第三十話 稼働テスト
「魔導機巧人形の稼働テストに行ってきます」
「なに?」
リネット様が新型魔導機巧人形を完成させた翌日。
わたしは早速朝食の席で推しに報告していました。
「ひとまず対魔獣のテストをしようと思います。この有効性が確認されれば工場で大量生産も視野に入れていただきたいのです」
「ふむ」
ギル様は顎に手を当てました。
「ゆくゆくは魔族に対するテストも行うつもりだな?」
「Si。当然です」
「……よかろう。許可は取り付けてやる。但し、俺もついて行くぞ」
「えぇ、構いません」
「リネット。俺が行くまでこいつが暴走しないように見張っていろ」
「は、はい!」
暴走って。ひどい言われようですね。
ぶっちゃけ推しがついてくる必要はないんですけど。
レポートを提出すれば済む話ですし。魔獣相手なら逃げられるはずですし。
「お仕事のほうは大丈夫なのですか?」
「緊急の任務はほとんど終わらせているんだ。問題ない」
「そうですか?」
まぁいいでしょう。
実際にその目で見てもらったほうが威力のほどが分かると思いますし。
「では早速行きましょうか」
「う、うん……! き、緊張するね!?」
「緊張しなくても大丈夫ですよ、リネット様」
責任感が強い彼女を見て微笑んでしまいます。
「失敗すれば改良してまた試せばいいのです。そのためのテストですから」
「……うん!」
ふふ。やっぱりリネット様は笑っているほうがいいですね。
ギル様も同じ意見なのか、柔らかく口の端を緩めていました。尊い。
ともあれ、朝食を終えたわたしたちは早速ガルガンティアの街に繰り出します。
わたしとギル様がリネット様を挟み、後ろから魔導機巧人形がついてくる感じです。街中で魔導機巧人形が歩いている様はなかなかにシュールです。
「お、おい。あれって死神様じゃ……」
「今度は誰を殺すつもりなんだ……」
「まだ若い身空の女の子じゃないか……可哀そうに……」
有象無象がギル様の悪口を言っていました。
わたしは彼らににっこりと笑いかけ、
「『起動』」
「「「!?」」」
魔術言語で魔導機巧人形の起動キーを口にします。
わたしの言葉を聞いた魔導機巧人形の頭部に目玉のような光が宿りました。
がっしゃん、がっしゃん、と内部機構が作動し、攻撃準備が完了します。
さぁいきましょう。
「『焼きはら──」
「わぁーーーーーー! 待って待ってローズさんこんな街中で!?」
「何しているんだ馬鹿者!」
「ひゃひゃひてふやしゃいまへ、ひへっほしゃま!」
あいつら、ギル様の悪口を言いやがりましたよ!
よりにもよってわたしたちを殺すですって? ふざけやがってます!
「リネット! 俺がこいつを抑えるから魔導機巧人形をどうにかしろ!」
「『強制停止』!」
リネット様の命令で再びゴーレムが光を失います。
自律走行モードに移行した兵器を目にして、ほっと弛緩した空気が流れました。
「むぅ。なんで止めるんですか」
「なんではこっちの台詞だよぉ!」
「なぜあんなことをした。魔導機巧人形で前線をめちゃくちゃにするつもりか?」
「だって……」
ギル様が本気で怒っている顔をしています。
わたしはその顔を直視できず、消え入りそうな声で呟きました。
「あいつら、推しの悪口言ったんですもん……」
「気持ちはすごく分かる」
「おいリネット」
ギル様はリネット様を窘めたあと、わたしに向き直ります。
「街中で魔導機巧人形をぶちかましてみろ。君の計画は凍結されるぞ」
「むぅ」
「君は人を殺すために魔導機巧人形を作らせたのか?」
ギル様の視線を追って、わたしは周囲を見回しました。
突然動き出した魔導機巧人形に平和ボケしている奴らは戦々恐々とこちらを見守っています。
「奴らを殺すためではないですけど……許せないじゃないですか……どいつもこいつも、ギル様に大変な任務を押し付けている自覚もなく、悪口ばかり言って……」
このガルガンティアがあるのは推しのおかげだと分かっていないのです。
推しが居なければあいつらは今ごろ大変な目に遭っていますよ。
任務失敗が相次ぎ死亡率が増加し、戦線が崩壊するのは目に見えています。
それを奴らは……
「……まったく。仕方ないな君は」
ギル様はため息を吐き、わたしの頭を乱暴に撫でてきます。
「気持ちだけもらっておく……………………ありがとう」
「え?」
わたしはリネット様と顔を見合わせました。
今、かなり貴重なお言葉を聞いた気がします。
聞き間違いではないことは、同担の反応を見ても分かりました。
当のギル様はすたすたと先に行き始めていて……
「「推しのありがとう、頂きましたーー!」」
「やかましい!!」
わたしとリネット様のハモッた声に、推しは顔を真っ赤にして怒鳴りました。