第五十五話 聖女計画
「遥か昔、女神の寵愛を受けた一人の乙女が居ました。後に大聖女と呼ばれる彼女は神聖術を駆使し、魔神を討つに至りました。魔神の死後、魔族たちは各地に散り散りになり、後に八大魔王が生まれるまで人類はつかの間の平和を得ます。しかし……それ以後、大聖女のように神聖術を使える者は現れませんでした」
それは俺が知らない、人類史に隠された真実だった。
太陽教会の成り立ちを語る枢機卿はおぞましい言葉を吐き続ける。
「そこで我が太陽教会は古代技術を使って大聖女の複製を作ることにした。大聖女の遺伝子細胞を培養し同じ人間を作れば、再び神聖術が使えるようになるだろうと。最初は上手く行きませんでしたよ。大聖女と同じ身体を使っているにも関わらず神聖術が使えない副産物ばかり生まれた。何が原因なのだろうと、我々は副産物と人間を交配させて大聖女の血を引く者達を生み続けました。その結果、微弱ながら神聖術を使える者が生まれ始めた」
「貴様、は」
「我々は神聖術を使える者を聖女として送り出しました。この時点で既に戦力としては有用で、戦場での死亡者数は激減。我々は更なる成果を求め、大聖女の聖躯から遺伝子を採取し、培養。もう一度大聖女を再生させることを試みました。それが、あなたの知るローズです」
大聖女ローズ・スノウ。
しかし、思えばその生い立ちを聞いたことはなかった。
人類の誰もがただ選ばれし存在だと信じていたのだ──。
枢機卿はぐるりと培養槽を眺めまわした。
「歴代人造兵器の中でもトップクラスの力を持つローズは大いに役立ってくれました。彼女から生成される遺伝子サンプルを培養し、彼女の複製である聖女たちの能力は飛躍的に上昇。彼女自身の能力と相まって、ここ二十年は素晴らしい戦果を挙げることが出来た。ローズとあなたが同時代に生まれたことはある種の奇跡かもしれませんね……」
──あぁ、もう限界だ。
俺は枢機卿の襟首をつかんで壁に押し付けた。
「貴様ッ!! 人を、命をなんだと思っている!?」
「間違えないでください。彼らは人間ではない」
そこに何の疑問も抱いていないかのように枢機卿は語った。
「彼らは人造兵器。いわば道具です。道具を利用して何が悪いのですか?」
「道具、だと……!」
「えぇそうです。聖女はこの上なく便利な道具だ。失敗したら何度でも作り替えることが出来る最高のね!」
俺はすべてを悟った。
ローズが太陽教会を憎んでいた意味も、教会を滅ぼすと言った事も。
聖女から魔王が出た──その事実が明るみになれば太陽教会は終わりだ。
あいつは、この最悪の地獄を終わらせるために一人で動いたのだろう。
何度死んでも作られる、自分の妹たちのために──
「ただねぇ、このままじゃ困るんですよ」
「……」
「とっくに寿命が来ているはずのローズが生きて、しかも魔王になるなんて! これは本当に計算外でした。こんな事なら追放などせずに処分しておくべきでしたよ。このままでは人類は終わりです──ということで、取引をしませんか。ギルティア・ハークレイ?」
この期に及んで取引など受けるつもりは毛頭なかった。
ありあまる感情がパンクして思考がショートしていた。
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、枢機卿は続ける。
「戦場で指揮を執ったことのあるあなたなら分かるでしょう。聖女が居なければ人類は終わりです」
……確かに、人類が聖女の恩恵を受けていることは事実だ。
戦場での負傷者や瘴気を払うのに聖女の力は欠かせない。
もしも聖女が居なくなれば負傷者は倍増し、おそらく戦線は崩壊するだろう。
「俺にどうしろと?」
「ローズ・スノウを暗殺してください」
「……」
「今はまだ誰も彼女を魔王と認識していない。今がすべてのチャンスです。人類を救うためにも彼女を秘密裏に殺してください」
「俺がそれを受けるとでも思っているのか」
戦場のために無理やり造られ、望まぬ仕事を強いられたローズ。
俺や妹たちのためにすべてを投げ打って動く彼女の想いを踏みにじれと?
あぁ、今ならローズが暴走する理由が分かる。
こんな頭がおかしくなりそうな怒りを──君はずっと抱えていたんだな。
「あなたとローズの関係は聞いています。だから代わりをあげましょう」
培養槽が煙を噴き出しながら開き、生まれたままの女が歩いて来た。
「一体で足りなければ二体でも、三体でも差し上げます。あぁ、もしや自分を慕っているローズがお好みで? それなら調整可能ですよ、ほら」
枢機卿の手が光を放ち、ホムンクルスの頭に触れた。
ローズの顔をしたホムンクルスは舌足らずの口調で言った。
「ぎるてぃあさま」
「……!」
一人、また一人と、俺に近付いてくる。
「ぎるてぃあさま」「おしたいしております」「すき」「あいしてる」「てを」「あたまをなでて」「ぎるてぃあさま」「ぎるさま」「ぎるてぃあさま」「ぎるてぃあさまえ」「おしたいしております」「すき」「あいしてる」「すき」「すき」「あい」「あい」「あい」「あいし」「すき」「あいして」「すき」「あいして」「すき」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」「あいして」
──わたしをあいして。
「やめろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
視界が真っ赤に染まる。
頭のどこかがキレて魔力という魔力が爆発する。
衝撃の余波で吹き飛んだホムンクルスたち、あらん限りの怒りを込めて俺は枢機卿を睨んだ。
「やめろ。こいつらは、ローズじゃない……!」
「そうでしょうか。同じ身体ですよ?」
「ふざけるなッ! たとえ同じ身体でも、心は魂に宿る。俺と過ごしたあいつは、魔王となったあいつ一人だけだ!! 何が聖女計画……何が太陽教会! 貴様ら、一体どれだけの悪業を重ねれば気が済む!?」
「心外ですね。我々こそ人類の守護者だというのに」
枢機卿は肩を竦めた。
「人は誰かの犠牲なしには生きていけない。あなたもそうでしょう? あなたという人材を消費することで人類は守られている。分かりますか? 大義を為すには誰かを犠牲にしなければならないのですよ。試しに民衆に聞いてみればいい。元大聖女一人と一億人の命、どちらが大事なのかを──ね」
まるで経験したかのように枢機卿は語った。
先ほどからそうだ。こいつの話には実感がこもりすぎている。
それに、先ほど聖女の身体に細工をしたことと言い……
「……一つ聞く。貴様、何人目だ?」
「さぁ? 忘れましたよ」
「これがお前の話したいすべてか」
「はい。どうです? 取引を受けてくれる気になって何よりです。では、どうぞローズを殺して──」
「俺が殺すのは貴様だ」
「──……は?」
ずるり、と枢機卿の腕がズレた。
鈍い音を立てて落ちる腕。切断した身体から血が噴き出す。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああ!!」
「喚くな。騒ぐな。これ以上俺に醜い声を聞かせるな」
俺は枢機卿の頭をひっつかみ、強制的に意識を保たせる。
これしきで死なれたらローズが浮かばれない。
左手に魔術で編んだ炎の籠手を装備し、切断面に近付けた。
「や、やめ……貴様。こんなことをしてどうなるか分かってるのか!? 我々は、私は、人類を守護するために……!」
「知ったことか……そんなこと、知ったことかっ!!」
こうする以外にこの怒りを抑えきれなかった。
拷問に時間をかけていられないのが残念でならない。
「こんな計画、今すぐやめさせる。あまりにむごすぎる!!」
「彼女たちが居なければ人類は滅ぶ! お前は人類を滅ぼそうとしているのだぞ!?」
「聖女が居ない時の道筋は、既にローズが示した」
魔導機巧人形の大量生産はきっとこの時のためだろう。
アレがあれば戦場での負傷者は格段に減り、聖女すら必要なくなる。
この時のために、あいつはずっと──
「貴様はここで、永劫の苦しみに悶えて死ね」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
枢機卿を培養槽の中に放り込み、生命を維持したまま『痛み』を与える。
培養槽の操作方法など知らないから手早く魔術式を刻んでおいた。
……さて、本当に時間がない。
ホムンクルスたちの上空に飛び上がり、地上へ向かう。
ローズの肉体がいつまで保つか分からない。
あいつは今、どんな気持ちで魔王となっているのだろう。
たった一人ですべてを背負い、死を望むあいつは──
「……っ!」
あぁ、腹が立つ。
出逢った当初、何も知らずにあいつを拒絶した自分に。
暴走列車のように突っ走るあいつの中に渦巻く、底知れない怒りと悲しみに。
俺を頼ってくれなかった、あいつに──
今すぐあいつを救ってやれない自分に、腹が立って仕方がない!
「ローズ、俺は」
必ずお前を──救ってみせる!!