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第二十八話 その道の先は ※ユースティア視点

 

 大聖女としてのお役目は多岐にわたる。

 大聖女は聖女の代表だから、戦場で祈祷を願われることはほとんどなく。豊穣祈願や連合軍加盟国に赴いて外交演説を行ったり、主要国の外交官とお話をしたり、そのほとんどが祈祷とは関係のないものであることが多い。そしてあまりにも多すぎる業務だからこそ、大聖女には常に専属の侍女がついている。


 それなのに──


「フランが捕まった!?」


 私は大司教からその報告を聞いて飛び上がりそうになった。


「どうかお静かにお願いします。教会の沽券に関わりますので……」

「それは、分かってるけど。でも……!」


 なんでも教会の至宝を盗み出して宝石店に売ろうとしたらしい。

 彼女の蛮行に気付いた聖女(・・)が密告し、現場を押さえたのだとか。

 一連の流れを聞いた私は怒鳴りそうになった。


(馬鹿じゃないの……! あの子にそんな度胸あるわけないじゃない!)


 フランは下級侍女から大聖女付きの侍女に成り上がった女で、出身は下級貴族だ。教会の至宝を盗んだら自分の身がどうなるかなんて分かり切っているはず。

 しかも、すぐバレるような宝石店で売る?

 そんな間抜けな真似をするような子じゃないわ。


「とにかくフランと会わせて。大聖女権限で面会よ」

「まことに遺憾ですが、大聖女様にそのような権限はありません」

「なんですって!?」

「連合主要国の一つ、ガルドナーの外交官と面会を控えています。どうかお控えを」

「あなた、生意気ね……私を誰だと思ってるの?」

「大聖女様です。それ以上でもそれ以下でもありません」


 ゾッとするほどの大司教の言葉に私は思わず身震いした。

 今まで大聖女であることを振りかざせばだれでも言うことを聞かせられた。

 それなのに、こんなに冷たい目をされるなんて。


何も知らない(・・・・・・)あなたは、教会のために働いてくれればそれでいいのです」

「……なによ、それ」


 大司教はにっこりと笑った。


「さぁ、ユースティア様。仕事の時間ですよ。フランがいない以上、仕方ありません。ガルドナーの接待は任せましたからね」

「……分かってるわよ」


 有無を言わさない大司教に促され、私は仕事に移ることにした。

 普段はフランが全部取り仕切ってくれているけれど、私だって大聖女なんだし、接待くらいは余裕で出来る。


「ガルドナーは確か大陸辺境の貧乏国家だったわよね。豪華な食事にしましょ」


 連合国に魔具技術を買われて参入した国家だったはずだ。

 豪華な食事で歓待して、お金をかけたプレゼントを用意したら喜ぶだろう。


 大丈夫。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これに従っていれば、外交なんて簡単なものよ。


 ──今に見てなさい、大司教。私の大聖女らしいところを見せてやるわ。


 そう思った私は舞踏会に参加するようなノースリーブのドレスを着る。

 可能な限り胸を露出してやれば、男であろうと女であろうと私の美貌に魅入られるから。


「大聖女ユースティアと申します。この度はようこそお越しくださいました」


 ガルドナーの外交官は私の登場に目を丸くした。

 うふふ。ほぉら見惚れてる。

 ダンディなオジ様だけど、男としての欲望は抑えきれないみたいね。


 ややあってから、外交官は口を開いた。


「お目にかかれて光栄でございます。大聖女様」


 大陸公用語を流暢に使いこなし、私の手の甲にキスをする外交官。


「ガルドナーの外交官。ウィリアム・サーペントと申します」


 まぁまぁの所作ね。辺境の蛮族にしてはなかなかいい男じゃない。


「太陽のごとく煌めくあなたを見てつい呆けてしまいました。どうぞお許しください」

「許しましょう」


 ふふ。これよ、これよ!

 大聖女たるもの、すべての人間に傅かれる存在でなくては!


「今日はあなたのために食事を用意したわ。どうか楽しんでくださいませ」


 私は侍女に合図をして食事を運ばせる。

 貧乏国家じゃ王族ですら食べられないほどの豪華な料理の数々。

 特にメインの最高級アローナ牛のステーキは私ですらたまにしか食べられない。


 ほぅら、ウィリアム外交官も頬をぴくぴくさせてるわ。

 そんなに食べたいなら我慢せず、辺境の蛮族らしくがっつけばいいのに。


「どうぞ、お食べになって?」

「これはこれは」


 ウィリアムは苦笑しつつ、


「私のような者にはもったいない料理ですな」

「ふふ。何をおっしゃいますの? あなたに相応しい料理だわ」


 お姉さまの機密書類によれば、牛のステーキはウィリアムの大好物。

 派手で露出の多い衣装を好むということも書いてあったから、彼にとって私は好みのど真ん中だ。もちろん彼を誘惑してどうこうとかは考えていないけど、女に縁のない男から向けられる熱のこもった眼差しは、乾いた私の心を潤してくれる。


「浅学ながら、大聖女様の噂は大げさに誇張したものかと思っていましたが……あながち間違っていなかったようですね」

「うふふ。まぁ、お口がうまくていらっしゃるのね。褒めても何も出ませんよ?」

「お世辞ではありませんよ」

「ふふ。とにかく喜んでいただけて何よりです。これからもよろしくお願いいたしますね」


 外交官は大変に満足したようで、大司教様も喜んでいた。

 ふふ。ま、私にかかればこんなものよ。

 フランが居ないのは残念だけど……まぁ、他の侍女でも対応できるでしょ。


 私はそう信じて疑わなかった。


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