのカップルなんて。敵からしたら悪夢でしかない(笑)
シャイナちゃんが強過ぎて、ぽかーんの後に爆笑でした。ケーさん、ドンマイです! しかし魔道具がちょっとまだ心配だな……。
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