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第四十八話 すれ違う想い ※ギルティア視点

 

「──王都で殺人事件が頻発してる?」


 俺がその報告を聞いたのはローズと食事に行った一週間後のことだった。

 ガルガンティアの幕舎で深刻そうに頷くセシルは続ける。


「あぁ。しかも連合軍の要人ばかり狙われている。全員が貴族だ」

「ほう。蛆虫が減ってちょうどよかったんじゃないか」

「間違っても外で言わないでね。お願いだから……!」


 そうはいっても俺は貴族が嫌いだしな。

 俺も貴族出身だが、貴族出身であることを恥じているくらいだ。


 自分で戦わない癖に撤退の報を聞けば口汚く罵り。

 戦線で勝利したと知らせがあれば誰の功績だとか議会で揉め始める。


 そうでない時も口を開けば文句ばかりで、贅沢三昧。

 貴族の義務も忘れた薄汚い豚共がいくら死のうと知ったことではない。


「で、それがどうした。早く捕まえればいいだろう」

「捕まらないから君を呼び出したんだよね」

「面倒」

「そう言わずにさぁ。ちょっと転移して感知するだけじゃないか。頼むよぉ」

「本職の憲兵隊に捕まえられないものを俺に頼るな。俺を何だと思ってる」

「なんでもそつなくこなす嫌味な天才」

「ふむ。間違ってないな」

「ちょっとは謙遜しろよ!」


 俺が天才なのは事実なのだからしょうがない。

 とはいえ、王都の憲兵隊は意外と優秀だったはず。

 奴らが捕まえられない以上、俺がどう動いたところで変わらないだろう。


「妙なんだよねぇ」


 セシルが首をひねった。


「殺された貴族たちの家には誰も押し入った形跡がないんだ。まるで、自ら招いた誰かに殺されているような……」

「……はぁ」


 それはただ防犯意識が欠けているだけの間抜けだろう。

 まったく。仕方ない。

 こいつが俺に話を持ってきたということは相当な難敵ということだし。


「犯人が分かれば教えろ。捕まえるのには協力してやる」

「犯人探しには協力してくれないのかい?」

「お前のことだ。見当はついてるんだろう?」

「まぁ、そうだけど。あとは証拠を固めるだけなんだけどさ」

「話はそれだけか」

「うん。あ、そうだギル」


 俺が席を立つと、セシルは意味ありげな視線を寄越してきた。


「今日の舞踏会、ローズさんと行くの?」

「…………まぁな」

「そっか。僕も行くからさ。現地で落ち合おうよ」

「……気が向いたらな」


 囃し立ててくるかと思っただけに、俺は思わず肩の力を抜いた。

 正直、舞踏会など毛ほども興味ないが、あいつは無防備すぎる。


 先日のセシルのように婚約をしてくる者がいるとも知れないし、あいつの上司として周りを牽制しておかなければならない。せっかくいい戦力が入ったのに、婚約したからガルガンティアから出て行くとなったら困るのだ。そう、これはただそれだけのことで。


「ギルは気が向くと思うよ……楽しみにしててね」


 やはり揶揄うつもりか。

 俺はこれ以上セシルの言葉を聞く前に、その場から転移した。


 小隊舎に戻ると、既に準備を終えたサーシャが迎えてくれる。


「今日の任務はS級魔獣の討伐任務だ。気合を入れていけ」

「はい!」


 今日はサーシャと二人で任務だ。

 サーシャと共にいたリネットやローズは居残りである。


「ギル様、いってらっしゃいませ!」

「あぁ。君も問題を起こさないように」

「え? わたし、問題なんて起こしたことありませんけど」

「どの口が言ってるんだ馬鹿者」


 他小隊の隊舎に忍び込んだり未知の魔導機巧人形(ゴーレム)を生産したり魔族との戦闘に割り込んで来たり……こいつのやる事はめちゃくちゃだ。危なっかしくて目を離せない。本当なら四六時中そばにいて見張っておきたいくらいだ。さすがにそこまでするのは過保護が過ぎるだろうからやらないが。


「大丈夫ですよ、リネット様も居ますし。ね?」

「う、うん……」


 リネットはローズのほうをちらちらと見ながら頷いた。

 ここ一週間ほど、ずっとこんな感じだ。

 何やら元気がないが……俺が心配するようなことでもないだろう。


 ローズが声をかけていないはずがない。

 助けを求めないということは、必要ないということだ。

 そう思ったのだが、


「あ、あの。ギルティア様」

「……なんだ?」


 リネットが俺の裾を掴んできた。

 娘が父親に甘えるような目。こいつがここまで俺に近付くのは珍しい。

 いつも推しがどうとか言って一定の距離を保ち、近づこうとしなかったのに。


「えっと……」

「……」

「その、ですね」


 リネットは周りを気にしているような様子だ。

 誰にも聞かれたくはない話か……?

 恥ずかしがっているような様子もない。色恋だとかそういうものではないはず。


「話があるなら別室で……」

「あー! ずるい、ずるいですよリネット様。推しの裾を掴むなんて!」


 その時だ。ローズがいきなり割り込んできた。


「ひゃ!?」

「わたしだって我慢してるんです! ほら、ちゃんと送り出さないと!」

「わ、分かってるから引っ張らないでぇ!?」

「それにしてもリネット様、いい匂いですね。ぐへへ」

「ひゃぁぁあああああ!?


 じゃれ合う二人を見てサーシャが呆れたように言う。


「ギルティア様。早く任務に行きませんか? あのお馬鹿に付き合ってたら日が暮れますわ」

「……そうだな」


 何やら言いたげだったが、そう深刻な話でもないだろう。

 早く行って任務を終わらせないと、夜の舞踏会に間に合わなくなる。


「ローズ。今日の夜、遅刻しないようにな」

Si(シー)! お任せくださいませ!」

「ふ」


 この破天荒なバカの声を聞いていたら気が楽になるのはなぜだろうな。

 きっと俺は、こいつのこういう所が気に入ってるんだろう。




 ◆




 サーシャの指導をしながら任務を終えると少し遅くなった。

 転移を繰り返し、待ち合わせ時間ちょうどに噴水広場に到着する。


 だが、ローズの姿はどこにもなかった。


「……? 珍しいな、あいつが遅刻とは」


 言動は変わっているし考え方も違うが、ローズは待ち合わせ時間に遅れるような奴ではない。元大聖女としてのあいつの仕事ぶりは知っているつもりだ。


 まぁ、少し待てば来るだろう。

 そう思って三十分ほど待ってみたが、いつまで経っても来ない。


 俺は痺れを切らして隊舎に転移する。

 しかし、隊舎の中には誰も居なかった。


「……? どういうことだ」


 胸騒ぎがする。

 俺は衝動に急き立てられるまま王都の舞踏会場へ転移した。

 大勢の貴族たちが集まる場所にざわめきが起こっている。


 それは俺が舞踏会に現れたからというわけではなかった。


「まさかあの方とあの方が一緒に現れるなんて」

「これはつまり、そういうことかしら?」

「また教会の影響力が強くなるな。王家の地位は盤石ということか」

「それにしても、絵になるお二人ねぇ……」


 心臓が嫌な音を立て、全身から力が抜けていく。

 頭を突き刺すような光景がどれだけ目をこすっても消えてくれない。


「なぜだ……」

「あ、ギル! やっと来たね、待ちくたびれたよ」


 セシルがいつものように声をかけてくる。

 勝ち誇ったように奴が腕を絡めているのは俺も見知った女だった。


「なぜだ、ローズ」

「ごめんなさい、ギル様」


 ローズ・スノウは真顔で言った。


「わたし、セシル殿下の側妃として婚約することになりました」


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