第24話 GvG
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい」
「え? あ、ツバサちゃんが来てるっ! よぉーっし! これで、俺のやる気はMAXだ! 絶対に負けねぇぜっ!」
それぞれが必要と思う物を調達し、続々とメンバーが集まってきた。
「よし。それじゃあ、GvGのおさらいだ。おそらく、ここに居る殆どはGvGに参加するのは初めてだろう。というか俺も初めてなんだけど、先ずは勝利条件についてだ」
シュタインさんがネットで調べてきたという情報を、改めて説明してくれた。
それらを要約すると、
・攻撃側と守備側に別れて戦う
・攻撃側は、三十分以内に守備側のギルドマスターを戦闘不能にするか、降参させると勝利
・守備側は、自ギルドのギルドマスターを三十分間守り切れば勝利
・三十分の戦いを五回戦行い、先に三勝した方がGvGの勝者となる
・三十分の戦いを終える毎に、三十分の休息及び補充時間が与えられる
・各回の戦場はランダムで決まり、戦闘開始の十分前に発表される
という話だった。
一先ず、皆がよく分からなかった箇所をシュタインさんに質問していく。
「えっと、攻撃と守備っていうのも毎回ランダムなのか?」
「相手次第だな。俺たちはGvG初参戦で未勝利だから、相手が一度でも勝者ギルドになった事があれば、俺たちが攻撃側固定。一方、相手も未勝利ならば、攻撃と守備が毎回ランダムで決定されるらしい」
「何だかややこしいな。とりあえず、強い方が守備側って事なのか?」
「まぁそういう事だ。というのも、GvGは攻撃側の方が有利らしいのだが、同じギルドがずっと勝者ボーナスを取り続けないようにと、勝者ボーナスを受け取った回数が多い方が不利な守備側になるそうだ」
「へぇー。じゃあ、今日いきなり俺たちが勝者になる可能性もあるのか」
「もちろん大いに有り得る。ただしGvGの勝者ギルドも複数居る訳で、どのギルドと勝負になるかも十分前に発表される。そして、その中に一つだけ無敗のギルドがあるから、そこと当たらなければ勝てると思う」
シュタインさん曰く、土曜日と日曜日の朝、昼、夜と一週間で計六回GvGが開催されるらしい。
参加するしないはギルドの自由らしいけど、そのギルドはこれまで十回程度参加しているのに、一度も負けた事がないのだとか。
そのギルドはこれまでの勝利数から、絶対に不利な守備側となるはずなのに、それでも無敗だなんて凄いな。
「知っていたら教えて欲しいんだが、GvGで負けた時のデメリットとかってあるのか?」
「攻撃側の場合は特に無いはずだ。強いて言うならば、今から挑む土曜日の昼のGvGで連続三敗して、すぐに負けが確定したとしても、同じ土曜の昼には参戦出来ないというくらいかな」
「そりゃあ、そうだな。しかし、攻撃側の場合って事は、守備側で負けた時には何かあるんだな?」
「あると言えばある。いや、別にギルドとしてペナルティなどが与えられる訳じゃない。だけど、その、守備側の敗北条件っていうのがな」
シュタインさんが何やら言い難そうにしているけど、何だろう。
守備側の敗北条件って事は、つまり攻撃側の勝利条件って事だけど、それって時間内に守備側ギルドのギルドマスターを倒す事だよね?
特段何か変な事は無さそうだけれど、僕以外の皆は何かに気付いたみたいで、一斉にハッと顔を上げる。
「な、何だと!? これは守備側になってしまったら、負けは絶対に許されない。俺の命を賭してでも勝たなくては」
「そうだな。何を失っても良いが、これだけは譲れねぇ。俺たちのアイデンティティじゃねぇかっ!」
「あぁ。俺たちは、俺たちのツバサちゃんを命懸けで守るんだっ! 絶対に怪我なんて負わせるんじゃねぇぞっ!」
あ、そうか。守備側になったらギルドマスター、つまり僕が相手から狙われるのか。
って、それってめちゃくちゃ怖いかも。大勢の人たちが押し寄せてきて、僕に襲いかかってくるんだよね? 目前にまで攻撃側ギルドのプレイヤーが迫ってきたら、早々に降参しても良い……よね?
「とは言っても、俺たちは未勝利ギルドだから、十中八九攻撃側になると思う。だけど、ツバサちゃん。万が一守備側になったとしても、俺たち全員が絶対にツバサちゃんを守ってみせるからね」
「うん。僕は皆を信じて、いっぱい応援するから」
不安な気持ちを吹き飛ばすかのように声を上げると、周りに居るオジサンたちの士気が一気に上がる。
大丈夫。ステータスウインドウで確認すると、昨日一気にレベルが上がったからか、早々に三次クラスへ転職した人が二人も居る。メンバーも増えて、三次クラスは合計四人だ。
ただ、どういう訳か全員前衛で、唯一の回復役であるアオイが部活で欠席しているけれど。
「って、しまった。少しでも歌っておかないと、いつまで経っても二次クラスになれないよ」
合計三時間以上誰かを支援しなければならないので、早速音楽スキルを使おうと思った所で、
『只今より、本日昼の部のGvG対戦組み合わせを発表いたします。対象ギルドの方々は、発表後にバトルフィールドへワープします』
突然システムメッセージが表示された。
「いよいよだな」
「腕が鳴るぜっ!」
「ツバサちゃん。僕が手を繋いであげ……痛っ!」
後ろの方で、誰かが蹴られていたような気もするけれど、一先ず僕たちのギルドが出てくるのを静かに待つ。
『森フィールドⅠ。守備側ギルド、エマちゃん推し。攻撃側ギルド、お漏らしペガサス』
「森フィールドなんてあるんだ。これだと、相手のギルドマスターを探すのは大変そうだね」
「そう思うだろ? だけど攻撃側が有利になるようにと、守備側のギルドマスターの居る方角が、常に視界へ表示されるんだ」
「えっ!? じゃあ、隠れる場所が多そうな森なのに、すぐ見つかっちゃうの!?」
「そういう事。隠れて時が過ぎるのを待つというのは難しいから、守備側はギルドマスターを連れてひたすら逃げるか、隊列を組んできっちり守る。もしくは、逆に攻撃側を殲滅していくかという戦略になるんだ」
なるほど。確かにこれは攻撃側が有利だ。
シュタインさんと話しながらメッセージを眺めていると、
『砦フィールド。守備側ギルド、聖母の癒し。攻撃側ギルド、天使護衛団』
僕たちのギルド名が表示されたのだった。




