第十九話 女の子拾いました
「ところで、君はこんなところで何をしてるんだ」
「お友達を探していました」
「……君に友達がいたのか?」
失礼ですね。なんですかその目は!
お友達くらいいますよ。まだお友達になってませんけど。
「まぁいい。そういうことにしてやろう」
「いえ、普通にいますけど」
「……妄想は大概にしておけよ」
「だから妄想じゃありませんってば、もう!」
ギル様は「くっく」と笑いながら消えました。
いきなり転移するから神出鬼没ですね、あの人。
超高等魔術をあんなに気軽に使うなんてギル様くらいでしょう。
「さて、気を取り直してリネット様を探しますか」
ギル様のおかげでわたしに近付いてくる人は居なくなりました。
おかげ、と言っていいのでしょうか。
何やらかなり恐れられているような気がするのですが。
「まぁ有象無象にどう思われようと関係ないですね」
まずはリネット様です。
一体どこに……。
「きゃ!?」
「おっと」
考えごとをしていたら誰かにぶつかってしまいました。
その方の持っていた紙がひらひらと宙を舞い、地面に散らばりました。
「あッ! す、すいません」
「いえいえ、こちらこそ」
さぁあ、と顔を蒼褪め、その人は慌てて紙を集めようとしました。
恐らく小隊の活動報告書なのでしょう。かなり量が多い気がしますが……。
…………ん? ちょっと待ってください。
「リネット様?」
「え?」
栗色の髪にそばかすのある童顔。
きょとんとした青色の瞳は戸惑いがちにわたしを見ています。
間違いありません。リネット・クウェンサ様です。
ようやく見つけました!!
「リネット様!」
「きゃ!? え、え、な、ななななんですか!?」
わたしは思わずリネット様を抱きしめます。
はぁ~~~~、この感触、この戸惑いよう。間違いなくリネット様ですよ!
わたしに推しの概念を……そして人の心を教えてくれた大恩人!
魔道技術開発局にいないと思ったら、まさか小隊に属していたなんて!
そりゃあ見つからないわけですよ。まぁ見つかったのですべて些事ですけど。
「リネット様。もう離しませんよ。捕まえましたからね」
「え、えぇえ? てて、ていうかあなた、誰ですか!?」
「わたしはローズ・スノウと申します」
わたしは身体を離して言いました。
「リネット様、我が小隊に入ってください!」
「え」
リネット様は固まりました。
ふふ。この方、『一度目』では虐められ体質でしたからね。
上司が死ぬまで不遇な扱いを受けていたと聞きますし、おそらく小隊に属している今でも同じような状況でしょう。ここでわたしが救いの手を差し伸べれば、『喜んで!』と手を取ってくれるに違いありません。わたしの目に狂いはありませんよ。
「あ、あの、私、」
リネット様はあわあわと口を動かします。
わたしは肯定の言葉を確信し、にっこりと返事を待ちました。
「む、無理です!」
リネット様がわたしに背を向けて走り出すまでは。
「え」
こ、断られた……!?
なぜですか。わたしの誘い方に問題があったのですか!?
そりゃあ、リネット様から見れば初対面の女にいきなり抱き着かれて小隊に誘われたのですから、怪しむのは当然かもしれませんが…………って、あれ? わたし、普通に怪しいですね。むしろ変質者の類に思われたのでは?
「…………ごほん。まぁ過ぎたことは仕方ありません」
幸いリネット様の足は遅いのです。
今でも無防備に背中を見せていますからね。わたしは神聖術を唱えます。
「『聖なる縛鎖』」
「へば!?」
リネット様の身体に鎖が巻き付きました。
転んだリネット様のところまで歩いたわたしは胸を張って言います。
「リネット様、確保です!」
「えぇええええええええええ!?」
よっこいしょ。ちょっと重いですね。
仕方ありません。どこかで台車を借りて行きましょう。
「ちょ、あの、下ろして、下ろしてくださいいいいいい!?」
問答無用です。
軽く犯罪ぎみな気がしますが、これも二年後の未来のため。
第八魔王を倒すため、ひいては推しを救うためにはリネット様の協力が不可欠。
そのためならどんな悪いことでもやってしまいましょうとも。
「大丈夫です。痛くはしないので安心してください」
「そう言う問題じゃないいいいいい!」
さて推しの家に帰還です。
◆
「ただいま帰りました、ギル様!」
「あぁ」
玄関を開けると、推しが目を見開きました。
「……なんだそれは」
わたしの後ろにいるリネット様を見たのでしょう。
「ふふん。聞いて驚いて下さい。この子はわたしの友達です」
「…………」
ギル様は簀巻きの状態で台車に乗ったリネット様を見ます。
リネット様がふるふると首を横に振っているのが見えました。
「……友達を縄で縛って連れてくる奴があるか、馬鹿者」
「うぐ。それはまぁ……でも、わたしにはこの子が必要なんです」
「つまりペットのようなものか」
ギル様は呆れたように息をついて、
「捨てて来なさい」
ばたん、とわたしの鼻先で扉が閉まりました。
わたしは目が飛び出そうな衝撃に襲われます。
「そうでした。ギル様、人見知りでした!?」
「あの」
リネット様は遠慮がちに口を開きました。
「そ、そういうことじゃないと思いますよ……」
…………ですよねー。