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世界最強の元騎士と  作者: ユタニ


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21話 傭兵団からの誘い(3)


「これは……俺は激しく誤解していたようだ、申し訳ない」

マックスの遠慮がちな言葉に涙を引っ込めたシャイナがそちらを向くと、先ほどの苦い顔から一転して、頬を赤くして戸惑っているマックスがいた。


「あのー、マックスさん?」

「俺の早とちりで失礼な事を言ってしまったようだ」

そう言うと、マックスはシャイナとエスカリオットから視線を外す。

「あ……はい」

様子は変だが誤解は解けたようだ。

良かった。


「一方的な歪んだ愛なのかと思っていたのだが、対等な恋人だったんだな」


…………ん?

「恋人では、むぐぐ」

間違いを正そうとして、エスカリオットに口を塞がれて遮られた。


「ちょっと!エスカリオットさん?」

「そう思わせておいた方が話が早いだろう。俺はこのままがいい」

「いや、でも、恋人なんて」

そう小声でやり取りした後、通常の声量に戻して、エスカリオットが言った。


「恋人でも、護衛でも奴隷でも、肩書きは何でもいい。俺はシャイナの側にいれればいい」

その言葉にシャイナとマックスは2人で赤くなる。


「エスカリオットって、こんなに情熱的な一面があったんだな」

マックスは、エスカリオットの人間らしい面を見て満足気だ。


「あの……マックスさん、本当に恋人では」

違うと思う。そういう恋人だから側に居たい、じゃなくて、衣食住揃ってるから側に居たい、っていうヤツだと思う。


「しかし、それなら尚更なぜ奴隷から解放していないんだ?」


「奴隷から解放されれば、俺はハン国の国民となる。国民となれば、タイダルの騎士だった俺には何かと面倒が起きるかもしれない。シャイナの所有でいる限りは俺はシャイナの命令のみを聞き、これにのみ忠誠を誓えばいい」

エスカリオットから、解放を拒む事について、シャイナが初めて聞く理由がすらすらと語られた。


あれ?なんだその理由?

路頭に迷うから責任を取れ、じゃなかったかな。

シャイナはぽかんとするが、マックスは心得た表情になる。


「……なるほど、確かに死神エスカリオットが野放しとなれば、上の奴らは嫌がるだろうな、何かしらの楔を付けたがるだろう」

「ああ、どうせなら楔はシャイナがいい。そして、マックス」

エスカリオットはそこで、マックスを呼び捨てるとその目を見据えた。


「俺は必要に駈られて、13才から戦場に居た。戦場での強さは自分で望んだものではない、ただ神が俺に与えただけのものだ。死神という称号を誇らしいと思った事はない。俺はただ、戦場で生き抜いただけだ。そして、そこにはもう飽きた」


「……そうか」

マックスの表情が、諦めの表情に変わる。

どうやら、エスカリオットを傭兵団に入れるのを諦めてくれるみたいだ。


「まあ、俺としては、エスカリオットが生きながら死んでいるような生活をしていないなら、それでいい。本当に戦場でのエスカリオットは、強く美しかったから、あの輝きが損なわれるのが嫌だったんだ。

剣闘士奴隷として引き渡されて来た時も、辛くて、結局闘技場へは一度も足を運べなかった。首輪を付けられたエスカリオットなんて見たくなかったからな」

マックスの想いが熱いし重い。

もしかして、傭兵団にはこういう人がたくさん居るのだろうか。


エスカリオットはそんなマックスに特に感慨はないようだ。戸惑ってはおらず、平然としているのでよくある事なのかもしれない。


「マックス、そういう訳で、昼にするからもう帰ってくれ」

「分かった。肉まんなんか食うんだな」

マックスが微笑みながらカウンターに置かれた袋を見る。匂いで肉まんと分かるのだ。


「あ、ちょっと待ってください、マックスさん」

扉へと向かいかけたマックスをシャイナは呼び止めた。肉まんの袋に手をかけていたエスカリオットが不満そうだ。


「なんだ?」

「その、もし良ければですが、週一くらいでエスカリオットさんを傭兵団に貸し出しましょうか?」


「貸し出すとは?」


「現場に連れ出されるのはダメですが、日々の鍛練にならエスカリオットさんを貸しますよ。してますよね、鍛練。

傭兵団の方達はエスカリオットさんの強さに触れてより高みを目指し、エスカリオットさんも己を高める事が出来ます。そして私には貸し出し料を払ってください。三方向全て良しです」


マックスの目が輝く。

「エスカリオットと打ち合いが出来るのか!?」

「ええ、エスカリオットさんが良ければですが」


マックスが期待に満ちた目でエスカリオットを見る。


「……構わない」

エスカリオットはぼそりと同意した。

やった!とマックスは嬉しそうだ。そしてシャイナには分かる、エスカリオットも満更ではない事が。

麗しの黒豹は、戦場での殺しは好きじゃないけど、剣術は好きなのだ。前にシャイナの魔法とやり合った時は本当に楽しそうだった。


「そういう事なら、是非、貸し出してくれ!エスカリオットを解放するための予算は組ませていたから、それを流用して金も払えるはずだ、シャイナ殿、感謝する。君の愛を疑ってすまなかった」

「あ、いや、愛では……愛の一種ではありますが、そういう愛では」


「成金の小娘が、倒錯した愛に溺れてエスカリオットを買い、自らの満足の為だけにエスカリオットを使役しているのかと思っていたのだが」

うわ、けっこうひどい勘違いをされていたんだ、とシャイナは青くなる。

もしかしなくても、傭兵団の人全員にそのように思われているのだろうか……倒錯した愛に溺れる小娘、しかも成金。


「完全な間違いだった!」

マックスが爽やかな笑顔を向けてくる。

「ふふふ、誤解が解けて良かったです」

うん、本当にそれは良かった。


エスカリオットが傭兵団に顔を出す詳しい日程や、その貸し出し料については後日相談する事になり、ほくほくしながらマックスは帰っていった。

エスカリオットも、無表情だけどほくほくしている様子で肉まんのお昼ご飯を食べた。





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