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第四十一話 新たな日常

 

「『焔天の帷イグニス・ラ・アークセウム』!!」


 赤い鳳凰さんが魔法陣から現れ、ギル様に飛んでいきます。

 軌道上にある草木を燃やしながら飛ぶ鳳凰さんはなかなかの威力をお持ちのようです。しかし、わたしの推しは史上最強の天才。サーシャの小癪な炎魔術なんて簡単にかき消してくれます。


「『滝壁(グレート・ウォール)』」


 なんと中級魔術で水の壁を作ってしまいました!

 鳳凰さんは壁に突っ込んで蒸発するしかありません。

 じゅわぁあああ、と、蒸気がわたしたちのところまで届いてきます。


 蒸気に包まれたギル様を警戒するサーシャ。

 気付いていないのが滑稽ですね。既にギル様はあなたの後ろにいます。

 あ、今気づきました。でも遅いです。


「ここまで」

「……っ」

「威力はある。度胸も認める。だが、大規模な炎魔術は逆手に取られやすい。もっと細やかな魔術で相手を翻弄することを覚えるべきだな。グレンデル」

「……ありがとう、ございました」

「うむ」


 サーシャはがくりと膝を突きました。

 かれこれ三時間以上やっていた魔術訓練もようやく終わりです。


「お二人とも、ご飯の時間ですよ」


 最初はわたしとギル様の愛の巣だった小隊宿舎もリネット様とサーシャ様が来てからずいぶん賑やかになりました。推しと二人きりの生活は最高すぎますが、心臓に悪いのでこれくらいがちょうどいいかもしれません。


「ローズ、あなた料理できたのですね……意外です」

「失礼ですね。サーシャ。わたしは料理が一番得意ですよ」

「元大聖女が言うことですかっ?」


 事実ですしね。

 わたしはカップを傾けながら余裕を見せます。


「グレンデル家の令嬢は魔術以外も伸ばしたほうがいいですよ」

「誰が万年黒焦げ女ですか!?」

「そんなこと言ってませんが。黒焦げ。なるほど。らしい(・・・)ですね」

「納得された!? ムカつきますわーー!」

「まぁまぁ、二人とも。喧嘩しないで?」


 わたしとサーシャが言い合いしてリネット様が宥める。

 ここ最近、これがわたしたちの日常になってきました。

 サーシャはムカつきますが、ギル様が仲間と認めてしまいましたからね。名前呼びをするのもやぶさかではないというものです。


「朝から静かに食べられんのか、君たちは。まったく……」

「ギル様、お味はどうですか?」

「悪くない」


 無愛想ながらも手が止まることはないギル様です。

 これは相当に気に入っていますね。

 ギル様的にゆで卵は硬めがお好き、と。


「ほら、こちらのピーチも今朝届いたんですよ。食べてみてください」

「あぁ……ぁ?」


 ずい、とわたしがフォークを差し出すと、ギル様は自然と口に入れました。

 一瞬の硬直。

 ハッ、とわたしを見ます。


 なぜか食べながら呆然とわたしをじぃっと見ていますが。

 はて。わたしの顔に何かついてるでしょうか?


「?」


 鏡を見ましたけど何もついてませんね。

 じゃあいいです。気にせずいきましょう。


「美味しいですか?」

「…………美味い」

「それはよかったです」


 きゃー! 推しから『美味い』いただきました!

 考えてみれば美味いを頂くのはこれが初めてでは? 


「君は」


 ギル様は何か言いたげにわたしを見ました。


「……全然進んでいないではないか。君も食べろ」

「いやわたしは別にはむぅ!?」


 無理やり口の中にクッキーを詰め込まれました。

 食後のおやつにと思っていたのに、香ばしく焼かれた小麦粉の香りがわたしを極上の楽園へと連れて行きます。我ながら言うのもなんですが、サクッとした歯応えとじんわり広がる甘味が絶妙ですね。これは王都で売っても流行りそうです。


「美味いか」

「ほいひいれふ」

「ならばよい」


 ギル様は満足したようにカップを口元に運びます。

 ……つまりこれは意趣返しというやつですか。

 ほんとこの推し、負けず嫌いがすぎるのでは? 好き。


「とはいえ、乙女の口に食べ物を突っ込むのはどうかと思うのです」

「君が言うな」

「いやいや……ねぇリネット様。あなたも何か言って……リネット様?」


 ふと前を見ると、リネット様はお顔を真っ赤にしていました。

 お顔を両手で覆って指の間からわたしたちを見ている感じです。


「や、あの、その、わ、私たち、邪魔じゃ、ない?」

「邪魔? リネット様が邪魔なんてとんでもありませんが」

「わたくしたち、朝から何を見せつけられてるんですの……?」

「サーシャはついに頭がおかしくなりましたか」

「わたくしの扱いだけ雑すぎる!?」


 だってサーシャですし。


「ギルティア様。これは」

「ぁー」


 ギル様、やってしまったとばかりに顔を覆います。


「……何も言うな」


 つい、と。湿り気のあるサーシャ様から顔を逸らしました。

 少しだけお耳の端が赤いのは気のせいでしょうか?

 サーシャはげんなりとため息を吐きます。


「……甘すぎて砂糖吐きそうですわ」

「分かる。分かるよサーシャ様……」

「お二人とも、砂糖は高価なんですから吐くなんてもったいないですよ」

「「そういうことじゃありません!」」



 なぜかリネット様まで声をハモらせてました。

 ふふ。小隊員たちの仲が良くて大変うれしいです。


 さぁ、今日も張り切ってお仕事といきましょう!



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