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第二十五話 王都デート②

 

 推しと一緒に転移したのはどこかの屋敷の前でした。

 家同士の間が広く、道がやけに整っていることから見ても、貴族街であることは間違いありません。


「ここは……」

「俺の家だ」


 お、推しの家ですか!?


「転移用の場所だからな。ここから歩いていく」

「なるほど」


 び、びっくりした。

 推しの家に行くのかと思って心臓が爆走しそうでした。

 それはそうと転移用の場所ですか。


 さすがに大通りのど真ん中に転移する推しではなかったようです。

 わたしはホッとしながら、貴族街のほうを見てみます。


「……久しぶりですね」


 王都に来るのは放逐されて以来でしょうか。

 さすがに顔が割れているわたしなので変装用が欲しかったかもです。

 特にユースティアに見つかるのはまだ(・・)好ましくありません。


 さて、どうしましょうか……。


「《虚無の果て》《現は歪み微睡みの淵に》『明鏡止水(ララ・レーム)』」

「ほえ?」


 光の膜がわたしの身体を包み込み、周囲の景色が一瞬歪みました。

 ぽかんとしたわたしに推しは澄ました顔で言います。


「認識阻害だ。これで君の顔が分かる者はいない」

「……」

「行くぞ」

「は、はい」


 ……もしかして、わたしを気遣ってくれたんでしょうか?

 何も言っていないのにちゃんと分かってくれたなんて……。

 ダメです。顔がふにゃふにゃしてしまいます。


「なぜ笑ってる?」

「ふふ。いえ、わたしの推しはカッコいいなと」


 一瞬の沈黙。

 推しは口元に手を当ててそっぽ向いてしまいました。


「君は誰にでもそういうことを言うのか」

「いえ。推しだけですけど。他の有象無象は死ねばいいと思ってます」

「過激すぎる」


 なぜか呆れたようにため息を吐いてしまいました。


「あ、もちろんリネット様は話が別ですよ? お友達ですから!」

「そういう話ではない……やはり君はどこかズレてるな」

「そうですか?」

「あぁ」


 よく分かりませんが、推しがご機嫌なので良しとしましょう。

 わたしたちは貴族街を出て王都の下町へ歩き出しました。


 推しが認識阻害をかけているおかげで、わたしのことを分かる人はまったくいません。推しが前を歩いているおかげで人にぶつかることもありませんでした。さりげない気遣いがカッコよすぎませんか? 推しはわたしを尊死させたいようです。


 ふと、オペラの広告が目に入ってきました。

『嘘つき王子と精霊姫』という題名です。

 舞踏会などでよく話題に上がっていたことを思い出しました。


「これ……」

「昔からよく上演されている題材だな。俺は嫌いだ」


 確か、嘘しかつけない呪いをかけられた王子様と精霊姫の恋のお話ですよね。

 王子の呪いを解くには真実の愛を犠牲にする必要がありました。

 そんなものはないと諦めていた王子様は悪しざまに振る舞うんですけど、精霊姫だけは本当のことを分かっていて……。


「そして自ら悪役となって──王子に自分を殺させる。でしたか」


 しかし、王子様は精霊姫の死に耐えることが出来ませんでした。

 結局彼もまた、精霊姫のあとを追うようにして命を絶ってしまいます。

 推しは吐き捨てるように言いました。


「愛する者が命を犠牲にしてまで助けたというのに。自死を選ぶのは愚かすぎる」

「そうでしょうか。わたしは好きですけどね」


『心』という、矛盾と葛藤がよく描かれた作品だと思います。

 まぁ実際に見たことはありませんし、今後も見ることはないと思いますけど。

 実際、世界にたった一つしか大切なものがなかったら、人間なんて簡単に死んでしまうんじゃないでしょうか。


「人間の心を学ぶにはちょうどいい作品でした。わたしは好きですよ」

「俺も好きだ」

「え? でもさっき嫌いって」

「気のせいだ。さぁ行こう」


 ギル様はそう言ってすたすたと歩き始めます。


 ……なんだか今日の推し、変じゃありませんか?



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