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第四十六話 推しの急接近

 

「推しのおごり♪ ごちそうっ、ごちそうっ、さぁ、何を食べましょうか!」

「外野がうるさいのは面倒だ。どうせなら貸し切りにするか」

「推しの金遣いが荒すぎる!?」


 貸し切りってさすがに予約しないと無理なのでは?

 あと普通に他のお客様にご迷惑になるのでやめたほうがいいかと!


「どうしましょうね。リネット様は何か食べたいものでもありますか?」


 わたしが振り返ると、リネット様とサーシャが何かこそこそと話していました。

 リネット様がわたしの問いかけに気付き、口を開いて──


「──あぁ! どうしよう! 忘れ物しちゃった!」

「はい?」

「どうしよう、どうしよう、アレがないと生きていけないよ~~!」

「大変ですわー! リネットさん、早く取りに行ったほうがよろしくてよー! わたくしもついて行きますわ~~」

「ほんと? お願いできる?」

「リネット様が忘れ物なんて珍しい。ギル様、転移で取ってきてくれますか」

「すと~~~~~~~~~~っぷ!」


 リネット様がすごい顔をしてわたしに詰め寄ってきました。


「これは、アレだから。乙女の秘密だから、ギル様には内緒なの!」

「乙女の秘密。それは一大事ですね?」

「そうなの。だから二人は先に行くべきなの。ね、サーシャ様」

「そうですわ~、先に行くべきですわ~」

「さっきから気持ち悪い声出してますけど頭大丈夫ですか?」

「……っ、この大聖女、誰のためだと……!」

「サーシャ様、どうどう」


 なんですか拳を構えるならこっちにだって考えがありますよ。

 サーシャの恥ずかしいところみんなに暴露してやりますよ。


 つい三年前におねしょしたこと知ってるんですからね。

 推しに近付く奴らは全員調査済なの分かってるんですか。


 ……というか、さすがに芝居が下手過ぎでは?


「じゃあそういうことで。また夜に!」

「さよならですわ~」


 二人はあっという間に去って行きました。

 久しぶりに推しと二人きりです。お得感が半端ないですね。


「……借りが出来たな」

「何のことか知りませんけど、ギル様はサーシャに貸ししかないから気にしなくていいと思いますよ」


 ギル様はやれやれと言いたげに肩を竦めました。

 推しのおすすめだというお店に二人で転移します。

 静かなカフェのような場所はモダンな雰囲気があってわたし好みです。


 食事が終わるころになると、推しはフォークを置いて切り出しました。


「ローズ。来月に祭りがあるのを知っているか」

「『星火祭』ですよね。星に願いを込めてお祈りするっていう」


 お祭りの最後にやぐらに火をつけて踊るやつもあったはずです。

 そこで踊った男女は永遠に結ばれるのだとかなんとか、そんなジンクスもあったような。


 でも、ギル様の口からお祭りなんて言葉が出るとは思いませんでした。

 戦争中にお祭りなんて、とギル様なら言いそうなものですけど。

 わたしの考えとは裏腹に推しはためらいがちに言いました。


「その、だな……行ってみないか。二人で」

「…………ギル様と?」


 ギル様は一瞬沈黙し、頷きました。


「嫌ならいい」


 推しと、二人きりでお祭り。

 それって間違いなくデートというやつでは?

 え。うそ。推しって、もしかしてわたしのこと……


 いやいや。そんな馬鹿な。

 でも……いやいや……でもですね……。


「それは……どういう意味で?」


 わたしはからからに渇いた口で言いました。

 推しは言います。


「もちろん。一般的な意味で」

「一般的……とは」

「言わせるな、馬鹿者」


 プイ、と推しがそっぽ向きます。

 推しの言葉が五臓六腑に染み渡り、理解するのに時間がかかりました。


 それから深くため息をついて、ギル様に言います。


「ギル様。女の子には言葉にしてほしい時もあるんですよ」

「……君もそうなのか?」

「わたしはまぁ色々と例外ですが……そうですね。概ねその通りかと。あとわたし、お祭りのような場で踊るダンスはそう得意ではないのであしからず」


 ふむ、と推しは言いました。


「なら、予行演習のために舞踏会に出席するか」

「へ!?」

「以前に買ったドレス類一式を着てくるように、これは命令だ」

「め、命令……命令なら、仕方ないですね……」

「あぁ」


 推しに命令されたら断れないことで定評のあるわたしですよ。

 推しからの命令なんてご褒美でしかないですからね。

 どんな無茶な頼みであろうとこなしてみせますとも。


「では帰るか」

「はい……」


 転移で帰宅したわたしですけど、さっきの推しの言葉がぐるぐると頭を回っていました。


 一般的な意味……一般とはなんでしょうか。

 聖女として育てられたわたしには一般的な人間の思考が理解できません。


「はっきり仰ってくれれば、楽なんですけど……」


 なんだか頭が熱くなってきました。

 ちょうど夜も更けて来たころですし、少し身体を冷やすとしましょう。

 そう思いながら外に出ると、煌々と世界を照らす月がわたしを迎えました。


「あなたは一度目でも二度目でも変わりませんね」


 なんて言葉、少し感傷的過ぎるでしょうか。

 これもそれも、わたしの目的が終わりに近付いてることの証でしょう。


 魔導機巧人形(ゴーレム)大量生産の目途が立ち、

 ギル様の仲間も増え、推しを救える確率はかなり高くなってきました。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 ①推しの仲間になる→完了。


 ②推しの怪我を防ぐ→完了。


 ③推しの仲間を増やす→完了。


 ④裏切り者たちをどうにかする。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 サーシャが入った以上、③も完了したも同然でしょう。

 ギル様もうよっぽどのことじゃない限り、誰かを拒もうとしないはずです。


 あとは、ミッション④の裏切り者ですが……


「──見つけた」


 ん? なんか聞き覚えのある声がしました。


「ようやく見つけたわよ、ローズ・スノウ……!」


 振り返ったわたしは目を細めます。


「あぁ来ましたね。ユースティア。待っていましたよ」


 そうですね。

 そろそろわたしたちの関係にも決着をつけましょう。


 ミッション④:裏切り者をどうにかする……開始です!


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