第34話 散歩
GvGで初勝利、というか不戦勝? を得た僕たちは、相手が最強ギルドと名高い『聖母の癒し』ギルドであったため、あっという間にネットで噂になってしまった。
ネットに書かれた内容としては、
「ギルドマスターが美幼女で、変態ロリコン紳士の集まりである」
「ギルドマスターが語尾に『のじゃ』の付くロリババァで、妖術を使ってプレイヤーを駒として育てている」
「ギルドマスターが美少女で、スク水は着用するけど、一緒にお風呂へ入ってくれる」
と、根も葉もない話ばかり。
噂話に尾ひれ背びれは付く物だろうけど、それでも酷いものがある。
それと最強ギルドと同盟を組んだ事についても、僕たちが結成直後のギルドだったという事もあって、変質者の集まる最凶ギルドの名が付けられてしまった。
ただ、僕と育代さんが知り合いだっただけなのに。
しかも、次の日曜日のGvGや、その次の土日のGvGでは、僕がメイド服を着て戦ったからか、ネット上でロリメイドというニックネームまで付けられてしまった。
けど、あのメイド服は激レアと呼ばれるだけあって、防御力も魔法防御も高くて、おまけに肌の露出が少ない優れ物なんだっ!
まぁ、メイド服を装備した状態で、深く考えずに猫耳カチューシャを装備していた僕も愚かだったんだけどさ。
とはいえ噂話はさておき、知名度だけはあるので、メンバーがどんどん増えて、とにかく大所帯になっている。
目下の所、ひたすらギルドスキルを要員拡張に振り、何とか拠点となる家を購入しようと頑張って居た。
相変わらず変なコスチュームをプレゼントされたり、お尻や脚に視線を感じる事はあるものの、楽しくゲームの世界を過ごして居る。
そして、初めてのGvGから十日程経った頃、
「よし、今日も頑張ろう……って、誰も居ない? あー、学校の創立記念日だからって、平日のお昼過ぎにログインしたのは失敗だったかな?」
プレイヤーが殆ど居ない、旅人の街の冒険者ギルドへ訪れた。
「最近は、いつも二、三人はギルドメンバーの誰かが一緒に居るから、一人で街を歩くのは久しぶりかも」
冒険者ギルドの中だけでなく、街の中にも殆ど人が居ない状態で、ゆっくりと街並みを長めながら散歩をしてみる。
「あ、噂のロリメイドさんだ。今日は、メイド服じゃないのー?」
「あはは。あの服は、戦う時だけですよ」
「そっか。じゃあ、GvGで出会える事を楽しみにしているねー」
小学生でこのゲームをプレイしているのは珍しいのか、それともネットで有名になったからか、初対面の人からも話し掛けられるようになった。
現実の僕には有り得ないコミュニケーションだけど、こういうのも悪くないのかもしれない。
引き続きプラプラと散歩を続け、街の中には花屋さんがあったり、牛乳屋さんがあったりと、リアル過ぎるが故に、気付いて居なかった物を、新たに発見していく。
「こっちは何があるんだろう?」
今まで存在すら知らなかった、ちょっと細い路地へと入ってみる。
隣の通りへと抜ける近道だろうか。ちょっとワクワクしながら歩いていると、
――ペシッ
突然、足に何かがぶつかった気がする。
何だろうと思って、足元を見てみると、半透明の良く分からない物体が纏わり付いていた。
「えぇぇぇっ!? 何これっ! 気持ち悪いっ!」
モンスターだろうか? だけど、街の中でモンスターが出現する事は無いはずなのに。
散歩のつもりだったので、武器も防具も装備しておらず、旅人の服と上靴だけの格好だったので、慌てて装備を整えようと、ステータスウインドウを開き、
――スッ
何かが視界を遮ったかと思うと、突然視界が真っ暗になってしまった。
「しまった! 暗闇状態だっ!」
この状態ではステータスウインドウも操作出来ない。
何も見えない状態で、とにかくこの場から離れようと思ったけれど、どいう訳か足が動かない。
「えっ!? どうしてっ!? やだっ! 怖いっ!」
何かが足に絡みついている? いや、足だけではなく、腕も動かない。
一体、何がどうなっているの!?
ジタバタと抵抗する事すら出来ないまま、異様に長く感じた不安な時が過ぎ、ようやく暗闇状態から回復した。
最初に視界へ映ったのは、バカみたいに澄んだ青い空。そして、ゆっくりと建物の屋根が動く様子が見える。
違うっ! 屋根が動く訳なんてなくて、僕が運ばれているのっ!?
仰向けに寝転ばされ、静かに、そしてゆっくりと何処かへと移動している。
「――むーっ! むぅーっ!」
何かで口が塞がれている!?
ロープみたいなもので、手足が縛られ、身動きも取れない。
これは一体何なの? 街の中だから、何かのイベント? でも、こんなのネットには載っていなかったよ!?
そして、何も出来ないままに、どこかの建物の中へと運びこまれ、そこで動きが止まり、床に転がされた。
相変わらず手足は動かないけれど、顔を動かしていくと、ここはどこかの家の中みたいで、椅子に座る中年男性が居る事に気付く。
その直後、
「やぁ、ツバサちゃん。久しぶり。ダンサーになったんだね。ギルドを創ったんだって? オジサンも是非入れて欲しいなぁ」
どこかで聞いた事のある声が耳に届く。
思い出せないけれど、どこかで見た事がある顔で、僕は何とか視線を男性の上へ向ける。
そこには、白い文字でプレイヤーの名前が表示されていた。
クマヨシと。




