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第三話 ローズの反撃①

 

 わたしが聖女として働き始めて、はや二十年以上経ちました。

 多くの者達は早々に神聖術の行使に耐えかねて退役するので、聖女の在職期間としては最長と言われています。


 とはいえ、わたしも身体にガタが来ているのは同じですから、他の聖女のように戦場にはいかず、神殿で事務作業や掃除、洗濯、料理などの雑用仕事をこなしていました。とても聖女と言えるような身分ではありませんが──


「聖女ローズ・スノウ。こちらの書類にサインをお願いします」


 なまじ在職期間が長いせいで神官たちにとっては頼りがいがあるそうです。

 ユースティアが舞踏会に向かった、その日の夜。

 祈祷の間で掃除をしていたわたしは神官の言葉に首を傾げました。


「はて、それは大聖女の仕事だったはずですが」

「大聖女様に前線を押し付けているんですから、これくらいこなしてくれないと困ります」


 あぁ、頼られていたわけではなかったのですね。

 ユースティアの指示でわたしに全部押し付けようとしていると。

 よく見れば神官たちはわたしに蔑むような目を向けていました。


「……」


 なるほど。つまり今日の舞踏会はお忍び。

 枢機卿の許可は取っていなさそうですね。


「仕方ありませんね」

「聖女ローズ・スノウ。こちらもお願いします」


 気付けば神官の後ろには列が出来ていました。


「……まとめてやるので執務室に行きましょうか」


 やれやれ。ユースティア、早く帰ってきてほしいものですが……。


「ローズ! ローズ・スノウ! 今すぐ来い!」


 お、来た、来ました!


「何の用でしょうか」

「早く! 大急ぎだ! 大聖女様がお越しになった! かんかんに怒らっていらっしゃる!」

「分かりました」


 わたしは思わずにやりと笑ってしまいました。

 慌てた司教様の呼び出しに応え、応接室へ向かいます。


「お姉さま、これどういうこと!?」


 扉を開けた瞬間、きぃきぃと甲高い声が耳に響きました。

 金髪を振り乱しながらユースティアが叫びます。


 彼女は手に持っているドレスを突きつけてきました。

 さて、出来栄えのほどは……。


「王子と踊っている時にドレスが裂けたんだけど!?」


 いやっっっっほう! 大・大・成・功!

 まさかこれほど上手くいくとは思いませんでした。感無量です!

 おぉ、いい具合に背中がぱっくり裂けていますね。最高に笑えます!


「お姉さまのドレスよね!? 私、とっても恥をかいたんだから!」


 この裂け具合だと、踊っている途中に半裸になったのでは?

 おそらく、お尻のほうまでぱっくり割れたように思います。

 あぁ、出来ればその場面を舞踏会で見たかった!


「ねぇこれ、どう責任を取ってくれるの!?」

「ごめんなさいユースティア。派手な動きをしない限りは破れないはずなの。ユースティアが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ねぇ?」

「…………っ」


 大聖女の気品を忘れていってませんか? と突いてみます。

 お仕事をわたしに押し付けていたのですからこれくらいは許されますよね。


 まぁ嘘なんですけど。

 ダンスの時に腕を引っ張られたら裂けるようにしてたんですけど。


 それでも、愚妹には心当たりがあったのでしょう。

 ユースティアは図星を突かれたように顔を背けました。


「もういい。お姉さまがそんな態度なら私も大聖女として考えがあるんだから!」

「うふふ。妹が立派な大()女に成長して嬉しいわ」


 さて、思惑通りに動いてくれればいいのですが。


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